2026年の夏、スコットランド北部の川を、男性が友人たちとカヌーで下っていたところ、川岸にいた動物が水に飛び込み、カヌーの前をすいすいと泳ぎ始めた。
男性らは水面から出た縞模様の尻尾や体つきを見て最初はイエネコかと思ったが、猫にしては泳ぎがうまい。
よく見ると首にはGPSが付いた首輪が装着されていた。
なんと、川を泳いで渡っていたのは、絶滅が危惧されているスコットランドヤマネコだったのだ。
保護プロジェクトの管理するGPSの記録から川を横断している可能性は考えられていたものの、実際に泳ぐ姿がスコットランドで撮影されたのは、今回が初めてだという。
カヌーの前をすいすいと泳いで横切ったネコらしき動物
2026年の夏、クレイグ・ポーターさんは、友人たちとスコットランド北部のケアンゴームズ国立公園を流れるスペイ川をカヌーで下っていた。
下流の川岸には、もふもふの動物が立っていた。その動物はためらうことなく川に入ると、そのまま深い川をすいすいと泳ぎ始めた。
水面からは、とがった耳と縞模様の尻尾が出ていて、トラ柄のイエネコのように見えたという。
動物がカヌーの近くを横切ったとき、ポーターさんたちは、動物が大きな首輪をつけていることに気づいた。
スコットランドでは、スコットランド王立動物園協会が率いる「セービング・ワイルドキャッツ(Saving Wildcats)[https://www.savingwildcats.org.uk/]」という再導入プロジェクトが実施されている。
絶滅が危惧され、保護対象となっているスコットランドヤマネコにGPSと無線発信機を備えた首輪を装着し、一頭ずつ居場所や行動を追跡している。
ポーターさんが目撃した泳いでいるネコは、スコットランドヤマネコだったのだ。
ポーターさんが撮影した映像をセービング・ワイルドキャッツが確認したところ、この個体は、「サリー(Sully)」という名のメスであることが判明した。
太い尻尾を水面に出したまま泳いでいた
ポーターさんが撮影した映像には、サリーが四肢で水をかきながら、すいすいと流れを泳ぐ姿がしっかりと記録されていた。
その間、縞模様の太い尻尾は水面より高く保たれ、対岸に着いた後も濡れていなかった。
ポーターさんたちは、そのことに驚いたという。
なぜサリーが尻尾を水面に出していたのかは明らかにされていない。
スコットランドヤマネコに共通する泳ぎ方なのか、サリーだけに見られた行動なのかも分かっていない。
なぜなら、セービング・ワイルドキャッツプロジェクトでは、これまで実際にスコットランドヤマネコが泳ぐ姿の映像の記録がないからだ。
イギリスに生息する唯一の野生のネコ科
スコットランドヤマネコは、スコットランドに生息するヨーロッパヤマネコの個体群である。
かつてはイギリス本土の広い範囲で見られたが、現在はスコットランドの一部にしか残っておらず、イギリスで野生に生息する唯一のヤマネコであり絶滅が危惧されている。
スコットランドヤマネコはキジトラ柄のイエネコによく似ているが、尻尾に特徴がある。少し短く、太くてふさふさしており、先端が黒い。
尻尾には、はっきりとした黒い輪の模様も入っている。
2023年3月、スコットランド政府の自然保護機関「ネイチャースコット」は、ヤマネコをケアンゴームズ国立公園に再導入する計画を承認した。
同年、セービング・ワイルドキャッツは、飼育下で繁殖させた個体を野生に放ち始めた。
2023年から2025年までの3年間に、セービング・ワイルドキャッツは合計46頭のヤマネコをケアンゴームズ国立公園に放した。
サリーもそのうちの1頭で、2022年に飼育下で生まれ、再導入計画によって野生に放された個体である。
2025年には、野生で子どもを産んだことも確認されている。
スコットランドヤマネコが泳ぐ姿の映像は極めて希少
再導入されたヤマネコのGPSと無線発信機には、川を横断したと考えられる移動記録が何度も残されていたが、実際に泳いでいる姿はこれまで一度も確認できなかった。
ところが偶然スペイ川を下っていたポーターさんが、その姿を目撃し、撮影できたのだ。
ポーターさんの映像により、スコットランドヤマネコが実際に川を泳いで渡っていることが裏づけられた。
セービング・ワイルドキャッツによると、スコットランドでヤマネコが泳ぐ姿を映像に収めた例は、把握している限り今回が初めてだという。
絶滅寸前まで追い込まれたスコットランドヤマネコは、保護活動によって再び野生で子を産み、自らの力で川を渡り始めている。
ポーターさんたちが偶然撮影した短い映像は、これまで知られていなかったスコットランドヤマネコの行動を知るための貴重な記録となった。
イギリスでのスコットランドヤマネコ再導入の取り組み
スコットランドヤマネコの個体数が減少した背景には、害獣とみなされて捕獲や駆除の対象となった歴史、生息地の消失、人間の人口増加、農業の大規模化や集約化、森林伐採など、複数の原因がある。
数が減ったヤマネコには、さらに深刻な問題が起きた。野生化したイエネコと子をつくるようになったのだ。
もとをたどれば同じ仲間なので、スコットランドヤマネコと飼い猫の間には子どもが生まれる。
交雑が世代を超えて繰り返されると、スコットランドヤマネコ特有の遺伝的な特徴を持つ個体が減っていく。
2010年から2013年に行われた自動撮影カメラによる調査では、スコットランドに生息するヤマネコは115頭から314頭と推定された。
ただし、イエネコとの交雑個体を見分けるのが難しいため、正確な個体数は現在も分かっていない。
2019年、国際自然保護連合(IUCN)のネコ科専門家グループは、スコットランドに残るヤマネコの個体群は、保護対策を行わなければ存続できない状態にあると判断した。
絶滅を防ぐには、飼育下で繁殖させたヤマネコを野生に戻し、個体数を増やす必要があるとの結論に至り、現在積極的な再導入計画が進められている。
References: Wildcat phenomenon recorded for 'first time' in Scotland | The National[https://www.thenational.scot/news/26477248.wildcat-phenomenon-recorded-first-time-scotland/] / Friends Out Canoeing See A Striped Tail And Realize A Rare Scottish ‘Tiger’ Is Swimming - The Dodo[https://www.thedodo.com/daily-dodo/friends-out-canoeing-see-a-striped-tail-and-realize-a-rare-scottish-tiger-is-swimming]











