爆笑問題・田中裕二が脳梗塞とくも膜下出血で救急搬送されたことをめぐり、この間、ワイドショーやネットニュースが連日大きな話題として取り上げていたが、この問題で改めて浮き彫りになったのが、太田光のコロナに対する“安全厨”ぶりだ。
太田は、コロナ感染との関連が指摘されている相方の急病を受けてもなお、コロナと結びつけるな、コロナを恐れるなと主張したのである。
それは、1月24日放送の『サンデー・ジャポン』(TBS)でのこと。この日の『サンジャポ』は入院中で不在の田中に代わって、くりぃむしちゅーの上田晋也が、太田とともにMCを務めたことが話題になっていたが、冒頭から田中の入院を大々的に特集。そのなかで、田中が昨年8月に新型コロナに感染・入院したこととの関連が取り上げられた。
新型コロナウイルス感染症では肺炎などの呼吸器疾患とならび、血栓症も世界中で数多く報告されている。実際、夏にコロナに感染し中等症で入院していた品川庄司の庄司智春も、後遺症で血栓ができやすくなっているとして、薬を飲んでいることを明かしている。
今回、田中が救急搬送される原因となった脳梗塞やくも膜下出血は血栓によって引き起こされるため、コロナとの関連を疑うのは当然だろう。
『サンジャポ』では、田中の入院の経緯や病状をまとめたVTRのなかで、国内の新型コロナ患者約6000例のうち血栓症が105例、そのうち22例が脳梗塞とする、厚労省研究チームが12月に公表したデータを紹介。
さらに、この日は爆笑問題と同じタイタン所属でもある医師の奥仲哲弥氏(山王病院副院長・国際医療福祉大学教授)がコメンテーターとして出演していたのだが、奥仲氏も上田から「原因なんですけれども、新型コロナの影響というのは考えられるんでしょうか」と話を振られると、こう解説した。
「欧米では、重症化するパターンが、日本人は肺炎が多いんですけれども、欧米では、サイトカインストームによって肺よりむしろ血管への障害が多い、心筋梗塞とか脳梗塞も含めて、そっちのほうが死因が多いんですね。田中さんも、本来実は起き得ない場所に、細い前大脳動脈に炎症が起きたと、傷ができた。これは、やっぱり新型コロナによって、血管が脆弱になってしまっていたということは、否定できないかと思います」
また、奥仲氏は、盛んに報じられていた「お菓子王子」「お菓子食べ過ぎ」との関連についてフワちゃんから問われると、否定した。
田中が脳ドックを毎年受けており異常はなかったと搬送前日のラジオで語っていたことは広く報じられているが、奥仲氏は脳ドックでのMRAやMRIなども見たことを明かし、「実際、彼のドックの写真は僕も拝見しました。
問題はそのあとだった。強い痛みのため自分一人では電話ができなかったかもという話題から、武井壮が一人暮らしの不安について話していたら、太田光がわざわざ割って入って、こんなことを話したのだ。
「ただ、コロナの後遺症とかみなさん心配されると思うんですけど、コロナ自体がまだわかっていないので、田中のなった要因が何が原因かは正直わからない。とくに冬のあいだっていうのはこういうことは増えるので。田中も風呂上がりだったということもあったり、そういう話もあるんで。あんまりコロナと結びつけて、必要以上にコロナを怖がるっていうか、それはちょっとあんまり、いまはあんまりしないほうが」
太田は、田中の脳梗塞やくも膜下出血について、「コロナと結びつけるな」「コロナを必要以上に怖がるな」というのである。
しかも、これ、有無を言わせぬ雰囲気で、上田も「まあ、まあね。脳ドックもね、田中さんは見つかりませんでしたけど、行っとくに越したことはないんでしょうしね」などと話をごまかして曖昧にまとめるだけだった。
たしかに、コロナをめぐってはSNSだけでなくテレビなどでも真偽不明の情報やフェイク情報がたくさん流れたが、血栓については、そういう次元の情報ではまったくない。
上述のとおり、新型コロナウイルスによって血栓ができるという症例は世界中で多数報告されている客観的事実であり、呼吸器外科の医師である奥仲氏も関連性は否定できないと解説していた。その関連性を指摘することは、「コロナはたいしたことない」という認識の人も少なくないなか、そのリスクをあらためて知らしめるという意味で、非常に有意義なことだ。
にもかかわらず、太田は「コロナに結びつけるな」「コロナを恐れるな」とわざわざ主張し、議論を封じてしまったのだ。
もちろん、病気の原因が何かを判断するのは専門医でも難しいし、ワイドショーで結論を出す話ではない。しかし太田は「お菓子王子だから?」や「ハードワークだったのでは?」という質問については「憶測で言うな」とは言ってないし、逆に、太田自身が「風呂上がりだった」などと曖昧な話を持ち出している。
ようするに、太田はただただ「コロナはたいしたことない」と言いたいだけなのだ。
実際、太田の「コロナたいしたことない」発言は今回だけではない。
たとえば、コロナ禍初期の昨年3月はじめには『サンジャポ』で、コロナの危険性について、こう疑問を呈していた。
「お年寄りや持病を持っている方は重症化する可能性もある。でも、うちの親父やお袋もそうでしたけど、年寄りは毎日、それを気を付けなければいけない。尻もちを突いたり、誤飲しただけですぐに肺炎になって、あっという間に死んじゃうわけですから。
「インフルエンザは年間3000人亡くなっている。コロナに関してはまだ十数人。お年寄りや妊婦さんや持病を持っている人以外の若者っていうのは、家で寝てれば治る程度」
「回復した人はいっぱいいるって。だけど恐怖心があるために、そこの部分がみんな聞こえなくなっちゃう。本当にこんなに恐れるべき病気なのか」(『サンジャポ』2020年3月1日放送)
この時点ではコロナは未知の疾病であり、間違いがあることは仕方ないが、本来はだからこそ過小評価は避けるべきだ。しかも、このあと感染が拡大し多くの犠牲者が出ても、太田のこのコロナリスク過小評価は変わらない。
3月下旬に志村けんが亡くなったときも、志村を追悼する一方で、「たしかに(コロナの)危険性を教えてくれたけど、志村さんがいなくなって、コロナの毒性が上がった訳じゃないから」(TBSラジオ『爆笑問題カーボーイ』2020年3月31日放送)と、コロナと切り離して考えろと釘を差す。
感染者が日に日に増加し、第1波の緊急事態宣言の発出直前になっても、恐れるなと繰り返した。
「WHOの情報も二転三転しているように見えるけど。マスクが足りないときだったら、その発症している人は別にそこまでマスクをする必要はないというメッセージも伝えているし、情報が変わってきたら、またその都度メッセージが変わってくる。とにかくパニックにならないってことが一番重要」
「いまニューヨークの現状を見ると確かにもう言葉も出ないというくらいな感じになっているけれども、正しく怖がるということがやっぱりいまも重要で。あれで(ニューヨークについての報道を見て)怖いといって病院に行っちゃうと、さらに医療崩壊につながっちゃうわけだから。
また、昨夏に東京で第2波が拡大、政府の後手対応に危機感を募らせた尾崎治夫・東京医師会会長が「いまのやり方では限界がある。日本全体がどんどんどんどん感染の火だるまに陥っていく」と警鐘を鳴らした際、こんなふうに尾崎会長を批判した。
「今回のコロナは季節性のインフルと同程度でそれほど恐れる必要はない(という専門家もいる)」
「あれをなんで国民に訴えるか疑問。政府の専門家委員会に知り合いがいっぱいいるからそこに訴えればいい」
「尾崎会長の会見は、かえって国民の恐怖を煽る」(『サンジャポ』2020年8月2日放送)
さらには、「陽性者が増えてるのは PCRの機械の感度がすごく上がってて、昔だったら感染とは言えないレベルのことまでも拾い上げちゃってるみたいなこともある」(同前)などと、フェイクまがいの情報まで口にした。
その後、相方の田中がコロナに感染すると、それまで偽陰性や偽陽性があるなどと散々批判してきたPCR検査を受けるが、それでもコロナに対する過小評価は変わらなかった。
実際、太田自身、今年発売の「週刊朝日」(朝日新聞出版)のインタビューで、このように語っている。
「僕の受け止め方は、去年の春からあまり変わっていないんです。さほど恐れるものではない、と」
「「サンデー・ジャポン」(TBS系)なんかでも、なるべく恐怖心をあおらないようにしようねということは常々言っています」
「他のワイドショーなんか見てると、コロナを通して恐怖心をあおって、政府を批判するということになりがち」(「週刊朝日」2021年1月22日号)
1年近く経ち、コロナの危険性に関しても様々わかってきたが、太田は認識をまったく改めていないというのだ。
死亡者は5000人を超え、自分の直接の知人も亡くなり、相方も感染し、相方が後遺症の可能性もある病気で救急搬送され、それでもまだ太田は「コロナを必要以上に恐れるな」と言っているのだ。
これはもう逆に過剰だろう。太田は「正しく怖がる」「正しく恐る」ということを繰り返し語っている。この「正しく怖がる」というのは、3.11の原発事故をめぐってもよく語られた言葉。
しかし、この「正しく怖がる」は物理学者で随筆家の寺田寅彦の『小爆発二件』という文章に由来するものだが、実は寺田はこのように綴っている。
〈ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた。○○の○○○○に対するのでも△△の△△△△△に対するのでも、やはりそんな気がする。〉
寺田は「怖がりすぎ」を批判しているのではなく、「恐がらなすぎ」も同様に安易だとした上で、「正当に怖がることは難しい」と書いているのだ
そういう意味では、コロナの危険性に関する科学に基づいた客観的事実を聞き入れず「怖がるな」と言う太田こそ、「正しく怖がること」がまったくできていないのである。
太田は自分が冷静ですべてをわかっているふうに高みに立って、「コロナはたいしたことない」と主張し続けているが、その太田の「恐がらなすぎ」な態度は冷静でも科学的でもない。むしろ、災害などに直面したときに、不安が強すぎて逆に「大丈夫」な根拠だけを探してしまう「正常性バイアス」、あるいは、大衆がパニックを起こすことを権力層が過剰に恐れ、それを抑え込もうと権力層のほうがパニックになる「エリートパニック」の典型というべきだろう。
自分一人そういう偏った考えに拘泥するのは勝手だが、太田はメディアに出ている立場だ。自分の発言が正当に怖がっている人を抑圧し、感染防止を妨害することにもう少し自覚的になるべきだろう。