国際宇宙ステーションで人間のiPS細胞を利用した立体的「ミニ脳」を作る実験が始まる
 地球上では難しい、3次元的な形状の「ミニ脳」の形成が国際宇宙ステーションで始まろうとしている。8月1日に打ち上げが予定されているロケットには、人間の由来の「iPS細胞」が積まれた。


 iPS細胞は、細胞を培養して人工的に作られた多能性の幹細胞(人工多能性幹細胞)で、どんな細胞にも成長できる超マルチな才能を持った細胞のことだ。

 ISS国立研究所のチームは、宇宙の微重力を上手に利用することで、iPS細胞を球状のミニ脳「脳スフェロイド」に育て上げ、未来の医療である遺伝子治療の実験を行う予定であるそうだ。

ヒトのiPS細胞を培養したミニ脳の有用性 8月に宇宙に打ち上げられる予定のiPS細胞は、人間の皮膚細胞から作られたものだ。

 国際宇宙ステーション(ISS)の実験室に持ち込まれたあとは、脳を構成している「神経細胞」「ミクログリア(小膠細胞)」「アストロサイト(星状膠細胞)」に成長するよう誘導される。

 これら3つの細胞は一緒に成長して、「スフェロイド」という細胞同士が凝集して塊になった小さな球状の組織となる。

 それはまさに人間の脳のミニチュアのようなもので、脳の病気や薬の働きなどを調べるモデルになってくれる。


 これまで病気や薬を調べるためには、実験動物が使われてきた。だが、人間の病気や薬を調べるのだから、動物ではなく人間で調べたほうが良い結果につながる。

 だが多くの国において非倫理的な人体実験は許されていない。そのため、スフェロイドやもっと複雑な脳オルガノイド中には視覚をもつものまである)といった技術が開発され、人間の組織を使った実験が可能になってきたのだ。

 実際、アメリカの食品医薬品局FDAは、新薬の開発でこれまでは義務としていた臨床試験前の動物実験を撤回しているくらいだ。

[画像を見る]

photo by iStock
低重力の宇宙空間なら理想的な立体的ミニ脳の育成が可能に 今回iPS細胞をわざわざISSにまで持ち運ぶのは、重力が強い地球上ではスフェロイドを理想的な3D形状に成長させることが難しいためだ。


 そこでISSの微小重力下で、脳スフェロイドがどのように成長するのか試してみる。これが今回の実験の大きな目的の一つだ。

 さらに成長した脳スフェロイドで、遺伝子治療の実験も行われる予定だ。

 この治療は神経細胞だけに作用するよう考案されたものなのだが、その狙い通りに薬が神経細胞だけに届くのかどうかが確かめられるという。

[動画を見る]

Science on Northrop Grumman's CRS-19 Mission to the Space Station

 iPS細胞の打ち上げは、8月1日午後8時31分(東部夏時間)が予定されている。

 打ち上げはNASAと提携するノースロップ・グラマン社が担当し、バージニア州ワロップス飛行施設からISSへとロケットが飛び立つことになる。


 なお、このとき運ばれる貨物にはiPS細胞のほか、宇宙での消化活動や大気モニタリング関連の機材、さらには学生が作成したデジタルアートなども含まれているそうだ。

References:19th Northrop Grumman Mission Carries Experiments to Station | NASA / Spherical 'minibrains' to be grown on the International Space Station | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo

画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。