数々のアーティストや作品の音楽に携わるサウンドクリエイター・高橋 諒が、自身の音楽を追求するべく立ち上げたプロジェクト・Void_Chords。スタイリッシュな音楽性でアニメ音楽シーンにおいて注目を集める同プロジェクトが、9月11日に生配信ライブ“『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』× Void_Chords Acoustic Live”を開催。
アニメ『プリンセス・プリンシパル』にまつわる楽曲たちを新たなアレンジで披露し、同作品およびVoid_Chordsの音楽的な魅力を伝える特別な一夜となった。

『プリンセス・プリンシパル』といえば、2017年にTV放送され、スチームパンク的な世界観とスパイを題材にした骨太なストーリーで話題を呼んだ作品。梶浦由記による劇伴、Void_Chordsが担当したOPテーマ「The Other Side of the Wall」、高橋が楽曲提供したキャラクターソングなど、作品の舞台モデルとなったロンドンおよびUKやスパイ音楽の要素を採り入れた楽曲も人気を集め、2019年10月には梶浦由記とVoid_Chordsによるスペシャルライブ“プリンセス・プリンシパル THE LIVE Yuki Kajiura×Void_Chords”が行われた。

今回のVoid_Chordsのライブには、その2年前の公演にも参加したバンドメンバーが再集結。ベースの高橋 諒、ギターの北島優一、ドラムスの北村 望、ピアノの吹野クワガタ、サックスの才恵加(saeka)、そしてボーカルには『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』のOP主題歌「LIES & TIES」でもフィーチャリングボーカリストを務めるYui Muginoを迎え、全楽曲を英語詞バージョンによる、ライブならではの特別アレンジで披露した。

この日の会場に選ばれたのは、レトロかつゴージャスな内装と独特の空気感をもったコンサートホールとして知られる、東京キネマ倶楽部。
本来は有観客公演を予定していたが、コロナ禍による昨今の状況を受けて、無観客での生配信ライブとして行われることになった。だが、映像演出やカメラワークなどを含めオンラインライブならではの工夫が凝らされ、客席での観覧では味わえないような臨場感や特別感が、今回のライブでは体験できたように思う。

ライブは「LIES & TIES」からスタート。原曲はストリングスなども導入したゴージャスなフュージョン調のアップチューンだが、今回はややテンポを落とし、よりジャジーさが引き立つアレンジに。黒のチューブトップに赤のジャケットを合わせた、フォーマルかつセクシーな出で立ちのMuginoは、ステージ中央に置かれたマイクスタンドの前に立ち、パワフルな歌声を響かせる。これはライブ全編に通じる印象だが、高橋が弾く6弦ベースのグルーヴィーなリフを始め、楽器隊の各プレイヤーによる演奏も、小編成なだけにそれぞれの音がはっきりかつ粒立ち良く聴こえる。


続いてMuginoが「皆さんこんばんは、一緒に楽しんでね」と挨拶すると、「Take Me Up Higher」へ。青紫系の照明がステージを彩るなか、彼女はアシッドジャズ風のクールなサウンドに身を委ねながら、エモーショナルな裏声を交えた優雅なボーカルで楽曲をさらなる高み(ハイヤー)へと誘う。高橋の「今日だけのスペシャルな夜にできれば」という挨拶を挿みつつ、次曲「Under the Moonlight」では雨が降っているような映像効果によりムーディーな雰囲気を醸成。ピアノのロマンチックな響き、ドラムのブラシ演奏による柔らかなリズム、ピアノ~ベース~サックスと続いた各ソロパート、それに合わせてスキャットを披露するMuginoと、ジャズクラブさながらのパフォーマンスで、まるでスタンダードの名曲を聴いているような気分になる。

ソウルフルなアレンジが光った「Drive My Fate」では、サビの開放的なパートでMuginoが手を上げて左右に振りながら「皆さん一緒に!」と呼びかけ、画面を通して一体感を演出。「リトルブレイバー」はアコギの音が目立つフォーキーソウルな曲調に変貌。
その風通しの良いサウンドと緑がかった照明とが相まって、まるで高原を散策しているような心地良さだ。その直後のMCで高橋が今回のライブのアレンジについて、「温かいアレンジ、小編成でエッセンシャルな感じ」を意識したと語っていたが、そういった要素がこの楽曲には特に息づいていたのではないだろうか。

そして高橋自身が「この曲が一番アレンジが変化したと思います」と前置きしたうえで披露されたのが、チセのキャラソン「閃光刀歌」。原曲はUK発祥のクラブミュージック、ドラムンベースのリズムと和のエッセンスが融合した楽曲だったが、この日の「閃光刀歌」は、そこからテンポをだいぶ落とした哀愁漂うアレンジに。Muginoの頭上に大きな満月が映し出される映像演出も含め、全体的にシックな雰囲気で、サビで歌とユニゾンするサックスの音色がブルーなムードをさらに強調する。まったく新しい、そしてとても味わい深い「閃光刀歌」になっていた。


「Gratitude」は原曲の牧歌的な雰囲気を踏襲しつつ、アコースティックな要素がより前面に出たフォーク~カントリー系のアーシーなサウンドに。TV版のOPテーマ「The Other Side of the Wall」は、レゲエっぽい後ノリのビート、ベースとピアノのミニマルなフレーズがどこか無機質なクールさを醸し出しつつ、サビで一気にエモーショナルに色づくドラマチックな構成に。終盤でリズムがさらに力強く変化するなど、大胆かつ緻密で遊びの効いたアレンジに思わず唸らされたし、気づいたら身を揺らしながら聴いていた。

続くMCでは高橋が、このライブのために制作したグッズ(ショットグラス、マルチトレイ、ピックキーホルダーなど)を紹介。こちらは通販を実施中なので、詳しくはアニメの公式サイト(https://pripri-anime.jp/)をチェックしてほしい。そしてライブはプリンセスのキャラソン「Into the Sky」へ。
アコギのしっとりとしたイントロから、リズムが加わると雰囲気が一変。キャロル・キングやローラ・ニーロといった70年代のシンガーソングライター作品に通じる芳醇なサウンドと耳に残るメロディ、Muginoの朗々とした歌声が胸に響き渡る名演だった。

「Around the Twilight」では、星空に浮かんでいるような映像演出が施される。楽曲が進むにつれて景色が移り変わっていくようなアレンジ、徐々に希望の光を見出していくような構成と歌唱表現も実に素晴らしい。そして高橋の「早いもので次が最後の曲になります、ありがとうございました」という挨拶に続き演奏されたのが、『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』のED主題歌「Nowhere Land」。ブリティッシュフォークを思わすアコギのイントロが柔らかな空気を呼び込むなか、天井からに吊り下げられたシャンデリアが灯り、温かな光をステージに投げかける。
終盤のドリーミーなメロディを、Muginoは大らかに歌い上げてライブ本編を締め括った。

そしてアンコールの1曲目「A Page of My Story」は、オンラインだからこそできるお洒落な演出でスタート。東京キネマ倶楽部は、メインステージの下手にある階段を上がったところにサブステージがあるのだが、この曲ではカメラが階段を上がっていくところから始まり、サブステージで椅子に座りながらパフォーマンスするMugino、吹野、才恵加をそれぞれ寄りでなめるように映して見せるスタイルに。ジャズバラード的なアレンジに生まれ変わった「A Page of My Story」を臨場感たっぷりに味わえる、小粋な演出だった。

この三人編成での「A Page of My Story」をやるのが、2年前のライブのときから念願だったという高橋は、「ちょっとウルッときました」と感想を漏らす。続けて「『プリンセス・プリンシパル』では色んな曲を書かせていただきましたけど、あと1曲、楽しい曲が残っているので、最後にこれを楽しく演奏して終わりたいと思います」と語り、この日のラストナンバー「Shoot Your Heart Out!」へ。Muginoも「周りの住人に迷惑にならない程度にノリノリでついてきていただけたら」と煽り、ご機嫌なリズム&ブルースへとなだれ込む。リズムを強調したホンキートンクなピアノ、豪快にブロウするサックス、唸るベースラインと力強くドライブするドラム、軽快なアコギ、そしてMuginoのパワフル極まりないボーカル。パンチの効ききまくったステージングで、“『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』× Void_Chords Acoustic Live”は大団円を迎えた。

筆者は2年前のスペシャルライブ“プリンセス・プリンシパル THE LIVE Yuki Kajiura×Void_Chords”も現場で観覧したのだが、今回のライブはそのときともまた違った角度から『プリンセス・プリンシパル』の楽曲が持っているポテンシャルと音楽的なこだわりの深さに気づかせてくれた。そしてこれらの楽曲を制作し、ライブごとにアレンジを変えて新しいことに挑戦する、高橋 諒という音楽家の才能と引き出しの多彩さに改めて驚かされた。高橋およびVoid_Chordsと『プリンセス・プリンシパル』の音楽的冒険が今後も続くことを期待したい。

TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
PHOTO BY 佐藤 薫

“『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』× Void_Chords Acoustic Live”セットリスト

M01. LIES & TIES
M02. Take Me Up Higher
M03. Under the Moonlight
M04. Drive My Fate
M05. リトルブレイバー
M06. 閃光刀歌
M07. Gratitude
M08. The Other Side of the Wall
M10. Into the Sky
M11. Around the Twilight
M12. Nowhere Land
EN.1. A Page of My Story
EN.2. Shoot Your Heart Out!

■出演:Void_Chords feat.Yui Mugino
<MEMBER>
Bass:高橋 諒
Guitar:北島優一
Drums:北村 望
Piano:吹野クワガタ
Sax:才恵加(saeka)
Vo:Yui Mugino

●ライブ情報
“『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』× Void_Chords Acoustic Live”
開催日:9月11日

<配信サイト/イープラス(Streaming+)>
チケット料金:配信視聴チケット ¥3,800(税込)
販売期間:発売中~2021年9月18日(土)21:00
受付URL:https://eplus.jp/sf/detail/3473230002-P0030002?P6=001&P1=0402&P59=1

<アーカイブ配信>
2021年9月18日(土)23:59まで
※ご視聴途中でも、視聴可能期間が終了次第、アーカイブ配信は終了となります。時間に余裕を持ってご視聴ください。
※その他、視聴方法や配信に関する注意事項は受付画面よりご確認ください。

関連リンク
『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』公式サイト
https://pripri-anime.jp/

Void_Chords Lantis web site
https://www.lantis.jp/artist/Void_Chords/