静寂に包まれた赤い惑星では、時折突風(乱気流)が吹きすさぶ。史上初めて、人間の耳で聞こえる火星の音を録音することに成功したそうだ。
その音からは、地球よりも音が伝わる速度が遅いこと、また、2種類の音速があり、奇妙な遅延効果が生じていることが判明したそうだ。
このの音声は、2021年2月19日に火星に到着したNASAの探査車「パーシビアランス」に搭載された2本のマイクによって録音されたものだ。
5時間におよぶ音声の分析結果は『Nature』(2022年4月1日付)で発表された。
火星の乱気流 主執筆者であるフランス・トゥールーズ第3ポール・サバティエ大学のシルベストル・モーリス氏は、この音声から、これまで知られていなかった火星の乱気流が明らかになったと語る。
録音からは、風の音以外にも、小型ヘリコプター「インジェニュイティ」の飛行音や、岩石の成分を調査するレーザーが立てる「カチカチ」といった照射音も聞こえてくる。
「照射されるたびに、ターゲットから2~5メートルの範囲で、はっきり音源の場所を特定できました」とモーリス氏は話す。
以下の動画で火星の音を聞くことができる。
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NASA’s Perseverance Rover Captures Puff, Whir, Zap Sounds from Mars火星は地球より音が遅く、2つの速度が違う音がある 今回の研究では、火星で音が伝わる速度が地球よりも遅いことが初めて確認された。地球の音速は秒速340メートルだが、火星では秒速240メートルになる。
これは事前に予想されていた通りだ。火星の大気は、二酸化炭素が95%を占めているのに対して、地球は0.04%と100倍近くも薄い。これによる大気圧の差が、音速の違いにつながっている。
だが予想外の発見もあった。レーザーの音が1秒で250メートル移動したからだ。予想よりも10メートル速かったのだ。
「軽くパニックになりました」と、モーリス氏。「どちらかの計測結果が間違っているんだと、自分に言い聞かせました。地球では音速は1つしかありませんから」
ところが火星では音速が2種類あった。
そのため同じ距離なら、人間の耳には高音の方が先に聞こえてくる。
「地球では、オーケストラが奏でる音色は、高音だろうが低音だろうが、どれも同じタイミングで聞こえてきます。でも火星では違います。ステージから少し距離があれば、大きな遅れが生じるんです」
このおかげで、お互いに5メートルも離れていれば、人間同士の会話が難しくなるだろうという。
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パーシビアランスに設置されたスーパーカム機器。
「風を除けば、自然の音はほとんどありませんでした」と、研究グループは声明で述べている。
またパーシビアランスの金属タイヤが岩石に擦れたときの音も録音されていた。
地球のドライバーが異音で車の異常に気づくように、探査車が立てる音に異音が混ざっていれば、そこから異常を発見することができる。
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image credit:MASA
火星にマイクを持ち込むのは賭けだった モーリス氏によれば、火星にマイクを持ち込むのは「科学的な賭け」だったという。だが、彼はその賭けに見事勝利したようだ。
研究グループの一員であるパリ天文台のティエリー・フーシェ氏は、垂直に吹く風(対流プルーム)のような乱気流に耳を傾けることで、気候や天気を予測する数理モデルを改善できると話す。
今回の成功を受け、将来的に行われる「金星」や土星衛星「タイタン」でのミッションでも、マイクが持ち込まれるかもしれない。
そしてパーシビアランスの盗聴はまだまだ続く。
探査機自体はミッション期間が過ぎても動き続ける。キュリオシティなどは、とっくにミッションを終えているというのに、もう9年も火星暮らしを続けている。
References:First audio recorded on Mars reveals two speeds of sound / Perseverance records the first ever sounds from Mars / written by hiroching / edited by / parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
その音からは、地球よりも音が伝わる速度が遅いこと、また、2種類の音速があり、奇妙な遅延効果が生じていることが判明したそうだ。
このの音声は、2021年2月19日に火星に到着したNASAの探査車「パーシビアランス」に搭載された2本のマイクによって録音されたものだ。
5時間におよぶ音声の分析結果は『Nature』(2022年4月1日付)で発表された。
火星の乱気流 主執筆者であるフランス・トゥールーズ第3ポール・サバティエ大学のシルベストル・モーリス氏は、この音声から、これまで知られていなかった火星の乱気流が明らかになったと語る。
録音からは、風の音以外にも、小型ヘリコプター「インジェニュイティ」の飛行音や、岩石の成分を調査するレーザーが立てる「カチカチ」といった照射音も聞こえてくる。
「照射されるたびに、ターゲットから2~5メートルの範囲で、はっきり音源の場所を特定できました」とモーリス氏は話す。
以下の動画で火星の音を聞くことができる。
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NASA’s Perseverance Rover Captures Puff, Whir, Zap Sounds from Mars火星は地球より音が遅く、2つの速度が違う音がある 今回の研究では、火星で音が伝わる速度が地球よりも遅いことが初めて確認された。地球の音速は秒速340メートルだが、火星では秒速240メートルになる。
これは事前に予想されていた通りだ。火星の大気は、二酸化炭素が95%を占めているのに対して、地球は0.04%と100倍近くも薄い。これによる大気圧の差が、音速の違いにつながっている。
だが予想外の発見もあった。レーザーの音が1秒で250メートル移動したからだ。予想よりも10メートル速かったのだ。
「軽くパニックになりました」と、モーリス氏。「どちらかの計測結果が間違っているんだと、自分に言い聞かせました。地球では音速は1つしかありませんから」
ところが火星では音速が2種類あった。
レーザーの照射音が立てる高い音と、ヘリのローターが立てる低い音では、伝わる速度が違ったのである。
そのため同じ距離なら、人間の耳には高音の方が先に聞こえてくる。
「地球では、オーケストラが奏でる音色は、高音だろうが低音だろうが、どれも同じタイミングで聞こえてきます。でも火星では違います。ステージから少し距離があれば、大きな遅れが生じるんです」
このおかげで、お互いに5メートルも離れていれば、人間同士の会話が難しくなるだろうという。
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パーシビアランスに設置されたスーパーカム機器。
赤い矢印はマイクを示す。長さはわずか3.4cm、重さはわずか13gだ。 / image credit:cNASA、JPL-カリフォルニア工科大学● それ以外、火星は静寂に包まれていた。あまりにも静かすぎて、1999年と2008年に録音に失敗したときの悪夢が頭をよぎるほどだったという。
「風を除けば、自然の音はほとんどありませんでした」と、研究グループは声明で述べている。
またパーシビアランスの金属タイヤが岩石に擦れたときの音も録音されていた。
地球のドライバーが異音で車の異常に気づくように、探査車が立てる音に異音が混ざっていれば、そこから異常を発見することができる。
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image credit:MASA
火星にマイクを持ち込むのは賭けだった モーリス氏によれば、火星にマイクを持ち込むのは「科学的な賭け」だったという。だが、彼はその賭けに見事勝利したようだ。
研究グループの一員であるパリ天文台のティエリー・フーシェ氏は、垂直に吹く風(対流プルーム)のような乱気流に耳を傾けることで、気候や天気を予測する数理モデルを改善できると話す。
今回の成功を受け、将来的に行われる「金星」や土星衛星「タイタン」でのミッションでも、マイクが持ち込まれるかもしれない。
そしてパーシビアランスの盗聴はまだまだ続く。
それどころか、2年間の主要なミッションを終えてもずっと聞き耳を立て続けるのかもしれない。
探査機自体はミッション期間が過ぎても動き続ける。キュリオシティなどは、とっくにミッションを終えているというのに、もう9年も火星暮らしを続けている。
References:First audio recorded on Mars reveals two speeds of sound / Perseverance records the first ever sounds from Mars / written by hiroching / edited by / parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』