
グロテスクな体は遠目に見る分には柔らかそうに見える。だが、そんな印象とは裏腹に、肉食の環形動物「ブラッドワーム」は牙の一部が銅でできており、きわめて頑丈だ。
最新の研究では、このブラッドアームがどうやって金属の牙を生やすのか調査。その結果、材料科学を大きく飛躍させる可能性がある多機能タンパク質が発見されたそうだ。
銅の牙を持つ肉食ワーム ブラッドワームは、グリセラ属(Glycera)の環形動物で、「チロリ」と呼ばれることもある。
大きなものでは35センチにもなる細長い体を海底の泥の中に潜めては、金属製の牙で獲物を捕食する。牙には麻痺性の毒まで持っており、人間ですら噛まれれば痛い。
だがカリフォルニア大学サンタバーバラ校の生化学者ハーバート・ウェイト氏の関心は、神秘的なブラッドワームの生態そのものではない。
彼が知りたかったのは、その銅製のアゴと牙がどうやって作られているのかという点だ。
金属の牙は伊達ではない。主成分はタンパク質とメラニンだが、その1割は本物の銅でできている。
銅とメラニンが組み合わさることで、牙は優れた耐摩耗性を発揮し、5年の寿命の間ずっと長持ちしてくれる。
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銅とメラニンで出来たGlycera dibranchiataの牙 / image credit:Matter/Wonderly et. al.複合素材の牙を作り出す多機能タンパク質 ウェイト氏の最新の研究では、ブラッドワーム(Glycera dibranchiata)の解剖や細胞の培養を通じて、化学的に異なる素材をうまくまとめ上げる「構造タンパク質」の存在を突き止めている。
そのタンパク質を「マルチタスク・タンパク質」という。その機能は非常に効果的で、これをヒントに新しい素材製造プロセスを発明できるかもしれないという。
「グリシンとヒスチジンを主成分とするシンプルな構成のタンパク質が、これほど多機能で、関連性のない機能を発揮するとはまったく予想外でした」と、ウェイト氏は語る。
マルチタスク・タンパク質は、ブラッドワームが牙を生やす際にさまざまな化学的機能を発揮してくれる。
まず海の堆積物から手に入れた銅を結合させる。メラニンの形成を媒介してもくれる。タンパク質と銅とメラニンを組織化・加工し、アゴを組み立てるのもマルチタスク・タンパク質の役割だ。
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左:Glycera dibranchiataの口吻を反転させ、4本の牙を露出させた写真、右:Glycera dibranchiataの牙の走査電子顕微鏡画像(スケールバー:mm)。グリセラの顎の走査型電子顕微鏡像(スケールバー:0.5 mm) / image credit:Herbert Waite/CC BY-SA材料科学を進化させるヒント これほどの多機能ぶりは並大抵のことではない。人間が同じことをするなら、いろいろな機器を駆使しながら、さまざまな作業をこなさねばならない。
だが、もしもマルチタスク・タンパク質の機能を再現できれば、材料科学を大きく進歩させられるかもしれない。
「ブラッドワームのアゴ作りで見られるマルチタスク・タンパク質の協調の取れた働きは、高性能かつ持続可能な複合素材や混合高分子素材に必須となる処理技術のあり方を見直す素晴らしいチャンス」と、論文では述べられている。
マルチタスク・タンパク質の化学的なシンプルさと多機能性は、生物からヒントを得た素材や天然素材を加工する上で、大きな可能性を秘めているという。
口の中でこれほど多種多様な機能を進化させたブラッドワームは、案外努力家なのかもしれない。
「青銅やセラミックのように硬いアゴを持つワームがいます。彼らはそれを自動的にやってのけるのです」と、ウェイツ氏。
この研究は『Matter』(2022年4月25日付)に掲載された。
References:Scientists have discovered how bloodworms mak | EurekAlert!
/ written by hiroching / edited by / parumo
追記:(2022/05/10)本文を一部訂正して再送します。
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
最新の研究では、このブラッドアームがどうやって金属の牙を生やすのか調査。その結果、材料科学を大きく飛躍させる可能性がある多機能タンパク質が発見されたそうだ。
銅の牙を持つ肉食ワーム ブラッドワームは、グリセラ属(Glycera)の環形動物で、「チロリ」と呼ばれることもある。
大きなものでは35センチにもなる細長い体を海底の泥の中に潜めては、金属製の牙で獲物を捕食する。牙には麻痺性の毒まで持っており、人間ですら噛まれれば痛い。
だがカリフォルニア大学サンタバーバラ校の生化学者ハーバート・ウェイト氏の関心は、神秘的なブラッドワームの生態そのものではない。
彼が知りたかったのは、その銅製のアゴと牙がどうやって作られているのかという点だ。
金属の牙は伊達ではない。主成分はタンパク質とメラニンだが、その1割は本物の銅でできている。
銅とメラニンが組み合わさることで、牙は優れた耐摩耗性を発揮し、5年の寿命の間ずっと長持ちしてくれる。
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銅とメラニンで出来たGlycera dibranchiataの牙 / image credit:Matter/Wonderly et. al.複合素材の牙を作り出す多機能タンパク質 ウェイト氏の最新の研究では、ブラッドワーム(Glycera dibranchiata)の解剖や細胞の培養を通じて、化学的に異なる素材をうまくまとめ上げる「構造タンパク質」の存在を突き止めている。
そのタンパク質を「マルチタスク・タンパク質」という。その機能は非常に効果的で、これをヒントに新しい素材製造プロセスを発明できるかもしれないという。
「グリシンとヒスチジンを主成分とするシンプルな構成のタンパク質が、これほど多機能で、関連性のない機能を発揮するとはまったく予想外でした」と、ウェイト氏は語る。
マルチタスク・タンパク質は、ブラッドワームが牙を生やす際にさまざまな化学的機能を発揮してくれる。
まず海の堆積物から手に入れた銅を結合させる。メラニンの形成を媒介してもくれる。タンパク質と銅とメラニンを組織化・加工し、アゴを組み立てるのもマルチタスク・タンパク質の役割だ。
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左:Glycera dibranchiataの口吻を反転させ、4本の牙を露出させた写真、右:Glycera dibranchiataの牙の走査電子顕微鏡画像(スケールバー:mm)。グリセラの顎の走査型電子顕微鏡像(スケールバー:0.5 mm) / image credit:Herbert Waite/CC BY-SA材料科学を進化させるヒント これほどの多機能ぶりは並大抵のことではない。人間が同じことをするなら、いろいろな機器を駆使しながら、さまざまな作業をこなさねばならない。
だが、もしもマルチタスク・タンパク質の機能を再現できれば、材料科学を大きく進歩させられるかもしれない。
「ブラッドワームのアゴ作りで見られるマルチタスク・タンパク質の協調の取れた働きは、高性能かつ持続可能な複合素材や混合高分子素材に必須となる処理技術のあり方を見直す素晴らしいチャンス」と、論文では述べられている。
マルチタスク・タンパク質の化学的なシンプルさと多機能性は、生物からヒントを得た素材や天然素材を加工する上で、大きな可能性を秘めているという。
口の中でこれほど多種多様な機能を進化させたブラッドワームは、案外努力家なのかもしれない。
そう思えば、恐ろしげな姿もどことなく頼もしく見えてくる。
「青銅やセラミックのように硬いアゴを持つワームがいます。彼らはそれを自動的にやってのけるのです」と、ウェイツ氏。
この研究は『Matter』(2022年4月25日付)に掲載された。
References:Scientists have discovered how bloodworms mak | EurekAlert!
/ written by hiroching / edited by / parumo
追記:(2022/05/10)本文を一部訂正して再送します。
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』
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