声優「二ノ宮ゆい」として、アーティスト「ニノミヤユイ」として、自らの内側にある闇や矛盾と真摯に向き合いながら活動を行う彼女にとって、これほど相応しいタイアップ作品はないかもしれない。待望のニューシングル「今世大革命」で彼女が担うのは、TVアニメ『ようこそ実力至上主義の教室へ 3rd Season』(以下、『よう実』)のEDテーマ。
弱肉強食の世界でその原則に捉われることなくサバイブする気概を歌った、まさに“革命的”なポップソングだ。同アニメの第5話特殊EDテーマ「Fixer」を含め、『よう実』とのタッグで生まれた本シングルにおいて彼女が目指す“革命”とはどんなものなのか?その真意に迫る。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

※取材は2月上旬に実施

100回嘔吐との共作で新たな地平を切り開いた「今世大革命」
――今回の新曲「今世大革命」は、人気シリーズ『よう実』との初タイアップ曲になります。最初にお話をいただいたときの感想はいかがでしたか?

ニノミヤユイ 最初はスタッフさんがサプライズを仕掛けてくださったんです。箱を渡されて、それを開けたら紙が入っていて、「『よう実』3期EDテーマ決定!」と書かれていたので、本当にびっくり仰天しました(笑)。アニメのタイアップ自体が久しぶりだったこともありますし、『よう実』は私が声優活動を始める前から名前を知っているくらいの人気シリーズなので、今回、そんな作品のテーマ曲を歌えることがすごく嬉しかったです。


――『よう実』という作品自体にはどんな印象をお持ちでしょうか。

ニノミヤ 私は元々、学園ものや頭脳戦が繰り広げられる作品が好きなので、アニメの第1期を観始めたときから面白い作品だなって思いました。最初はZAQさんのOPテーマ「カーストルーム」の印象もあって、努力・友情・絆みたいな要素が描かれる少年マンガっぽい雰囲気だなって思ったのですが、お話しが進むにつれて、主人公の綾小路(清隆)が意外とヴィラン属性だなと思って。

――そうなんですよね(笑)。

ニノミヤ 結構冷徹だし、自ら計画して人の心を折りにいく展開もある。さらに第2期になると、ZAQさんのOPテーマ(「Dance In The Game」)も激しくなって、どんどんシリアスになっていったので、サスペンスに近い作品という印象が強くなりました。


――特にお気に入りのキャラクターはいますか?

ニノミヤ 魅力的なキャラクターがたくさんいるので選ぶのが難しいですけど……私は黒髪ロングのクール系の女の子が大好きなので、堀北(鈴音)ちゃんはタイプど真ん中です(笑)。クールだけどちょっと不器用なところもあるんですよね。それと第3期のアニメが始まってからは、一之瀬帆波ちゃんも気になっています。もっと策略を巡らせているタイプかと思いきや意外とピュアだったので、「あっ、かわいい……!」と思って。第5話で綾小路にちょっとキュンとしている顔を見て私もキュンキュンしました(笑)。

――かわいい子が好きなんですね。
現実でもかわいい子が好きなんですか?


ニノミヤ いやあ、好きですね。こんなこと言うのもアレですけど、女性声優や女性シンガーの方はかわいい子ばかりなので、毎回、どの現場でも「なんてかわいい方なんだろう」って思うことばかりです(笑)。

――たまにSNSでプライベートでの交流も報告されていますよね。前島麻由さん、sajou no hanaのsanaさん、スピラ・スピカの幹葉さんとご飯に行かれたりとか。

ニノミヤ そうなんです。女性アニソンシンガー繋がりで食事会みたいなことをしました。
幹葉ちゃんとしっかりお話ししたのはそのときが初めてだったんですけど、大盛り上がりでしたね。幹葉ちゃんも麻由ちゃんもコミュニケーションが得意だし、sanaちゃんも優しいし面白くて。私は超人見知りでなかなか自分からいけないタイプなんですけど、みんながそれを引っ張り上げてくれたので、すごく温かい時間でしたし、大好きな人たちです。

――話を逸らしてしまってすみません。改めて今回のEDテーマ「今世大革命」は、『よう実』のどんな部分を踏まえて制作を進めたのかお聞かせください。

ニノミヤ 作品サイドからは、今までの『よう実』のEDテーマとはまた違ったインパクトやキャッチーさ、それとニノミヤユイがいつも発信しているような闇や暗さがあると嬉しい、というお話をいただいたので、割と自由に発想することができました。
そのなかで、誰に楽曲をお願いするかを考えたときに、以前に「みっともない私なんて」(2021年)という楽曲でご一緒した100回嘔吐さんであれば、キャッチ―だけど良い意味で変わった楽曲を作ってくださると思って、お願いをしました。

――歌詞はニノミヤさんと100回嘔吐さんの共作になりますが、どのように作っていったのですか?

ニノミヤ 今回は私が作品を観たうえで書いた歌詞の原案みたいなものを、100回嘔吐さんにお渡ししてまとめていただきました。3期はさらにシリアスな展開が増えるので、そういう要素を盛り込みつつ、綾小路のすべてを俯瞰して見ながら掌握している感じ、鈴音のもっと上に行きたいという気持ちを汲み取ることで、『よう実』の世界観を表現できたらと思いながら原案を書いて。それはもっと暗めな内容だったのですが、いざ100回さんが楽曲の形にしたデモを聴かせていただいたら、意外とポップに仕上がっていたので驚きました。Aメロに“A・B・C・D 故 Winner・Loser”という『よう実』らしいワードを大胆に入れてくださったり、イントロ部分の“事実=小説より奇なり”も、毎回、名言から始まる『よう実』のアニメらしさが感じられて。しかも言葉のはめ方もキャッチーで、でもやっぱり変わった曲っていう(笑)。
私も衝撃でしたし、全体的には今までにない『よう実』ワールドを表現できたと思います。

――最初に気になったのが、タイトルにもなっている「今世大革命」という言葉で、この曲名自体がかなりのインパクトですよね。

ニノミヤ このタイトルも100回嘔吐さんが付けてくださったんですけど、私も最初は「どういうことだろう?」と思いながらデモを聴いたら、まさに「今世大革命」っぽい楽曲だったので納得しました(笑)。もし私がタイトルを付けるとしたら、もう少し耳馴染みのある言葉を選んでいたと思うので、その意味ではインパクトが残るタイトルになって正解だったなと思います。

――でも、ニノミヤさんが付けるタイトルもいつもインパクトが強い印象ですけどね。

ニノミヤ そうですね、いつの間にか(笑)。でもそういう意味では、「今世大革命」も私らしいタイトルなのかもしれないですね。別の取材でZAQさんと対談させていただいたのですが、そのときにZAQさんから「この曲はすごくニノミヤユイちゃんらしい」とおっしゃってくださって。ポップさも闇もあるところが、私らしさを象徴する1曲にもなったことを最近実感するようになりました。

――逆に言うと、最初はそれほど「自分らしさ」を自覚していなかった?

ニノミヤ そうなんです。曲調的にもポップで、私としては珍しくかわいい寄りの声色を使って歌っているので、今までとはちょっと違う系統の曲になるのかな?くらいに思っていたんです。でも、リスナーさんや周りの方からは「ニノミヤユイらしさ全開だね」と言われることがすごく多い曲なので、私も客観的に「なるほど、そうなんだ」と思うようになりました。

――自分もニノミヤさんらしさを感じました。というのも、ニノミヤさんは今まで、楽曲を通じて自分の中の闇を表現することが多かったですが、作品を重ねるにつれて、その闇から這い上がろうとする意志が強く表れるようになったと思うんですね。この曲は、その流れの延長線上にあると感じて。

ニノミヤ 確かに。「大革命」ですものね。

――そう。それはこの楽曲の歌詞の構成にも感じたところで。今回、アニメバージョンは1サビの後にラスサビがくる構成になっていますが、その歌詞の内容が正反対のことを歌っている印象なんですよね。1番の歌詞は“弱肉強食的事実”にねじ伏せられている感じだったのが、ラスサビではそれでも諦めることなく“ずっと狙ってる 今世大革命”と歌っている。

ニノミヤ 確かにそうかもしれないです。この曲は、諦めたり、ふてくされたり、だけど負けたくなかったり、1曲の中に色んな気持ちの揺れが入っていて、2コーラス目の“もうどうでもいい”のところも“どうでもいい…か?”って疑問符が付いたり、自分の中で感情がグルグル回っている曲だと思うんです。だから(アニメバージョンで)1番のサビと最後のサビがくっつく構成になることを聞いたときはびっくりしたんですけど、確かに1サビで終わると「負けている」感のまま終わってしまうんですよね。でも、最後に“ずっと狙ってる 今世大革命”と歌うことで、「私は革命を狙ってるからな!」という強気さを見せてアニメを締めることができるという。

――それはニノミヤさんがこれまで表現していたこととも重なりますし、『よう実』で例えると、あの物語の舞台になっている高度育成高等学校の弱肉強食のシステムに抗うような意気込みも感じられて。

ニノミヤ そうなんです。その意味では綾小路っぽいところもあれば、ほかのキャラクターっぽいところもあると思うんですね。『よう実』の世界は人物ごとに見え方が違うわけじゃないですか。そういう感じが歌詞を読めば読むほど出てくると思いますし、聴けば聴くほど面白い曲だと思います。

レコーディング、MV撮影……ニノミヤユイ的“革命”の日々
――先ほど、かわいい寄りのアプローチで歌われたというお話もありましたが、レコーディングではどんなことにこだわりましたか?

ニノミヤ 最初、曲調的には「つらぬいて憂鬱」みたいな系列かなと思いつつ、それともちょっと違うので、ボーカルのアプローチは少し悩んでいたところがあって。でも、いざスタジオで歌ってみたら、100回嘔吐さんが「もっとかわいく」とディレクションしてくださったんです。ただ、かわいさを強くしすぎるとキャラソンみたいになるかも?と思っていたところ、「感情は出さずに、もう少し引き算して、淡々と歌ってみて」と言っていただけたので、私の中では自分がボーカロイドになったような気持ちで歌ってみました。

――なるほど!そこはニノミヤさん自身がボカロ好きだからこそできたアプローチかもしれないですね。

ニノミヤ 確かに、ボカロ曲をいっぱい聴いていたからこそ、歌のイメージもしやすかったです。ボーカロイドの楽曲は、単調な歌い方だからこそ余計に闇を感じる場合があるじゃないですか。この曲ではそういう狙いが合うと感覚的に感じたので、表情を抑えめに歌うことで、ポップな曲調だけど闇が見え隠れするようなボーカルの作り方をしていきました。今までにない新しいアプローチでしたね。

――ちなみに、ニノミヤさんが「革命」を起こせるとしたら、どんな世の中にしたいですか?

ニノミヤ え~!? そうですね……物価安の世界にしたい(笑)。それか全人類に毎日1つ、必ず良いことが起きる世界がいいです。やっぱり1日1個でも良いことが起きれば、みんなが幸せに暮らせると思うんですよね。「今世大革命」では弱肉強食とか歌っていますけど、私としては世界平和を願いたいので(笑)。

――それもまたニノミヤさんらしいです(笑)。ただ、「革命」というのは世の中への不満や鬱憤から生まれるものじゃないですか。ニノミヤさんはそういった感情をこれまでも音楽で表現してきた印象があって。

ニノミヤ 確かに。それは世の中に対してもそうですし、私は自分に対しての鬱憤もたくさんあるので、それを曲にぶつけることができるのが、片仮名のニノミヤユイの活動でもあると考えていて。それは私的にも助かっています。

――その意味ではニノミヤさん自身が今、この活動を通じて自分自身の「革命」を行っている最中なのかもしれませんね。

ニノミヤ ああ、それはあると思います。きっとこの活動を始める前より、色々考えられることも増えたと感じているので、もしかしたら今は「革命」の途中なのかもしれません。

――また、「今世大革命」のMVはストーリー仕立てのユニークな映像に仕上がっています。ニノミヤさんが配信者に扮していて。

ニノミヤ 誰にも観てもらえない底辺配信者の「ニノマエハジメ」役として出演しています(笑)。彼女がいつか有名になることを夢見ながら配信活動を行っているなかで、ちょっとした発言で炎上して自分の情緒もめちゃめちゃになるけど、最終的には有名なインフルエンサーの人にピックアップしてもらって逆