中小・個人事業者向けの「持続化給付金」再委託の“丸投げ”“中抜き”が大きな問題となった電通だが、その電通グループが昨日13日、2020年6月中間連結決算を発表し、ネット上で再び怒りの声が高まっている。というのも、「純損益157億円で2年ぶりの黒字」だったからだ。
前年同期は12億円の赤字だった上、今年は新型コロナの影響を受けただけではなく東京五輪の延期によって広告が大きく落ち込んだはずなのに、赤字ではなく157億円の黒字──。しかも、会見をおこなった曽我有信・取締役CFOは、〈不要不急の出張や交際費の削減、執行役員の報酬減額などのコストコントロールを実施したことで増益となったと説明した〉(ロイター13日付)というのだ。
コスト削減で赤字から黒字……!? こうした報道を受けて、ネット上では「持続化給付金」の中抜き問題が再燃し、〈コスト削減?安倍政権からの持続化給付金の「中抜き」で丸儲けしただけやろ〉〈血税をたっぷり不正にパクっての黒字でしょ。持続化給付金の手数料とか〉といった意見が噴出。映画評論家の町山智浩氏も、こうツイートした。
〈コロナであらゆる産業が赤字を出しているなか、電通だけが黒字を出したのは政府が仕事を回したから。それは税金です。しかも電通自身はただ受注するだけでごっそり中抜きする。〉
しかも、こうした「政府が仕事を回したから」「中抜きで儲けただけ」というツッコミは、正鵠を射るものだ。
実際、電通グループが昨日公表した「2020年度 第2四半期 連結決算概況」のなかにある「業種別売上高の状況」を確認すると、2020年1−6月でダントツに売上高を伸ばしているのは「官公庁・団体」で、その金額は873億1400万円。前年同期比で、なんと99.9%増となっているのだ。
その他の業種は、ほとんどがマイナスか微増だから、「官公庁・団体」の大幅増分がなかったら、電通は数百億円の赤字になっていたということになる。
「持続化給付金」事業では、経産省は電通のダミー法人と思われる「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」に769億円で業務委託し、同協議会は749億円で電通に再委託、そこから電通は電通ライブや電通テックといった子会社5社へ645億円で外注していたことがわかっている。その電通子会社からさらにパソナや大日本印刷、トランスコスモス、イベント会社のテー・オー・ダブリュー(TOW)などに外注されているため、電通グループ全体の儲けがいくらになるのかは不明だが、このようなかたちで政府の事業を電通が請け負っているのだから、驚異的に売上高を伸ばしている理由もよくわかるというものだ。
しかも、問題は「持続化給付金」だけではない。たとえば、今年9月からはじまる総務省の「マイナポイント」事業では、サービスデザイン協議会設立時の代表理事と同一人物が代表理事を務める「一般社団法人環境共創イニシアチブ」を通じ、一部業務を電通が再委託。電通への再委託額は約139億7000万円にものぼっている。
さらに、消費税の税率10%引き上げに伴って経産省が開始したキャッシュレス決済のポイント還元事業でも、「一般社団法人キャッシュレス推進協議会」が2019・20年度に計339億円で事務を受託し、電通が307億円で再委託している。
ようするに、このような政府とベッタリの蜜月関係によって、電通はコロナ禍でも肥え太り、2年ぶりの黒字を叩き出したのである。
電通の榑谷典洋・取締役副社長執行役員は6月8日に開いた会見で、「持続化給付金」事業での最終的な利益について「我々が通常実施する業務と比較すると、低い営業利益になる。不当な利益を狙うのはルール上、不可能な構造だ」(朝日新聞デジタル6月29日付)などと語っていたが、何をか言わんや。その上、「コストコントロールを実施して増益」と説明するとは、ふざけるな、という話だろう。
だが、電通はこれだけ儲けておきながら、経産省の「家賃支援給付金」事業をめぐってライバル会社の“妨害工作”をおこなっていたことまでわかっている。
〈今後電通がある理由で受託に乗り出さないコロナ対策支援策があります。具体的には家賃補助の給付事業です。この話は電通がやりたくない、かつ中企庁もいろんなところに相談をして全て断られ、最終的に博報堂が受注の可能性があるものになりそうです。〉
〈そのため、電通傘下で本事業にかかわった会社が、この博報堂受託事業に協力をした場合、給付金、補助金のノウハウ流出ととらえ言葉を選らばないと出禁レベルの対応をするとなりました。〉
〈当然ですが弊社が協力をお願いした皆様にもすいませんが、強制的にお願いしたい次第です。〉
「博報堂には協力したら出禁」「強制的にお願いしたい」──あまりにも露骨な恫喝だが、この圧力をかけるための文面は、電通の「持続化給付金」事業を担当していた管理職の社員がTOWの社員に発言し、それをTOWの社員がまとめ、下請け企業の担当者に送っていたのである(朝日新聞デジタル6月29日付)。
この恫喝メッセージが送信された2日前である5月22日には、決算行政監視委員会で立憲民主党の川内博史衆院議員が「持続化給付金」の電通再委託問題をはじめて指摘、追及をおこなっており、それを受けて電通は〈受託に乗り出さない〉と判断した可能性が高いだろう。
自分たちに疑惑追及の手が伸びそうだと察知した途端に、博報堂の仕事を妨げようと恫喝をかける──。しかも、この「家賃支援給付金」事業の入札では、評価指標の「等級」で博報堂がAだったにもかかわらず、Cだったリクルートが落札。ここでも経産省と電通の癒着関係が影響を及ぼした可能性があるのだ。
経産省を筆頭とする官公庁との深い関係によって巨額の税金が電通に流れているのではないかという疑惑のみならず、その関係が他の事業にまで不正を生み出しているのではないか。
しかも、昨日の決算にかんする会見でも、この問題について質問も飛んだが、曽我取締役CFOはその質問を遮ったという(朝日新聞デジタル13日付)。さらに、〈会見後に担当者は「私たちは再委託先。協議会や経産省に問いあわせてほしい」と話した〉というのである。
恫喝メッセージを送りつけて圧力をかけるというコンプライアンスもへったくれもないことをやっておきながら、それどころか独占禁止法違反にあたるのではないかという指摘まであるというのに、質問を遮り、挙げ句「私たちは再委託先。経産省に問い合わせろ」とは……。
自分たちの問題を「政府に訊け」と言い放つほど、どうしてこれほどまでに電通は強気なのか。無論、その強気さは、安倍政権との癒着が背景にある。
本サイトではたびたび言及してきたが、安倍政権下では官庁の補助金事業だけではなく、「政府広報」でも電通への依存が急増。民主党政権時は事業仕分けによって約41億円にまで削減された「政府広報費」は、第二次安倍政権発足以降はどんどん増額され、2020年度は約85億円と倍以上になっているのだが、その多くが電通に流れている。実際、政府から電通に支払われた「政府広報費」は、以下の通りだ。
2013年度/約17億7200万円
2014年度/約30億8700万円
2015年度/約35億6300万円
(2016年度は不明)
2017年度/約43億2200万円
2018年度/約50億7200万円
2019年度/約40億6100万円
2016年度が不明であるにもかかわらず、その額はなんと、約218億7700万円──。
さらに先月には、内閣官房におかれた4人の「広報調査員」のうち1人が電通からの受け入れであることが発覚、しかも前任者も電通社員だった。公募はかたちだけで、広報調査員には「電通枠」があり、ずっと電通から派遣されてきた可能性が高い。
だが、安倍政権がここまで電通を厚遇し、その金をいろんなかたちで流しているのはなぜか。政治評論家がこう語る。
「電通はいまや、“安倍政権の情報操作部隊”というべき存在です。自民党の選挙CM、広報はもちろん、ネットのSEO 対策、情報操作なども多くは電通にやらせている。つまり、こうした一体関係の見返りとして、政府事業で巨額の利益を電通に配分しているのではないか」
実際、電通が長きにわたり自民党の選挙広報をほぼ独占状態で引き受けてきたことは有名だが、第二次安倍政権発足以降、その関係はただのクライアントと広告代理店のレベルではなくなった。いまでは、ネットのSEO 対策(検索エンジン最適化)、政権批判の監視やメディア、野党への匿名攻撃などまで請け負うなど、“安倍政権の情報操作部隊”というべき存在になっている。
はじまりは2013年の参院選挙だ。自民党はネット対策の特別チーム「Truth Team」(T2)を立ち上げ、専門の業者に委託するかたちでツイッターやブログの書き込みなどを24間監視。自民党に不利な情報があれば管理人に削除要請したり、スキャンダルなどネガティブな情報が検索エンジンに引っかかりにくくさせるための「逆SEO」までおこなった。
じつはこのT2という自民党のネット対策プロジェクトは、電通からの提案で始まったものだったことがわかっているのだ。
「自民党が次の総選挙で政権返り咲きする可能性が高くなった2012年夏頃から、電通が自民党に提案する形で、本格的なネット対策が始まったと聞いている」(自民党関係者)
実際、当時、自民党のデータ分析を担当していた小口日出彦氏は著書『情報参謀』(講談社)のなかで〈T2の元請けは電通だった〉と明かしている。
しかも、本サイトの取材で、この「T2」はいまも毎年、自民党から電通に発注されつづけていることがわかった。さらに、選挙や対立する政治課題が持ち上がったときは、特別な指示を出して、SNS監視や対策を電通にやらせているという。
「たとえば、先の沖縄県知事選挙でも、電通が請け負って子会社の電通デジタルなどがSNS対策をやっていた。あのときは、玉城デニー知事をめぐってさまざまなデマ情報が拡散したが、これらのなかにも電通が仕掛けたものがいくつもある」(前出・自民党関係者)
新型コロナでも、電通がネット対策に動いている。3月に内閣官房のTwitterアカウントが『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)を名指しして報道を否定したのは、電通とは関係なく、国際感染症対策調整室が発信したもののようだが、それとは別に、電通の子会社である電通デジタルが自民党のコロナ特設サイトを立ち上げ。あたかも対策が自民党の手柄であるかのようなPRをおこなっているのだ。
しかし、不可解なことがある。これだけいろんなかたちで電通が安倍政権・自民党の情報操作に関わっているのに、その発注金額がたいしたことがないことだ。たとえば、2018年分の政治資金収支報告書によると、自民党本部が「宣伝広報費」として電通ならびにその支社に支出した金額は合計6億1909万9607円。もちろんこれは別名目で支出していたり、ダミー会社を間に挟んでいた可能性もあるが、仕事量と比べると、この金額は安すぎるだろう。
そして、今年「持続化給付金」をめぐる巨額発注が発覚したことで、政界関係者の間では、ある疑惑がささやかれている。それは「電通に自民党の選挙対策や政権のネット対策を安価でやらせる見返りに、政府の補助金事業や政府広報で巨額の発注をしているのではないか」という疑惑だ。
今回の電通の決算で「官公庁・団体」の売上高が驚異的に伸びていることからも、この疑惑はさらに裏付けられたのではないか。
いずれにしても、巨大広告代理店に政権や自民党の広報、ネット情報操作をやらせ、一方で政府の税金を使った公的事業で甘い汁を吸わせるというのは、政治的公正さを著しく欠いた行政の私物化、不正行為としか言いようがない。しかも、その癒着にわれわれの巨額の税金が横流しされているのだ。
「持続化給付金」再委託や「家賃支援給付金」をめぐる恫喝メッセージ問題など、電通と政府の癒着問題にはいまだに不明な点が多い。そもそも、新型コロナの感染拡大でも国会を開かないという異常事態となっているが、これは本来、電通の代表者が参考人として出席した上での国会追及が必要な問題であることを、あらためて指摘しておきたい。