アイドルブームの昨今、アリーナクラスでのコンサートを開催するグループも増えているが、業界内外に"ここまで来たか"と言わしめたのが、"最強の地下アイドル"を謳う仮面女子だ。現時点でメジャーデビューもしておらず、シングル2枚を出しているだけにも関わらず、2015年11月23日にさいたまスーパーアリーナでワンマンライブを行うと発表したのだ。



 さいたまスーパーアリーナの収容観客数はアリーナモードで2万人規模、スタジアムモードなら3万5000人規模だ。いくら"最強の地下アイドル"とは言っても、仮面女子のワンマンライブで2万人の観客性を埋めるのはかなりハードルが高いことは言うまでもない。

 まさに無謀な挑戦をしようとしている仮面女子だが、世間的な知名度はほぼゼロに等しい。いったいどんなグループなのか、気になるところだ。

 仮面女子は、芸能事務所「アリスプロジェクト」に所属する「アリス十番」「スチームガールズ」「アーマーガールズ」の3グループからなる大型ユニット。その名の通り、「アイドルなのに仮面をかぶっている」というかなり異色なグループだが、常に顔を隠しているわけではなく、仮面は意外と簡単にと外してしまう。

 2012年12月31日、秋葉原に専用劇場「P.A.R.M.S(パームス)」をオープン。365日毎日公演を行っており、年間公演数は1000回オーバー。その数は、同じく専用劇場で公演を行うAKB48を超えるものだ。

 多くのアイドルフェスやロックフェスにも出演。今年10月18日にさいたまスーパーアリーナで行われたヘヴィメタルのフェス「LOUD PARK 14」にはオープニングアクトとして登場。LUNA SEAの真矢(ドラム)、SIAM SHADEのDAITA(ギター)、LOUDNESSの山下昌良(ベース)という超豪華なバックバンドを従えてパフォーマンスを披露した。
さらに、『仮面女子図鑑 史上最強の地下アイドル~仮面女子~の全貌』(オークラ出版)という公式ムックも発売するなど、メジャーアイドル顔負けの活動を展開している。

 そんな仮面女子だが、特徴的なのがその運営資金だ。アイドルに詳しい芸能ライターはこう話す。

「仮面女子の活動費は、アリスプロジェクトを運営するクリーブラッツという会社の社長である"せいじ"さんのポケットマネーでまかなっているといわれています。せいじさんは元々"芳晶せいじ"という名前でホストをしていて、ホストクラブ『Club ACQUA』の代表だった人物。ホスト時代に儲けたお金は数億円で、それをアリスプロジェクトに注ぎ込んでいるというわけです」

 ホスト時代のせいじ氏は芸能活動も行っており、Club ACQUAに務めるホスト8人でバンド「AcQuA-E.P.」を結成、シングル『禊 -MISOGI-』で2006年にデビューをしている。ちなみに、この曲の作詞は黒夢の清春、セカンドシングル『Re:dear...』は、作詞が飯島愛、作曲が清春という、なんとも豪華な作家陣となっている。また、成功哲学を綴った書籍も数冊出版するほか、テレビや雑誌にも積極的に出演するなど、一時期はカリスマホストとして引っ張りだこだった。

 しかしその一方で、2006年6月にはClub ACQUAの沖縄での慰安旅行中にホストらが乗る乗用車が街灯などに衝突、ホストが死傷する事故が発生。同年12月には同店のホスト3名が客の女性を酔わせて暴行し、準強姦容疑で逮捕されるという事件も起きるなど、トラブル・不祥事が絶えなかったのも事実だ。

 そういった事情が影響しているのか、現在せいじ氏は"元カリスマホスト"ということは公言していない。仮面女子に密着したテレビ東京の『東京マキタスポーツ』(9月23日放送)でも、「飲食業をやっていた」とは発言しているが、ホストクラブだったことについては全く触れなかった。


 過去を否定するかのようなせいじ氏だが、仮面女子の運営においては、水商売のノウハウを思いきり活用している。

「水商売の世界は、売り上げが多ければ多いほど収入が増えるシステムですが、仮面女子も同様のシステムになっています」(前出芸能ライター)

 前出のムック『仮面女子図鑑』では、メンバーと美川憲一の対談が掲載されているが、その中でメンバーの森カノンはこんな話をしている。

「毎日ライブをしているんですけれど、そのお給料はファンの方が入れてくれる投票コインの枚数なんですね。一枚150円なので、たとえば5人いたら750円みたいな感じなんです」

 完全にホストクラブやキャバクラと同じ。人気があればその分だけ給料がもらえるシステムだ。言うなればファンからの"指名"が取れないと稼げないのだ。

 しかし、ホストやキャバ嬢はそれなりの収入を得ているが、仮面女子のメンバーたちの生活はかなり厳しいものとなっている模様。ムック『仮面女子』の対談で森カンナは生々しい経済状況を吐露している。

「めちゃめちゃ貧乏なんです。北海道から出てきて一人暮らしなので家賃とかも払えず、借金をするんです」
「カード会社Aから借りてそれを返すためにカード会社Bから借りてまたそれを返すために...ってなるんですよ」
「この仕事はお金のためにやっている仕事ではないじゃないですか。だから夢を見て入って、ライブも楽しいしすごく毎日楽しいのに、家に帰ると緊急停止通知書、みたいな給水停止の通知書が来ていると、やばい水道代払わなきゃ、払うお金がないって気づいて、一気に現実に戻されるんですよ。お金が欲しいわけじゃないけれど、必要最低限のお金もなくってどうしよう、みたいな」

 極貧生活を強いられながらもアイドルという夢を追い続ける仮面女子のメンバーだが、地下アイドル業界においてはこれでもまだマシな方だという。


「地下アイドル事務所のなかには、レッスン費用やスタジオ代などをメンバーから徴収して活動しているところもあります。仮面女子の場合は、それらの経費は全部事務所持ちなので、むしろ良心的です」(前出・芸能ライター)

 ちなみに、アイドルグループを水商売のノウハウで運営するというのは、AKB48が始めたことだとも言われている。AKB48の結成時を知っている音楽関係者はこう話す。

「メイドカフェのショータイムが人気だということは、アイドルにショーパブをやらせればもっとウケるんじゃないのか、というアイディアからAKB48が始まったと言われています。AKB48立ち上げ時には、過去にショーパブやキャバクラの運営をやっていたスタッフが参加していて、そのノウハウが活かされていました」

 しかし、仮面女子のメンバーたちの生活が厳しいことからも分かる通り、いくらキャバクラやホストクラブを模したとしても、アイドルの世界ではなかなか成功に直結しないらしい。

「結局劇場だと客単価が低いので、なかなか儲からない。実際AKB48も途中で資金繰りが厳しくなった時期があったんですが、その後、強力なメディア展開をすることで軌道に乗りました。仮面女子も同じでしょうね。さいたまスーパーアリーナでライブをやるのも、話題性を狙ってのことだと思います。そうやってメディアに露出することで"売れているイメージ"を付けるという、まさにAKB48と同じ戦法に出ているのでしょう(前出・音楽関係者)

 仮面女子のさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブまで約1年。まだまだ時間はあるので、これからメディアに出まくり有名になれば、超満員も夢ではないだろう。ただ、その前にせいじ氏の貯金が枯渇してしまわないことを願うばかりだが...。

(田中ヒロナ)

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