イギリスで聖人が隠遁していた1300年前の神聖な場所を発見
 英国東部リンカシャー州クロウランドで、何世紀も崇められてきた聖人が隠遁生活を送ったとされる神聖な場所が発掘された。

 その聖人とは714年に亡くなった修道士、聖ガスラックだ。
貴族の息子だったが、自ら裕福な生活を捨てて禁欲的な生涯を送ったことで知られている。

 死後1年たっても遺体が腐敗していなかったことから、聖人として崇められるようになり、数世紀のちに彼を讃えるクロウランド修道院が建設される大きな要因となった。

 ガスラックが清貧生活を送った住まいは埋葬塚のような場所に築かれたとされているが、正確な場所は謎に包まれ、伝説となっていた。

これまで知られていなかった古代の環状遺跡を発見 英シェフィールド大学の専門家たちによるこの遺跡の発掘で、これまで知られていなかった新石器時代後期あるいは青銅器時代初期にさかのぼるヘンジ(環状遺跡)が発見された。

 これは円形の土塁で、英国東部で発見された中でも最大のもののひとつだ。

 その大きさと位置から、このヘンジはこの周辺でとても目立ち、儀式活動のための主要な場所としてうってつけだったことがうかがえる。


 8世紀当時、クロウランドは三方を湿地に囲まれた半島のような地形だったと考えられ、この遺跡は沼地から突き出すように際立っていた。

[画像を見る]

空から見たクロウランド遺跡の発掘現場 / image credit:The Anchor Church Field Project8世紀から再び人が利用するようになった古代のヘンジ 聖ガスラックのような隠者の目には、この場所が長く神聖な過去をもつ特別な景観として映ったことだろう。

 このヘンジは何世紀も放置されていたようだが、再び人が住むようになったのは、ガスラックが生きていた8世紀頃で、発掘で陶器、骨で作った2本の櫛、高貴な者が使うガラスの破片など大量の遺物が発見された。

[画像を見る]

クロウランドで発見された骨製の櫛の1つ / image credit:The Anchor Church Field Project
先史時代の多くの遺物が、アングロサクソン人によって再利用されていたことはわかっていますが、これまで未知だった遺跡の使用状況がわかるのは非常に珍しいことです
 ニューカッスル大学中世考古学のダンカン・ライト博士は述べている。
私たちが発見したアングロサクソンの遺物を必ずしもガスラックと結びつけることはできませんが、この時期と中世後期にこの場所が使われていたという事実は、クロウランドが数千年にわたるさまざまな時期に神聖な場所であったという考えに重みを与えます
 発掘調査で明らかになったもっとも大きな特徴は、隠者をこの場所で崇めるためにクロウランド修道院長によって建設された12世紀の大きなホールと礼拝堂だろう。

 ホールはここを訪れた高い身分の巡礼者たちのための宿泊施設だったと思われ、礼拝堂はガスラックの妹で、彼女自身も重要な隠者だった聖ペガを祀るものだとされている。


 礼拝堂は15世紀には廃墟になったと記録されていて、宗教改革の頃、巡礼への関心が薄れるにつれてこの場所の人気が廃れたのではないかという。

[画像を見る]

現在は廃墟となったクロウランド修道院 / image credit:iStockこのヘンジで聖ガスラックが隠遁生活を送っていた可能性 このホールと礼拝堂の真正面で、石で囲まれた直径1メートルほどの穴が発見された。

 19世紀にここが発見されたときは井戸だと考えられていたが、今回の発掘でわかったことから、この穴は旗柱の穴、つまり大きな十字架を建てた場所ではないかという説がより現実味を帯びてくるという。

 12世紀以降、クロウランド周辺の湿地帯の水が干上がり始め、このあたりの地形が変わった。

 アンカー・チャーチ・フィールド周辺はこの時期から農耕が盛んになり、ホールや礼拝堂はその高貴な機能を失っていった。

 しかし、長い年月の間にこの場所の用途が変わっていったとはいえ、比較的最近までその神聖さは静かに保たれていたようだ。


 18世紀の文書には、ホール跡に家を建てた主が日曜ごとに裏庭でひざまずいて祈りを捧げ、隠者たちを崇め続けたという記録がある。

「私たちが発見した考古学的証拠や史料を調べてみると、アンカー・チャーチ・フィールドはのちの時代になっても崇拝のための特別な場所だとみなされていたことは明らかです」シェフィールド大学のヒュー・ウィルモット博士は言う。

「聖ガスラックと聖ベガは、英国の初期キリスト教史において非常に重要な人物でした。ですから、歴史的に重要な遺跡の年代記がわかったことは、非常に心躍ることなのです」

References:Crowland - Press Office - Newcastle University / written by konohazuku / edited by / parumo

画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。