兵庫県南あわじ市の「慶野松原」は、絶景の松林が見られる名勝で「日本の夕陽百選」にも選ばれています。そんな松林が今、ある存在によって脅かされ、ピンチに瀕しています。
その原因は、“運び屋”や“侵略者”となり松に害なす虫。本来は1年を通して緑を保つ松の葉が茶色く枯れてしまう現象=「松枯れ」を引き起こしているというのです。
美しい松林で一体何が…現地を取材しました。
「日本の夕陽百選」にも選出される国指定の名勝「慶野松原」
兵庫県南あわじ市。海岸沿いに見事な松がずらりと立ち並ぶのが、国指定の名勝「慶野松原」です。
その数約5万本。全長約2.5kmにわたって絶景が広がります。
松林越しに望む瀬戸内海の夕景が美しく、「日本の夕陽百選」にも選ばれています。
「異常事態…」絶景の松林が枯れる
しかし、この美しい土地で頭を抱えている人がいます。南あわじ市の職員、別所魁晟さんです。
その悩みのタネは…
(南あわじ市文化・スポーツ振興課 別所魁晟さん)「これはもう枯れ切っている松です。非常にまずいなと思います。異常事態ですね」
葉が茶色くなってしまった松の木。本来、松は1年を通して緑を保つ木ですが、こうした「松枯れ」が慶野松原のいたるところで起きているというのです。
「松枯れ」が広く進行… 辺りは切り株だらけ
松林を奥へと進んでいくと…
(別所魁晟さん)「ここが慶野松原で最も枯れた場所になっています」
(MBS川地晴也記者)「見渡す限り切り株だらけ」
おびただしい数の切り株。先ほどの松のように枯れてしまったため伐採したといいます。
さらに、別の場所でも…
(別所魁晟さん)「ここも集団的に枯れて、ここ2、3年で大量に伐採したところになります。残っている木も結構細めのやつなので、寂しい場所ですね」
慶野松原を上空から見てみると松枯れを起こした木が切られ、地面がむき出しになっている場所がいくつも見られます。
「松枯れ」の原因は『マツノザイセンチュウ』という虫
名勝を悩ませる「松枯れ」の原因は「マツノザイセンチュウ」。大きさわずか1mmほどの外来種の線虫です。この線虫は主に「マツノマダラカミキリ」という昆虫の体内にいます。
このカミキリ虫が松の樹皮などを食べる際、その傷口から「マツノザイセンチュウ」が内部へと侵入します。
すると松が「アレルギー反応」のようなものを起こして結果的に枯れてしまうというのです。
「昔からいっぱい松あったから寂しい」マツノマダラカミキリが繁殖しないよう木の伐採
市は線虫を運ぶマツノマダラカミキリが繁殖しないよう「松枯れ」を起こした木の伐採を毎年行っていて、近年その数は増えているといいます。
(別所魁晟さん)「(伐採数は)2024年で600本で、2025年で700本ぐらい、だんだん増えてきている状態です。見つければ見つけるほどすごい残念な気持ちにはなりますね」
こうした状況に地元住民は…
(地元住民)「昔からいっぱい松あったから寂しいよね」
(地元住民)「切り株が目立つと『これどうなんかな』と」
北海道を除く46の都府県で被害 近年は被害拡大
林野庁によりますと、「マツノザイセンチュウ」による松枯れ被害は「国内最大の森林病虫害」とされ、現在、北海道を除く46の都府県で被害が確認されています。
鳥取県中部の北栄町でも海沿いの松林の大部分が茶色くなっています。県によりますと、近年松枯れが目立ち始め、去年は前年よりも6割増えたといいます。
影響は景観だけに留まらず、海岸沿いでは防災林としての機能が低下し、高潮や砂による被害が起きる可能性があるといいます。
(鳥取県森林づくり推進課・三浦功次さん)「こういった海岸松林がなくなると、すぐ裏にある農地の作物が塩害や飛砂によって生育できなくなったり、道路や住宅が砂で埋まってしまうということが考えられる」
国内全体の松枯れの被害量は減少傾向にありましたが、近年再び増加へ転じ、2024年は前年に比べ24%も被害が拡大しています。
南あわじ市は被害を食い止めようと巨大なファンを使い薬を散布
兵庫県南あわじ市では、松枯れに悩む慶野松原では被害を食い止めようと必死の防衛戦を展開しています。
原因となる「マツノマダラカミキリ」を駆除するための薬剤を巨大なファンを使って散布していきます。
さらに、機械が入れない場所は人の手も使います。
「マツノマダラカミキリ」が羽化する今の時期に慶野松原に生えている約5万本の松すべてに3日間かけて薬剤を散布します。
(別所魁晟さん)「薬剤散布をしなかったら今の被害の数倍は確実に増えると言われているので、すごい危機感を持って取り組む問題」
専門家は「被害を完全に抑え込むのは極めて難しい」
ただ、こうした対策をおこなっても、松枯れ被害は抑えきれないといいます。食い止めることはできないのでしょうか。松枯れに詳しい専門家は…
(森林総合研究所研究専門員・中村克典さん)「人間の防除(虫の駆除)の力が虫の勢力に押されているというような形で、いま広がってきてるという風に考えた方がよろしいかと思います」
専門家は南あわじ市が行っているような薬剤散布や枯れた松の伐採などが効果的であるとする一方、被害を完全に抑え込むのは極めて難しいといいます。
(森林総合研究所研究専門員・中村克典さん)「その域内だけで完璧な防除を行っても、周りからカミキリムシが飛んできてしまえば、やはりまた病気広がるということになります。伝染病ですから線虫がが入ってしまったら根絶するということは難しい」
「マツノザイセンチュウ」に耐えることができた強い品種も誕生
そんな中、ある対策が注目されています。兵庫県朝来市にある県の施設に植えられているのが…
(森林林業技術センター研究員 中川湧太さん)「これらが『ひょうご元気松』の親木となる木になります。おおむね従来の松に比べれば2~3割ぐらいは枯れにくい」
県の森林林業技術センターが開発した、マツノザイセンチュウに強い抵抗力を持つ品種「ひょうご元気松」です。研究員の中川湧太さんによると、おおむね従来の松に比べて2~3割は枯れにくいといいます。
(森林林業技術センター研究員 中川湧太さん)「松枯れが激しく起こった場所で生き残ったものをベースに種を取ってつくっています」
松枯れ被害が激しかった地域で生き残ったマツから増やした個体に、「マツノザイセンチュウ」をあえて寄生させ、それにも耐えることができた強い品種です。
「かけがえのない絶景」を未来へ残すためにできることは
更地に植えられた小さな苗木松枯れに悩む南あわじ市の慶野松原でもこのひょうご元気松を取り入れて失われた松林を再生させようとしています。
(別所魁晟さん)「伐採するだけだったら減っていくしかないので、増やすためには植樹が一番大事かなと思うので、10年後50年後の未来ではひらけた場所がないような思いで植えてますね」
地域の誇りである「かけがえのない絶景」を未来へ残すため、これからも闘いは続きます。
(2026年6月10日放送 MBS『よんチャンTV』内 特集コーナー『発掘!憤マン』より)

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