スパコン開発を担うベンチャー起業「ペジーコンピューティング」社長・齊藤元章容疑者が、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から助成金を騙し取った詐欺容疑で東京地検特捜部に逮捕された一件。本サイトは逮捕当日、このスパコンベンチャー社長が、準強姦を告発されている官邸御用ジャーナリスト・山口敬之氏の"スポンサー"だったことを報道し、事件の背景に官邸の関与があったのではないかという疑惑を指摘した。
山口氏と齊藤容疑者の関係はすでに「週刊新潮」(新潮社)17年6月15日号が記事にしていたものだ。同誌によると、両者は山口氏がTBSに在籍していた時代からの付き合いで、山口氏は生活の拠点としてきた永田町のザ・キャピトルホテル東急にある賃貸フロアの一室、〈月額賃料にして68万~240万円で平均130万円〉を齊藤社長から提供され、去年5月に山口氏がTBSを辞めた際には、顧問のようなポジションを用意されていたという。
さらに、きょう10日付の朝日新聞朝刊もこの新潮報道を裏付ける記事を掲載した。山口氏の名前こそ出さなかったものの、斎藤社長が〈安倍政権の内幕を描いた著書があるフリージャーナリストとAIの研究財団を設立〉。〈千代田区の29階建てビルに自身の事務所を構え、斎藤容疑者側が家賃を負担していた〉と報じたのだ。
一緒に財団まで設立していたとは驚きだが、この話は前々から噂になっていた。
「山口氏がTBSに在籍していた頃から、すでにその噂はありました。朝日はおそらく特捜部の情報で書いたのでしょうが、噂を裏付けるかたちになりましたね」(TBS関係者)
齊藤社長はなぜ、スパコンは専門外の政治記者である山口氏にそこまで肩入れし、一緒に財団をつくったのか。それは、山口氏が安倍首相や麻生太郎財務相などの政権中枢に食い込んでいたからではないのか。
実際、齊藤社長は山口氏以外にも"安倍首相に近い保守人脈"と接点をもっていた。そのひとりが、安倍応援団の重鎮的存在で、ネット右翼から"保守の女神"などともてはやされている、ジャーナリストの櫻井よしこ氏である。
●櫻井よしこの番組で中国脅威論を煽っていたペジー社・齊藤容疑者
齊藤社長は、昨年9月、桜井よしこ氏のネット番組『言論テレビ』に出演し、スパコン業界での中国の台頭について対談していた。
櫻井「次世代のスーパーコンピューターをどれだけ持っているかが"国力"を示す時代になると?」
齊藤「生命科学、病気の話もありますし、あと軍事ですね。国際科学、軍事の問題も含めて、スーパーコンピューターがないと話が始まらない、というような時代になってきております」
櫻井「中国といういまの国を見ると、他の国の領土を奪ったりとか、自分の考え方を押し付けたりということで、あの国がそんな力を持つというのはちょっと恐ろしい気がするんですが。これに対して、アメリカは総合力から考えると世界一と考えていいんでしょうね?」
齊藤「現状ではまだ世界一ですが、数年経つと状況がガラッと変わってしまいかねない。3年から5年とかで」
櫻井「いま、日本にとって勝負所」
齊藤「そうですね。中国が最強の科学技術基盤を確立して、これを回し始める前に、日本が先んじてこういうものをやりとげないといけないと思います」
ようするに、中国脅威論を梃子にして、スパコン業界支援の必要性を謳っているわけだ。また、齊藤社長は産経新聞社のタカ派雑誌「正論」17年2月号にも登場、「スパコンは2番では絶対ダメなのです 中国の圧倒的先行を許してはいけない理由」と題して寄稿。そのなかで、技術者として、中国の国を挙げてのスパコン開発を讃えながらも〈ただ、感心している場合などではなく、隣国である日本にとっては、中国が大変な脅威となることへの認識が必要です〉と、露骨な"スパコン中国打倒論"をぶっていた。
〈私の持論ですが、「スパコンの能力=国力」の時代が到来しつつあります。その中で、中国がいち早く次世代型スパコン開発に成功すれば、もはやアメリカでさえ追いつけず、中国G1世界が出現しかねません。世界が中国共産党による支配下に置かれてしまうようなことが、最悪の場合には起こり得るのです。〉
〈中国が先に次世代型スパコンの開発に成功すれば、日本や周辺国は、中国のいわば属国的な立場に置かれないとも限りません。
政体と「国民性」を一緒くたにしてなぜか日本だけはスパコンで平和貢献するはずと断言するところに、セールストーク的ご都合主義の匂いがプンプンする。他にも齊藤社長は、ネトウヨ御用達の『文化放送チャンネル桜』の取材に応じていた形跡もあった。
●政府の有識者会議委員にも...ペジー社・齊藤社長と安倍政権の蜜月
こうした動きを見ていると、齊藤社長が安倍応援団や極右陣営のがなりたてる中国脅威論に乗っかり、それをテコに自分の事業を国策化させる意図をもっていたのは明らかだろう。
そして、一方で、齊藤容疑者は安倍政権との関係をどんどん深めていった。2014年には詐欺容疑の対象となった経済産業省系のNEDOからの助成金を受けていたが、その金額はなんと35億円にのぼっていた。
2015年には文部科学省から表彰を受け、2016年には、政府のAIによる経済再生をテーマにした有識者会議の委員に抜擢されている。
さらに、2016年7月にはペジー社と理研が共同開発したスパコンを麻生財務相が視察、その案内役を齊藤容疑者が努めていた。
また、前述の朝日報道によれば、ペジー社だけでなく、齊藤容疑者が役員を務める複数の会社も、NEDOや文科省所管の別の国立研究開発法人から助成金や融資を受けていたという。
この安倍政権と齊藤社長の蜜月はなにを意味しているのか。巨額の助成金と関係があるのか。メディアは徹底的に検証する必要がある。
(編集部)