9月3日、東京・有明アリーナに広がったパノラマは、まるでエデンかアヴァロンのように美しく、そして尊いものだった。誰もが再び叶うことを待ち望んでいた約束、演者と観客が共に作り上げる最高の瞬間が、悠久とも思えた期間を経てついに帰ってきたのだ。
水樹奈々の約4年ぶりとなる声出し復活ライブツアー“NANA MIZUKI LIVE PARADE 2023”。7月から約2ヵ月をかけて全国7都市12公演を巡り、延べ75,000人を熱狂させたパレードのフィナーレを、稀代のポップマスターにしてスーパーソニックガールの水樹奈々は、パーフェクトスマイルなライブで締め括ってみせた。

PHOTOGRAPHY BY kamiiisaka
TEXT BY 北野 創

約4年ぶりの声出し復活!歓喜と興奮の声が渦巻くライブ前半戦
毎回、ライブやツアーごとにコンセプトを設け、それに沿った様々な演出やセットリストで観る者を楽しませてくれる水樹奈々。特に大規模なツアーの場合は、大掛かりな舞台装置やサプライズ的な演出が多数組み込まれ、声優・シンガーの枠を超えたエンターテイナーとしてのアーティスト性を発揮しているわけだが、今回のツアーではタイトルにも冠されている“パレード”の要素をふんだんに取り入れたステージが展開され、4年ぶりの声出し解禁をみんなで祝うようなムードが全編に溢れていた。

ライブの幕開けを飾ったのは、どこか厳かな雰囲気のオープニングムービー。飛空艇で世界中を巡りながら、歌で世界に希望を届ける水樹奈々と、彼女に憧れて紙飛行機を飛ばして遊ぶ子供たち――そんな映像に続いて、ステージ前面に置かれた鉄格子のような大きな扉がゆっくりと左右に開くと、先ほどの映像の中の衣装とシンクロする、飛空艇の船長風の黒ベースのゴシックドレスを着た水樹本人が登場。
「気合い入れていくぞ、有明!」と檄を飛ばすと、発破音を合図に灼熱のアップナンバー「Red Breeze」を歌い始めて会場のボルテージは初っ端から最高潮へ。後ろを支える水樹のバックバンド、Cherry Boys(通称:チェリボ)の面々も揃いの衣装を着ており、飛空艇をイメージしたセットも含めて、まさに水樹率いる楽団が希望の歌を届けるために有明に上陸したような格好だ。

続く「Bring it on!」で、水樹は拡声器を手に「みんなの本気を見せてくれ!」「ありったけの力、声、私に届けて!」「かかってこいよ!」と扇動して、オーディエンスも地面を揺るがすようなコールと大合唱で応答。あの奇跡のような時間が本当に戻ってきたことを実感できて、思わず目頭が熱くなる。そこから疾走感溢れる「Poison Lily」に繋げ、ステージ中央でしなやかに身を躍らせながら情熱的なパワーボイスを広大なアリーナ会場いっぱいに響き渡らせる水樹からは、間違いなく最高のコンディションであることが伝わってくる。この無敵感、圧倒的なエネルギー。
もちろんここ数年のコロナ禍におけるライブでも活力漲るライブを届けてくれていたが、ファンの歓声を浴びながら歌う水樹は、水を得た魚のようにピチピチと弾けている。

MCで改めてファンの歓声を受けて「幸せすぎる!」と喜びを嚙み締めると、今度はteam YO-DAを率いてダンサブルなパフォーマンスで魅せるブロックへ。黒とピンクの格子柄が映えるパンツスタイルの衣装に着替えた水樹は、ヘッドセットマイクで踊りながら華やかかつ攻め感のあるステージングを繰り広げてファンを魅了する。team YO-DAを引き連れて花道を進んでセンターステージに立つと、そこでラテンの哀愁と情熱が入り混じった「Faith」を披露。ライブの幕開けで開いた扉が再び閉じ、それが超巨大モニターとなって水樹とダンサーたちの姿を映し出す。そして再びメインステージに戻ると「Gimmick Game」を歌唱。
水樹とteam YO-DAの総勢9名が横並びになって、動きを合わせたパフォーマンスで壮観な景色を作り出す。先ほどの超巨大な扉型モニターは再び左右に開き、それぞれ映像を投影。それとは別にステージ奥にも大きなスクリーンが設置されており、どこを観ても全方位で楽しめる。アリーナ公演といえども距離を感じさせない仕掛けが満載だ。

恒例となっているチェリボコーナーでは、いつものようにりゅーたん(坂本竜太/b)とちょーさん(福長雅夫/ds、per)がオリジナルソングを歌唱しつつ、バンドメンバーを紹介。この日はその2人に加えて、ケニー(北島健二/g)、イタルビッチ(渡辺 格/g)、コジロー(佐々木“コジロー”貴之/g)、チャンプ(佐藤雄大/key)、まーちん(松永俊弥ds)、アベサマ(阿部 薫/ds)、ファイヤー(藤陵雅裕/sax)、カドディー(門脇大輔/vi)という全10人の大所帯編成。
ギター3本はともかく、ドラマーが3人というのはなかなか見ない光景だ。

大事なディーバを支える楽団たちの自己紹介に続いて、ティンカーベルをイメージしたというエメラルド色の鮮やかな衣装に着替えた水樹がステージに舞い戻り、TVアニメ『SHAMAN KING』のOPテーマでもあった近年の代表曲の1つ「Get up! Shout!」でライブを再開。ラストは勇猛なロングトーンを聴かせて締め括ると、続いてTVアニメ『魔法少女リリカルなのはStrikerS』後期OPテーマ「MASSIVE WONDERS」を歌唱。竿隊も前進して歌と楽器の熱い鍔迫り合いで盛り上げる。そしてTVアニメ『魔法少女リリカルなのはA’s』OPテーマにして、彼女のライブには欠かせないナンバー「ETERNAL BLAZE」へ。イントロが流れると同時に客席がオレンジ色のペンライトで染まり、ジャンプや掛け声、間奏のタイトルコールでの大絶叫など、長い年月をかけてファンと作り上げてきた景色、コロナ禍において失われていた“永遠の炎”をみんなで再びステージに灯す。


その後のMCでは、ファンからの「回って!」コールに「いいよ!」とかわいらしく応え(「もう一回!」コールを受けてチェリボのみんなとも一緒にクルッと回っていた)、水樹自ら自撮り棒+カメラを持ってバンドメンバーと交流。イタルビッチ得意の「ありがたいお言葉(ご当地ダジャレ)」の等価交換として「奈々のダジャレ」を披露して自らダメージを負う一幕もありつつ、会場のみんなで和気あいあいと楽しむ時間もまた、水樹のライブには欠かせない要素だ。そして本ツアーの特別企画となる、チェリボ選抜メンバーとのアコースティックコーナーへ。この日はファイヤーがリーダーとなり、チャンプ、りゅーたん、アベサマと共に「哀愁トワイライト」を披露。“真夏の夜の夢”にぴったりのムーディーなジャズアレンジに仕立てられた同楽曲を、艶やかに表現する歌声は絶品のひと言。ファイヤーの熱を帯びたブロウとの絡み合いも素晴らしく、いつか「水樹奈々のジャズボーカルアルバム」を聴いてみたいと感じたのはきっと自分だけではなかったはずだ。


そんな特別感あるセッションに続いて、「もう少しだけ、この夜のムードでお届けしたいと思います」と歌われたのは「Sweet Dealer」。シティポップみのあるアーバンなグルーヴと円熟を感じさせる歌声の共鳴がオーディエンスを酔わせていく。さらに、まだ酷暑が続くとはいえ夏の終わりが近づく9月の夜に素晴らしくマッチしていたのが「恋想花火」。どこか青さも感じさせるセンチメンタルなギターサウンドと、バイオリンやキーボードの流麗な音色が星空のような光景を描き出すなか、水樹は朗々としながらも切なさの募る歌声で、いつかの夏の恋模様を表現する。特にラスサビは花火の映像演出も相まって、ノスタルジックな想いに押しつぶされてしまいそうなほど胸に迫る名演だった。

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水樹奈々のパレードは終わらない――Wアンコール完走で見せたファンとの絆
ここで再び、水樹奈々率いる飛空艇楽団の幕間ムービーが上映される。不穏な空気が立ち込めるなか、雷鳴の直撃により炎上してしまう飛空艇。その後、荒れ果てた大地に1人で呆然と佇む水樹は、落ちていた紙飛行機を拾い上げると、そこに子供たちの込められた思いに喚起され、奮起し、光り輝く存在となる――そんな映像に続いて登場したのは、なんと全高約7メートル、幅約4.5メートルのステージ一体型の電飾で光り輝く衣装を着た水樹。「私自身が巨大なフロートになりたい!」という水樹たっての希望で実現した、通称“お奈々の塔”(形が「太陽の塔」に似ていることから命名したらしい)の姿で歌われたのは、「サーチライト」。コロナ前の声出しOKだった最後のツアー“NANA MIZUKI LIVE EXPRESS 2019”最終公演、千葉・ZOZOマリンスタジアムでのライブ本編ラストでも歌われた、未来を照らす希望に溢れたナンバーだ。この楽曲では携帯の白いライトもしくは白のペンライトをかざすのが恒例となっており、電飾と共に光り輝く水樹と会場一面を覆う白いライトが合わさって、得も言われぬ美しい景色が作り出される。

そのように、水樹の歌声がサーチライトとなってコロナ禍で疲弊した世界を明るく照らし出すと、ここからは新しい時代の始まり。トリプルドラムが力強いビートを叩き出し、ワイルドなギターリフがいななくと、“お奈々の塔”を脱いで白をベースにしたプリンセス風のドレス衣装に着替えた水樹がメインステージに降り立ち、「STARTING NOW!」をガツンとブチかます。一気に沸き立ち、サビでは“STARTING NOW!”と大合唱するオーディエンス。ラストの“明日を創り出せるのは 誰でもない、僕らだ”という(水樹自身が書いた)歌詞が、かつてないほど心に染み渡る。続く「Higher Dimension」では、フラッグを持ったteam YO-DAが再登場して盛り上げるなか、水樹は飛空艇をイメージしたゴンドラに乗り込んでステージ上空を移動しながら歌唱。水樹のライブでフライング演出は定番とはいえ、やはり驚かされる。

MCで今回のライブについて、「みんなでお祝いする凱旋パレード」のようなイメージで作ったと説明する水樹。エンタメ業界のみならずあらゆることが停滞したコロナ禍の状況から、みんなで未来に向かって歩み出すまでの道のりを、2022年から今年にかけて行ってきた有観客ライブ/ツアー“RUNNER”“HOME”“HEROES”、そして今回の“PARADE”で表現したかったのだと語る。さらに本公演の衣装についても、最初はワタリガラスをイメージした黒から、何色に染まることもできる「最強の色」の白へと変遷していくことで、「シン・ミズキナナ」として大復活するストーリーを思い描いて、ライブ演出やセットリストを考案したという。その意味では、彼女がコロナ禍以降に感じた想い、アーティストとして表現したいことの集大成と言うべきライブが、今回のツアーだったのだろう。

そして水樹は「ここからが真のスタートでございます。パレードの始まりですよ!」「みんなで宇宙まで声を轟かせようぜ!」と呼び掛けてファンの心に再び火をつけると、彼女のライブにおける鉄板曲「Astrogation」を、飛空艇の形をしたフロートに乗ってアリーナを周遊しながらアリーナ全体にくまなく届ける。メインステージでもチェリボやteam YO-DAのメンバーたちが賑やかに盛り上げて、会場はまさにパレードさながらのテンションに。続く「VIRGIN CODE」はアルバム曲ながらもライブで絶大な支持を得ている、上松範康(Elements Garden)節がさく裂した壮絶なアップナンバー。チェリボのあらゆるものをなぎ倒す超重量級の演奏と、水樹のパワフルのひと言では収まらない白色矮星のように高密度な歌声が、有明アリーナにビッグバンを引き起こす。

フロートからメインステージに戻った水樹は、「明日のことは考えず、想いをさく裂させてくれ!」と告げて、これもまたファンとのコール&レスポンスが加わることで特別な輝きを放つライブの人気曲「残光のガイア」を披露。ひと際盛大な掛け声が圧倒的な体験を生み出す。あまりにも密度の濃い瞬間の連続で、本当に時が経つのも忘れるほどだったが、なんと次がライブ本編最後の曲に。「有明アリーナ、明日空いていないかな?」「4デイズ、7デイズも全然余裕で行けますね」と笑う水樹に、ファンも大声援で応える。そんなライブ本編を締め括ったのは「NEXT ARCADIA」。楽器隊を引き連れながらステージの上手・下手へ移動しつつ、疲れを微塵も感じさせないエネルギッシュな歌声を振りまく。この無尽蔵のパワーが光となって、我々を理想郷に導いてくれるのだ。ラスサビでは紙吹雪が降り注ぎ、大団円を迎えた。

だが、もちろん水樹奈々のライブはここで終わらない。盛大な「奈々コール」を受けてポップアップでステージに舞い戻った水樹は、ポップなダンスチューン「PARTY! PARTY!」をteam YO-DAと共にパフォーマンス。ツアーTシャツをアレンジしたお腹チラ見せ衣装もまた、アンコールならではのカジュアル感を演出する。「Happy☆Go-Round!」ではツアータオルを片手に、チェリボメンバーやteam YO-DAを引き連れてセンターステージへ。照明がついて明るくなったなか、ファンとより近い場所で声や視線を交わして楽しむ。MCを挿み、10月放送のTVアニメ『でこぼこ魔女の親子事情』のOPテーマに決まっている新曲「Sugar Doughnuts」をいち早く披露すると、その艶やかかつグルービーな世界観に繋げるような形で、アンコール最後の楽曲「DISCOTHEQUE」へと雪崩れ込む。水樹のラブリーサイドを代表するディスコチックなこの楽曲で、どこまでも明るく華やかにライブを締め括った。

しかしこの日はツアーファイナル、もう1つの特別が待っていた。ファンの「もう1回コール」に応えてWアンコールが実現したのだ。水樹は「みんなからWアンコールをもらえたら何を歌おうかなと考えていて、やっぱりこの曲しかないなと思いました」と語る。「デビューしてから初めて、ライブでコール&レスポンスする喜び・幸せを感じた、ライブでとってもたくさんの思い出を刻み込んできたこの曲」「みんなでたくさんの重い扉を、これからも開け続けていきましょう!」――そんな言葉に続けて、この日、正真正銘の最後に歌われたのは「POWER GATE」。いつでも最高の景色を見せてくれる、彼女が言う通り水樹とファンの思い出と絆が詰まった歌だ。この曲の歌詞に“力を合わせれば もっと楽しく走れる”とあるように、水樹は決して1人孤独に走っているわけではない。いつでもファンのことを側に感じているからこそ、ヒーローとして走り続けていられるのだ。この日、アリーナの1万人以上のファンと共に一体となって“Wow Wow Wow POWER GATE”と大合唱した思い出が、また次の活動の原動力となり、歌の力で時代を変えていく。それが水樹奈々のパレードなのだと、このツアーを観て確信した。

<セットリスト>
9月3日(日)東京・有明アリーナ
M1. Red Breeze
M2. Bring it on!
M3. Poison Lily
M4. still in the groove
M5. Faith
M6. Gimmick Game
M7. Get up! Shout!
M8. MASSIVE WONDERS
M9. ETERNAL BLAZE
M10. 哀愁トワイライト
M11. Sweet Dealer
M12. 恋想花火
M13. サーチライト
M14. STARTING NOW!
M15. Higher Dimension
M16. Astrogation
M17. VIRGIN CODE
M18. 残光のガイア
M19. NEXT ARCADIA
【ENCORE】
EN1. PARTY! PARTY!
EN2. Happy☆Go-Round!
EN3. Sugar Doughnuts
EN4. DISCOTHEQUE
【DOUBLE ENCORE】
WE.POWER GATE

●配信情報
「Sugar Doughnuts」
10月1日配信開始

TVアニメ『でこぼこ魔女の親子事情』OPテーマ
「Sugar Doughnuts」
作詞:藤林聖子 作曲:サカノウエヨースケ(Blue Bird’s Nest)
編曲:渡辺徹×日比野裕史(Blue Bird’s Nest)

関連リンク
水樹奈々 オフィシャルサイト
https://www.mizukinana.jp/

水樹奈々オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/user/mizukinanaKING

水樹奈々オフィシャルX(旧Twitter)
https://twitter.com/NM_NANAPARTY