国民のあいだで新型コロナへの不安が高まる一方、またも安倍首相の後手後手ぶりがあらわになった。きょう26日になって新たに「多数の方が集まる全国的なスポーツや文化イベントに関し、今後2週間は中止や延期、規模縮小の対応を取るよう要請する」と言い出したからだ。
政府は昨日発表した感染対策の基本方針で〈開催の必要性を改めて検討するよう要請〉などとイベント主催側に判断を丸投げしたばかり。それを一夜明けてこんなことを言い出すのなら最初から基本方針で決めておけという話で、いかに安倍首相の対応が場当たり的かという証左だろう。
しかし、そうした批判の矢面に立たされることから逃げるためか、新型コロナ対応に安倍首相は自分の存在を消すことに必死になっている。
本サイトでは以前から指摘してきたが、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号で初の死者2名を出してしまったときも、安倍首相は官邸ロビーで記者団の取材にたったの約2分間、応じただけ。「やってる感」アピールの格好の場である対策本部の会合も、わずかな時間で早々に済ませ、クルーズ船内の感染拡大に批判が高まった18日からはなんと5日間も開催しなかった。
そして何よりも、安倍首相はこれまで一度も正式な記者会見を開いていないのだ。昨日の基本方針決定も、会見の場に立ったのは加藤勝信厚労相。本来なら、国内で市中感染が広がるいま、総理大臣が国民に直接呼びかけるべき局面だが、そこからも逃げてしまったのである。
加藤厚労相にやらせるばかりで安倍首相の姿が見えないこの状況に、米ロイター通信も25日付記事のタイトルに「Where's Abe?」(安倍はどこ?)と掲げたほどだが、しかし、どうして安倍首相はリーダーシップを発揮せず、前面に出てこないのか。本日おこなわれた衆院予算委員会でもこの問題が取り上げられたのだが、すると、安倍首相からは驚きの答弁が飛び出したのだ。
まず、立憲民主党の枝野幸男代表は、これまでの対策本部が短時間で終わっていることを確認したのだが、安倍首相は「事前に実質的な議論は新型コロナウイルス感染症連絡会議を総理室でおこない、ここで相当議論している。昨日も1時間以上議論した」と反論。
「情報発信については、まさに国民の命を健康を守る私が最大の責任を持っている。当然のこと。クルーズ船の乗客の方が初めて亡くなられた発信は、私からも発信させていただいた」
「対策本部は14回開催し、報道陣の目の前で私から直接指示を出している」
官邸から出ていくときにたった約2分間、お悔やみコメントを発表しただけで「私からも発信した」と言い張るって……。だいたい、「対策本部では報道陣の前で指示を出している」と言うが、対策本部では記者からの質疑応答はない。ようするに、記者から責任追及されない場を選んでいるくせに、「俺はやってる!」とアピールしたのである。
だが、絶句したのはこのあと。国民民主党の玉木雄一郎代表が「国の統一的な意志が見えないんですよ。強い意志が。だから不安なんですよ」「国務を総理ができていますか」と問いただすと、ムキになった様子でこんな主張を繰り広げたのだ。
「毎日毎日、対策会議を開いております。
「(こうした内容は)いちいち外に対して発表もしません。そういうパフォーマンスには意味がないと思っております」
おいおい、「パフォーマンスには意味がない」と言える資格があるのは、パフォーマンスに終わらない責任感ある対策をとっている人物だけだ。それを国民や企業、自治体に責任を丸投げする対策しか打ち出せない人間が、よくも言えたものだ。
だいたい、「パフォーマンスには意味がない」って、安倍首相こそ、パフォーマンスばかりやってきたんじゃなかったのか。新元号の発表のときにはわざわざメディアに出演して「私が決めた」アピールをしたり、芸能人やアイドルとの会食をSNSで発信したり、G20サミットではハリウッド映画みたいなプロモーション映像を公開したり……。同じ危機対応でも北朝鮮ミサイル発射では総理談話を連発し、Jアラートを鳴らして脅威を煽っていた。
ところが一転、今回の新型コロナ対応では、肝心の局面になっても国民の前に立とうとはしない。そのくせ「パフォーマンスには意味がない」などといかにも立派なリーダー然としたことを言い出すのだから恥知らずもいいところだ。
実際、安倍首相の無為無策っぷりは、感染が拡大する韓国との比較によって浮き彫りになっている。
象徴的なのは、国内で検査を受けられる目安の基準を満たしながらも受けられないという悲痛な声があがっているPCR検査の実施数だ。
これだけではない。厚労省はHPに「新型コロナウイルスに関する事業者・職場のQ&A」(企業の方向け)を掲載しているが、「労働者が新型コロナウイルスに感染したため休業させる場合、休業手当はどのようにすべきですか」という質問に対し、2月21日時点版でも〈都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません〉と記載。いまだに感染者を休業補償の対象から除外し、社員は欠勤か有給休暇となると説明している。
一方、韓国では入院隔離されている人に対して、14日以上隔離された場合、4人世帯基準で月123万ウォンの生活費を支援することを決定。この支援の対象には外国人も含まれているという。また、隔離された労働者に有給休暇を提供した事業主にも有給休暇費が支給されるというのである。
国民や企業の不安を取り除くべく、あらゆる面で対応が取られている韓国に対し、この期に及んでも「自己責任」と言わんばかりに補償策を打ち出さない日本政府……。しかし、韓国ともっとも大きく違うのは、対策のトップに立つ人物の態度だ。
安倍首相は昨日、基本方針を決定しながら国民への説明を放棄し、加藤厚労相に記者会見を押し付けたが、この同じ日、文在寅大統領は感染が広がる大邱市を訪問。「政府は軍、警察までも投入して民間医療関係者の支援を含めた総力支援態勢を取っている。
こんなことを書くと、ネトウヨがまたぞろ吹き上がるのは目に見えているが、これは別に韓国や文大統領を持ち上げようと言うのではない。安倍首相および日本政府が酷すぎるのだ。実際、韓国の対策を取り上げた本日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)では、岡田晴恵・白鴎大学教授はこうコメントしていた。
「今回、(文)大統領が終息宣言から急に(感染症の警戒レベルを最高の)『深刻』に上げたと。こういう対応の早さですね。あと自分で旗振ってますよね。そこがすごいところで、私が昨日、基本方針を読んで大ショックだったのは、結局、厚労省マターでしか基本方針が出ていなくて。厚労省でやれる範囲、PCR検査は別として、行動規制とか集会規制とか、厚労省マターではないです。全省庁にまたがなきゃいけない」
「厚労省マターでやってるから、ああいうふうになっちゃう。
いまこそリーダーシップを発揮すべきときなのに、それをしようとしない安倍首相──。いや、先が思いやられるのは、安倍首相はいまだにこの新感染症に対して危機感を持っていないのではないか、ということだ。
現にきょうの衆院予算委員会では、共産党の藤野保史衆院議員が、現在政府が決定している緊急対策費総額153億円では少なすぎるとし、PCR検査体制の強化など必要な対策のためには予算の組み替えが必要だと提言した。たしかに、シンガポールでは新型コロナ対策で約5000億円も計上していることを考えれば圧倒的に少ないのは明白なのだが、しかし安倍首相は、はっきりとこう言い切ったのだ。
「経費と今年度予備費を活用することでですね、何よりも国民の健康と命を守ることを最優先に必要な対策を躊躇なく実行していくことが可能と、こう考えています。その上で、来年度予算については、現時点でこうした経費に直ちに不足が見込まれる状況ではありませんが、今後の影響にもしっかり目配りしながら注意深く対応していく所存でございます」
現時点で生活補償策も打ち出せていないというのに、安倍首相は153億円で事足りると言ってのけたのである。
PCR検査の拡大や休業補償など国民の健康と命を守るために必要な措置が山積みなのに、それを直視しない安倍首相──。責任を丸投げする昨日の基本方針でもあきらかだったが、もうこれではっきりしただろう。これ以上、安倍政権に危機管理を任せていては、本当にこの国は大変なことになる。そのことだけは確実だ。