幼少期に民謡を始め、10代からはシンガーソングライターとして活動し、“FUJI ROCK FESTIVAL”への出演経験も持つ熊川みゆの音楽プロジェクト・Myuk。Eveの提供によるTVアニメ『約束のネバーランド』Season 2 のEDテーマ「魔法」を表題にしたシングルでメジャーデビューをしてから様々なクリエイターやタイアップ作品とタッグを組み音源をリリースしてきた。


その彼女が最新曲で制作を共にしたのは、ボーカロイドクリエイター/シンガーソングライターとして活動するGuiano。彼が作詞・作曲・編曲を手がけた「愛の唄」は、Myukがこの1年間抱え続けてきた思いを楽曲へと落とし込んだ、爽やかかつエッジの効いたポップソングに仕上がった。同い年で、早くから音楽活動を始めているという共通点を持つ二人は、どのような経緯で「愛の唄」を完成させたのだろうか。

INTERVIEW & TEXT BY 沖さやこ

愛しているからこその葛藤――「愛の唄」が解き放つ音楽活動ヘの想い
――Myukさんは2021年1月にこの名義でメジャーデビューしてから、アニメやドラマなどのタイアップソングを様々なクリエイターさんと制作なさっていますよね。この2年半の経験はどのようなものになっていますか?

Myuk この名義でデビューするまではシンガーソングライターとして活動していたので、「色んなクリエイターさんと一緒に制作させていただくのはこんなに楽しいんだ!」という発見がありました。だからこそ、自分の歌と声でどれだけクリエイターさんの世界観や、タイアップ作品の世界観を表現できるかに1つ1つ取り組んでいくことができました。
歌の奥深さを感じながら成長できている感覚があります。

――そのなかで「Myukとして発信したい音楽」にはどのようなイメージを描いているのでしょうか。

Myuk Myukという名前には「優しい音楽、柔らかい音楽を届ける」という意味が込められているんですけど、それを表現するためには、その裏にある人に見せたくない気持ちや痛みも必要だと思っているんです。そういうものが感じられる音楽にかっこよさを感じるし、惹かれるので、Myukでの活動もそれを大事にしたいと思っています。

――Guianoさんが作詞・作曲・編曲をなさった最新曲「愛の唄」もまさにそういう楽曲だと感じました。MyukさんはYouTubeチャンネルでもボーカロイド楽曲のカバー動画を投稿なさっていますし、以前よりボーカロイドとも馴染みはおありだそうですね。


Myuk 小学生の頃からボーカロイド楽曲ならではの物語性がすごく好きで、ミュージックビデオと一緒に観たり聴いたりしながら、その世界観に没頭できるのがすごく楽しかったんですよね。だからずっとボーカロイド音楽は身近でしたし、Guianoさんの楽曲も2年くらい前に「魔法」と「透過夏」を耳にして、すごくかっこいいなと思って、それから一方的に聴かせていただいていたんです。それで今回マネージャーさん経由でオファーさせていただいて、お受けいただいてからTwitterのDMで直接やり取りして制作を進めたんです。

――Guianoさんが制作なさる楽曲にはご自身が歌唱するもの、ボーカロイド楽曲、他アーティストへの提供があると思いますが、楽曲提供はどのような着想から始めるのでしょう?

Guiano まず、自分にとって楽曲は独り言というか、自分の曲を作る場合は「俺の独り言に共感してくれる人がいたら嬉しいな」くらいの気持ちで書いているんですよね。楽曲提供はその延長線上で、「相手と自分の間に生まれる独り言」というイメージで作っています。提供先の方と自分の共通点を見つけて、その2人の間にある独り言をつぶやいていく。
今回のMyukさんとの制作もそのスタイルで作りたくて、DMで「最近つらいこととかありましたか?」と聞くところから始めて。

Myuk そのGuianoさんからの質問への返信が、この曲のテーマになるようなことだと思います。1年くらい前から歌に対して焦りを感じることが多くて。

――焦り、ですか。

Myuk 4年くらい前に熊本から上京して、2年前にメジャーデビューもさせていただいて、求められるものが多くなったり、時間が止まったような感覚に陥るコロナ禍で失ったものを取り戻そうと必死に追いつこうとしたり……。色々と状況が変わるなかで、歌にも生活にも焦燥感を覚えていたんです。
そういう状況だからこそ出せる底力もあると思うんですけど、穏やかな環境に身を置いて絵を描いたり、ゆっくり眠ったり、景色を見ながらぼーっとしたり、そういう時間で感じることに大事なものがある気がしていたんですよね。競争社会への違和感や、ゆっくり周りを見渡しながら歌を歌っていきたいという話をGuianoさんにさせてもらって。

Guiano 俺自身も「売れること」と「創作をすること」の幅というか、その2つの間にある空間が鬱陶しいなと思っていたんです。やり取りするなかで、Myukさんも俺と同じで、その2つの間にある溝がすごく深いなと感じて。お互い同い年で、小中学生の頃から音楽がすごく大好きで、その頃から音楽で生きていきたいと思っていたし、俺は心に空いた穴や自分の失ったもの、持っていないものを創作で埋めてきた。10代の自分にとって、音楽は生きることそのものだったんです。


――歌い出しの“空いた穴を埋めようぜ”という歌詞は、Guianoさんのその感覚が反映されたものなんですね。

Guiano その歌詞は俺のエゴが出ていますね。自分に空いた穴の大きさを競い合って創作するような感覚がすごく嫌だったし、でも自分も音楽でお金を稼ぐようになって、それを重視するようにもなってきて……それがすごく嫌だったから、自分に言い聞かせるようにその歌詞を書いたんです。

Myuk 私にとっても、音楽は生きることや生活することと直結していて。小中学校ぐらいのときは本当に歌うことが好きで、純粋に楽しいという気持ちだけだったんです。でも少しずつ「認められたい」とか「結果を出したい」みたいな気持ちが、自由に楽しむ気持ちをどんどん浸食していくような感覚があって。
たくさんの人に届けなきゃいけないし、それについて考えると自分の劣っている部分が見えてきて、自己嫌悪に陥って。落ち込む原因が大好きな音楽という葛藤がすごく大きかったんです。

――Myukさんが作詞した「フェイクファーワルツ」の歌詞とも通ずるお話です。

Myuk SNSが世の中に定着してから、どんなときも無意識のうちに比べ合って競争し合っているような気がして、それもすごく苦しくて。自分軸で生きられたらいいのに、自分が大事にしたいものだけ大事にしてたらそれでいいのに……と日々思ったりもするんです。そういう気持ちも「愛の唄」に反映していただけたんじゃないかと思っています。

Guiano 音楽を愛しているからこそ、こんなふうに苦悩したり葛藤したり悩んだりするんだと思うんです。ここまで愛していなければ、後腐れなくパッとやめられるのかなとも思うし。

――「愛」はGuianoさんが元々よく歌詞に掲げているテーマでもありますよね。

Guiano 俺が生きているなかでずっと追い求めているものが「愛」なんですよね。でも愛は一概に「こういうものだ」と断言できない、すごく大きなものじゃないですか。大きいのに見えないし、手に取れないし、聞こえないし。だから求めるなかで心が病んじゃうこともあって……そういうつらさを抱えている人はいっぱいいると思うんです。

――そうですね。制作にあたってまずGuianoさんがMyukさんに「最近どんなことがつらかったのか」とお聞きになった理由も、今おっしゃったことと関係しているのかなと思いました。

Guiano 俺自身が、愛を歌ったり、愛を求めるなかでぶち当たった気持ちを歌にしていることが多いんですよね。「人に愛されたい」だけでなく、「自分自身に自分を愛してほしい」というのがずっと心にあって、それがなかなかできなくて葛藤することもあるから、愛は本当に難しい。人生、最終的に、死ぬ直前ぐらいにその答えが見つけられたらいいなと思っていて。ほんと「ONE PIECE」みたいな感じなんですよね。愛の正体を探しながら生きてるって感じです。

――そんなGuianoさんが人生で追い求めている大きなテーマを掲げたタイトルを、Myukさんへの提供曲につけるというのは、かなり興味深いです。

Guiano できた曲を聴いたとき、まず「これは愛だ」と思ったんですよね。だから本当にストレートなタイトルをつけて。

Myuk この曲のタイトルは「愛の唄」以外にないなと思います。寂しかったり、苦しんだり、憎んだり、喜んだり、明るい感情にも暗い感情にも繋がっているのが愛情だと思っていて。歌への焦燥感が生まれることや、人と比べてしまうことは、自己愛だったり、誰かや何かへ向けての愛に直結してくると思うんです。「これは一体何? “愛”って何? “歌”ってどこにあるんだろう?」みたいにずっと葛藤してる曲だと思うし、それを「愛の唄」と呼べることがすごく嬉しいんですよね。

ボーカリストとボーカロイド、それぞれにある“歌い手”としての特性
――Guianoさんは公式コメントで「愛の唄」について「難しいことは何もしていない愚直なポップソング」と書いてらっしゃいましたが、そこに至った経緯とは?

Guiano Myukさんは歌唱力もあって、声もいい。どちらも持っている人って、安い言葉になってしまうけど天才だと思っているんです。そういう人に歌ってもらうと、どんな曲でもマジですごくいいものになるので、歌が活きるように、とにかくシンプルでまっすぐで、サビが多い曲を作ろうと思いました。

――ボーカロイド曲を作る場合と感覚は違いますか?

Guiano 全然違いましたね。俺の曲をよく聴いてくれてる人は、「愛の唄」もGuianoっぽいと思ってくれるらしいんですけど。

――コードの運び方や、生楽器と打ち込みを効果的に織り交ぜたダンスミュージックの系譜にあるサウンドデザインはGuianoさんのカラーが出ていますが、普段制作なさっているボーカロイド楽曲はもう少し展開が多いかなとは思いました。

Guiano ああ、そうですね。Myukさんの歌を活かしたかったので、今回は展開を極力なくしてみたんです。だから最初デモを提出するときは「つまんない曲って思われたらどうしよう……!」とすごく怖くて(笑)。でもすごく喜んでくださって嬉しかったです。

Myuk ちょっと暗くてヘビーなテーマをお送りしたので、静かな曲になることを想像していたんです。そうしたらこんなにポップで疾走感があって、「こんな曲聴いたことがない!」と感じるような、放たれるような曲にしていただけてすごく嬉しかったです。私の歌を主体にして考えてくださることもGuianoさんのこだわりやお人柄だなと思うし、それがあるからこそ素敵な曲にもなったと思います。元々Guianoさんの楽曲は海外のダンスミュージックのテイストと和風のテイストの両方があるなと思っていて。最初は「日本のカルチャーが好きな海外の方なのかな?」と思ったんです。

Guiano あははは。名前も英語表記だし、顔出しもしてないし。

Myuk 最初は2010年代の洋楽のダンスミュージックみたいでかっこいいなと思ったんですけど、歌詞を見てみたら、人の心に寄り添いながらも情景が浮かぶ世界を描いていて、すごく共感したし救われる感覚があったんですよね。日本の田園風景や、夏の懐かしさや哀愁と、ポップなダンスミュージックという相反するものがぎゅっと詰まっているのがすごく素敵だなと思って。だから「愛の唄」も、感情を出しすぎないように気を付けたんです。

――Myukさんは自分の気持ちを曲にしてもらったとはいえ、感情を出しすぎない、と。

Myuk 「感情を叫びすぎない」って感じかな。Guianoさんのサウンドと世界観に合うように歌いたかったんです。だから少しクールな感情と、自分の胸のなかにグワッとこみ上げる熱い感情をどちらも込めて、柔らかく歌うことを意識しました。

――冒頭で話していただいたことと繋がりますね。ご自分の感情と一緒に制作をしたクリエイターさんのカラーをブレンドしてアウトプットできるのは、人間のボーカルだからこそできることかもしれません。

Myuk 私自身、ボーカロイドも好きで聴いていたし、初音ミクちゃんのキャラクターや透明感も心地がいいし、ボーカロイドは歌詞をまっさらな気持ちで届けてくれるからこそ、聴いている人の心を代弁してくれるような感覚があると思うんです。人間の声にはその人の力みたいなものが宿っている気がしていて。それは私の音楽活動のスタートが日本民謡なのも大きいと思います。楽譜がない時代から存在する口承文化で、それを歌ってきたところからシンガーソングライターとして活動するようになって、Myukとしての活動をスタートさせて――音楽性は変わりながらも、ずっと人の声が持っている強い力を感じながら活動してきたんです。

――Guianoさんはボーカリストという存在に対してどのように感じていますか?

Guiano やっぱり歌は曲の軸になるものというか。自分でボーカロイド曲を作るようになってもっとボーカロイドが好きになって、人の声の魅力にも気付いてきて、それぞれの良さがあることを知ってからどっちも大好きになって。だから人でもボーカロイドでも、シンガーによって作れる曲も作りたい曲も変わるから、歌う人の存在は俺にとってすべてでもあるんです。だから自分が歌う曲を作るときは「Guianoももっと歌が上手くなってほしいな」と思うんですけど(笑)。

――(笑)。Guianoさんのボーカルも、それこそ公式コメントでMyukさんに宛てた「ただ上手いだけじゃない、人を惹き付けるボーカル」だと思います。

Guiano ありがとうございます。自分の歌にも自分にしかないいいところがあると思うし、ほかに誰もいない声だと思うから、楽しみつつ作っています。「愛の唄」はMyukさんの感情や思っていることを曲にできたらいいなと思いながら作ったので、ライブで披露されていくのがすごく楽しみなんです。ファンの方々にどんな形で届くのかがすごく楽しみで。それを俺が観測できたときに初めて「愛の唄」が完成したなと思えるのかなと思っています。

Myuk 私もライブや色んな場所でこの曲を歌っていけるのが幸せで。ずっと歌を歌ってきて、色んな葛藤があって、やっぱり歌は誰かと作り上げるものだなと感じるんです。聴いてくれる人がいて初めて気付く感情もあって、そういう意味でも「愛の唄」はライブで完成する曲だと思っています。

――では最後に、同い年のお二人は、お互いにどんなことを望みますか?

Guiano 辞めずに頑張ってほしいです。というのも、俺がボーカロイドを始めた時期は、ボーカロイドがあまり盛り上がっていなかったんですよ。

――確かに2014年は、ボーカロイド黎明期を支えたクリエイター陣が続々と、ご自身で歌うアーティスト活動へとシフトした後でしたよね。

Guiano 一気に閑散としたなと俺自身も感じていて。でもどんな時期でも才能のある人たちはたくさん出て来るじゃないですか。それでもやっぱり、聴いてくれる人がいないとどうしても辞めていっちゃう人が多くて。俺はそれがすごく悲しかったし、「続けていたら絶対にもっとたくさんの人に聴いてもらえたのに」って今も思うんです。Myukさんの歌はすごくいいし、同い年で刺激を受ける部分もあるし。才能ある人は辞めないで続けてほしいんです。

Myuk こんなに素敵な曲を作っていただいて、さらにそんなことまで言っていただけるなんて本当に感謝の気持ちでいっぱいです。私はずっといちファンとしてGuianoさんの楽曲を聴かせていただいているので、これからも新曲を聴けるのをすごく楽しみにしています。

●リリース情報
Myuk デジタルシングル
「愛の唄」
配信中

1. 愛の唄
作詞・作曲・編曲:Guiano
2. フェイクファーワルツ
作詞:Myuk 作曲・編曲:木下龍平
配信リンクはこちら

●Myukライブ情報
Knockin’ On Night Door Vol.5 @下北沢 ADRIFT
2023年11月5日(日)
1st stage  OPEN 15:00 / START 15:30
2nd stage  OPEN 18:00 / START 18:30
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関連リンク
Myuk 公式サイト
https://myuk.jp/

Myuk 公式Twitter
https://twitter.com/myukmusic

Guiano 公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCAwt148qKLXzPF3LHfN76Bw

Guiano 公式Twitter
https://twitter.com/GuiAnoDayo