自分の力で増殖できないウイルスは、動植物の生きた細胞に潜り込んで、細胞を破壊しながら自分の設計図のコピーを大量に作って増殖していく。
これが病気を引き起こすウイルスともなると、やっかいな存在なのだが、そんなウイルスを逆にムシャムシャ食べて繁殖する頼もしい生物がいることが明らかとなった。
池の中に生息する「ハルテリア」と呼ばれる微生物は、全体でなんと100兆~1京ものウイルスを1日で食べてしまうという。
この微生物は史上初めて発見されたウイルスだけを食べる「ウイルス食生物」だが、同じような仲間はほかにもいるかもしれないという。
生物の細胞を乗っ取り増殖するウイルス 簡単に言うと、ウイルスとは極小のパッケージに遺伝子情報の設計図を詰めたものだ。だが、その設計図を組み立てるための材料や設備はもっていないので自分の力だけでは増殖することができない。
そこで設備を持っている生物の細胞を乗っ取って、細胞が持っている遺伝子材料やタンパク質を利用して増殖するのだ。
このように自力で増殖できないことから、ウイルスを生物と見なすべきかどうかで、研究者の間では今も議論が交わされている。
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photo by Unsplash
ウイルスを餌にして食べていた微生物「ハルテリア」 米ネブラスカ大学リンカーン校の研究チームは、ウイルスの一種で淡水の緑藻類に感染する「クロロウイルス」を調べていた。
その中で、「水中に生息する生物の中にはウイルスをエネルギー源として利用しているものがいるのではないか?」と疑うようになった。
そこで池の水を採取し、そこにさまざまな微生物を入れ、さらに大量のクロロウイルスも投入してみることにした。
すると「ハルテリア」という鞭毛虫がクロロウィルスを食べているらしいことが判明したのだ。
ハルテリアを入れた水のウイルスが減っただけでなく、ハルテリア自身の数も増えていた。一方、クロロウィルスがいないところでは、ハルテリアが増殖することもなかった。
つまりハルテリアがウイルスをエネルギー源にしているだろうことがうかがえるのだ。
蛍光染料でDNAにマークをつけたクロロウィルスで試してみると、ハルテリアの胃袋が光るところもはっきり確認できたという。ハルテリアはまさしくウイルスを餌にしているのだ。
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少毛類に属する繊毛虫、ハルテリア / image credit:Proyecto Agua (CC BY-NC-SA 2.0)ウイルスだけを食べる生物の発見は史上初 微生物ががウイルスを食べるように進化したことは、それほど驚きではないかもしれない。
だが研究チームが知る限りでは、ウイルスだけを食べて生きている微生物がいることを証明したのは今回の研究が初めてであるそうだ。
ハルテリアはかなり大食いであるようだ。
筆頭著者のジョン・デロング准教授は、ウイルスは「核酸、大量の窒素とリンなど、本当に良い素材でできています」「生物ならぜひ食べてみたいに違いありません」と、プレスリリースで説明する。
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顕微鏡で見るハルテリア グランディネラ地球上の炭素循環に大きな影響を与えている可能性 これはただ興味深いだけでなく、重要な意味を持つかもしれない。というのも、これらのウイルスは重要な役割を果たしていることがすでに知られているからだ。
淡水の中で炭素などの栄養を再利用し、そこから得られるエネルギーが大きな生物に流出しないよう防いでいるのだ。
だが、もしもそうしたウイルスを食べた生物がより大きな生物に食べられることでウイルスもまた食べられるのだとしたら、再利用されるはずだった栄養やエネルギーの一部が、より上位の食物連鎖に移ることになるかもしれない。
「もし、こうしたことが私たちが想像するような規模で起きているのであれば、地球上の炭素循環に関する見方はがらりと変わるでしょう」と、デロング准教授は言う。
なお、その後の調査でほかにも「ウイルス食」をするらしき微生物が見つかっている。
ただし、さまざまな生物がウイルスを餌にできるのだとしても、それが自然界の日常であるかどうかはまだわからない。
こうした点や、ウイルス食が周辺の環境に与える影響などは今後の研究テーマであるそうだ。
この研究は『PNAS』(2022年12月27日付)に掲載された。
追記:(2023/01/08)本文を一部訂正して再送します。
References:Eating viruses can power growth, reproduction of microorganism | Nebraska Today | University of Nebraska–Lincoln / Eating viruses can power growth, reproduction | EurekAlert! / written by hiroching / edited by / parumo
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これが病気を引き起こすウイルスともなると、やっかいな存在なのだが、そんなウイルスを逆にムシャムシャ食べて繁殖する頼もしい生物がいることが明らかとなった。
池の中に生息する「ハルテリア」と呼ばれる微生物は、全体でなんと100兆~1京ものウイルスを1日で食べてしまうという。
この微生物は史上初めて発見されたウイルスだけを食べる「ウイルス食生物」だが、同じような仲間はほかにもいるかもしれないという。
生物の細胞を乗っ取り増殖するウイルス 簡単に言うと、ウイルスとは極小のパッケージに遺伝子情報の設計図を詰めたものだ。だが、その設計図を組み立てるための材料や設備はもっていないので自分の力だけでは増殖することができない。
そこで設備を持っている生物の細胞を乗っ取って、細胞が持っている遺伝子材料やタンパク質を利用して増殖するのだ。
このように自力で増殖できないことから、ウイルスを生物と見なすべきかどうかで、研究者の間では今も議論が交わされている。
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ウイルスを餌にして食べていた微生物「ハルテリア」 米ネブラスカ大学リンカーン校の研究チームは、ウイルスの一種で淡水の緑藻類に感染する「クロロウイルス」を調べていた。
その中で、「水中に生息する生物の中にはウイルスをエネルギー源として利用しているものがいるのではないか?」と疑うようになった。
そこで池の水を採取し、そこにさまざまな微生物を入れ、さらに大量のクロロウイルスも投入してみることにした。
すると「ハルテリア」という鞭毛虫がクロロウィルスを食べているらしいことが判明したのだ。
ハルテリアを入れた水のウイルスが減っただけでなく、ハルテリア自身の数も増えていた。一方、クロロウィルスがいないところでは、ハルテリアが増殖することもなかった。
つまりハルテリアがウイルスをエネルギー源にしているだろうことがうかがえるのだ。
蛍光染料でDNAにマークをつけたクロロウィルスで試してみると、ハルテリアの胃袋が光るところもはっきり確認できたという。ハルテリアはまさしくウイルスを餌にしているのだ。
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少毛類に属する繊毛虫、ハルテリア / image credit:Proyecto Agua (CC BY-NC-SA 2.0)ウイルスだけを食べる生物の発見は史上初 微生物ががウイルスを食べるように進化したことは、それほど驚きではないかもしれない。
だが研究チームが知る限りでは、ウイルスだけを食べて生きている微生物がいることを証明したのは今回の研究が初めてであるそうだ。
ハルテリアはかなり大食いであるようだ。
研究チームの推定によると、ハルテリア1匹で1日に1万~100万のウイルスを食べられるという。小さな池に生息するハルテリア全体なら、その数は100兆~1京にも達する。
筆頭著者のジョン・デロング准教授は、ウイルスは「核酸、大量の窒素とリンなど、本当に良い素材でできています」「生物ならぜひ食べてみたいに違いありません」と、プレスリリースで説明する。
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顕微鏡で見るハルテリア グランディネラ地球上の炭素循環に大きな影響を与えている可能性 これはただ興味深いだけでなく、重要な意味を持つかもしれない。というのも、これらのウイルスは重要な役割を果たしていることがすでに知られているからだ。
淡水の中で炭素などの栄養を再利用し、そこから得られるエネルギーが大きな生物に流出しないよう防いでいるのだ。
だが、もしもそうしたウイルスを食べた生物がより大きな生物に食べられることでウイルスもまた食べられるのだとしたら、再利用されるはずだった栄養やエネルギーの一部が、より上位の食物連鎖に移ることになるかもしれない。
「もし、こうしたことが私たちが想像するような規模で起きているのであれば、地球上の炭素循環に関する見方はがらりと変わるでしょう」と、デロング准教授は言う。
なお、その後の調査でほかにも「ウイルス食」をするらしき微生物が見つかっている。
ただし、さまざまな生物がウイルスを餌にできるのだとしても、それが自然界の日常であるかどうかはまだわからない。
こうした点や、ウイルス食が周辺の環境に与える影響などは今後の研究テーマであるそうだ。
この研究は『PNAS』(2022年12月27日付)に掲載された。
追記:(2023/01/08)本文を一部訂正して再送します。
References:Eating viruses can power growth, reproduction of microorganism | Nebraska Today | University of Nebraska–Lincoln / Eating viruses can power growth, reproduction | EurekAlert! / written by hiroching / edited by / parumo
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