メディアゴン編集部

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今、日本の音楽シーンはラップブームが続いている。

2016年頃に、いわゆるサイファーやフリースタイルという競技性・対戦性のあるラップが空前の人気となり「第三次ラップブーム」と呼ばれた。
それがコロナ禍の沈静化した近年、急速に大衆化が進んでいる。この状況は、いわば「第四次ラップブーム」であると言えるだろう。

現在の第四次ラップブームは、MCバトルを核とした第三次ブームから続いている状況なのだが、大きく違う点は、「大衆化」という点であろう。第三次までは、あくまでもラップを専門としているアーティストやプレイヤーによって担われていたし、少なくとも、アンダーグラウンドな雰囲気がまだまだ強かった。たとえば、テレビで活躍しているような、いわゆるメジャーグループなどは、「ヒップポップ(HIP POP)」などと揶揄されることもあった。

しかし、近年様々に登場しているMCバトル番組やコンテンツなどを見ると、日本のシーンの様相もずいぶんと変化してきたように感じる。
まず、一見、ラッパーには見えない女子高生による「JKラッパー」などが人気を得ている。呂布カルマ氏のように、論破王の異名をとるコメンテーター/タレントとして活躍しているフリースタイラーも登場するなど、今回の第四次ラップブームは完全にラップが日本の大衆文化として定着するフェーズになっているといえよう。

そんな中、もちろん、古くから日本のヒップホップ/ラップシーンを牽引してきた人たちも「レジェンド」として現役の活躍をしている。とはいえ、第四次ラップブームの以前と以後では、完全に価値観やカルチャーが異なる、という点も指摘される。

たとえば、MCバトルのプロリーグ化を目指すとして始まったレジェンドであるZeebra氏も出演するラップバトル配信動画「FSLトライアウト」では、出演者たちによる暴力的な言動が批判を受けている。

しかし、ある程度過去の歴史を知っている人であれば、MCバトルが、極めて暴力的なコンテンツであり、また、それを楽しみにしているいわば「プロレス的な楽しみ方」「ギャング映画の面白さ」があることも事実である。
暴力的な表現や要素があるからといって、単純に批判されるべきものではないように思う。しかし、それを楽しむことができない層が多く登場しているということは、日本のヒップホップシーンが、アンダーグラウンドなものから、「お茶の間で楽しむ大衆文化」として定着が進んでいるということなのだろう。

さて、2023年も終わりに近づき、MCバトルを中心に、2024年もさらに盛り上がることが期待される日本のラップシーンだが、今後は、大衆化も含めて、アメリカのような多国籍でメジャーとインディの垣根がほとんどなくなるような、ボーダレスなシーンになってゆくのではないかと編集部では予想している。

かつては、90年代の第二次ブームを牽引したM-floは、インターナショナルスクール出身者による英語と日本語のちゃんぽんラップで一斉を風靡したが、一方で、大衆化とまではゆかないものの「おしゃれなヒップポップ」になっている状態であったことは否めない。アメリカでメキシコ移民の二世、三世たちが作り上げたヒスパニックと英語によるチカーノシーン(メキシコ系アメリカ人のシーン)のようなものは、わずかに東京生まれ・メキシコ育ちのミックスメキシカンMCのAKLO氏がいるだけで、まだまだ日本では定着していない。

しかし、そういったヒップホップシーンを「下から支える」ような頑丈で実力あるアーティストたちが続々と傑作を生み出していることは事実であり、今後は彼ら・彼女らが日本でもどんどん表にでてくる段階にくるのではないか。
少なくとも、英語と日本語での完全なバイリンガルラップをこなすMCも数多く登場している今日、それがさらに本場アメリカのような多国籍・無国籍化を加速させてゆくように思う。

たとえば、日本を代表するジャパニーズ・チカーノシーンの第一人者であるDESTINO(デスティーノ)は今後期待される一人だ。リリースのペースは決して多いとは言えないが、日本語とスペイン語を織り交ぜたラップはリリースから時間を経ても根強い人気を誇り、新曲のリリースや活動の活性化が望まれているレジェンドの一人だろう。
<GAYA-K&DESTINOが始動>第四次ラップブームを支...の画像はこちら >>
そんなDESTINOが満を持して本年末に新ユニット「Light Law (ライトロウ)」で活動を始動するというから注目だ。Light Lawは、プロデューサー・GAYA-K氏と新たに結成したユニットで、2023年12月28日に、THE BRIDGE YOKOHAMA「CROSS ROAD 23’」にてファーストライブを行う。

GAYA-K氏といえば、プロデューサーとしても、日本ヒップホップシーンの立役者と名高く、TV番組「流派R(テレビ東京)」のオープニング・エンディングテーマソングやラジオ番組、雑誌などの様々なメディアで露出している日本シーンのオリジネーターの一人だ。


GAYA-K、DESTINOの両氏は共に20年以上のキャリアを有し、アンダーグラウンドからメジャーまで、幅広くファンを持つ実力者だ。その二人が所属レーベルの垣根を超えて新ユニットで活動を始めるというのは、なかなかユニークな試みだろう。これも、第四世代シーンが盛り上がりを見せる中、無視できない動きの一つである。

さて、両者のLight Lawのデビューシングルも刺激的だ。DESTINOの2004年のヒット曲「LOCO POR VIDA」をDJ☆GO氏がリミックスして、「Mi Vida Loca」として再構築した曲である。すでにYoutubeなどのネットメディアでは先行MVが公開されているので、ぜひチェックしていただきたい。


ちなみに同曲のリメイクを担当したDJ☆GO氏は、1990年の初頭からDJとしてマルチに活動するヒップホップクリエイターである。GAYA-K氏とは、昨年もクリスマスソング「LAST CANDLE feat.TAK-Z(GAYA-K&番頭)」のプロデュースも担当している。(なお、DJ☆GO氏の師匠は日本最初の職業クラブDJの一人とも言われる宇治田みのる氏である。)

来年には大物プロデューサー陣を迎えた新曲EPのリリースも控えているというGAYA-K氏に直接話を聞いた。

(以下、インタビュー)

 編集部:MCバトルを中心に展開している第四次ラップブームの中、最近は、第二次、第三次ブームの頃から活動を続ける大御所やレジェンドアーティストたちの活動も活性化していますね。
GAYA-K氏:確かに、良くも悪くも、シーンが盛り上がれば、やはり私たちのようなキャリア20年以上のベテラン勢も負けてられませんよね。
もちろん、現在のシーンへの感じ方や考え方は人それぞれだと思いますが。
編集部:Light Lawを始めた目的は何ですか?
GAYA-K氏:Light Lawのコンセプトは、「やり残した事を探しにいく旅」です。
編集部:過去にできなかったこと、やり残したことがあった、ということですか? GAYA-KさんもDESTINOさんも、今日の日本のヒップホップシーンに至るまでの期間、多くの活動実績がある、という印象ですが。
GAYA-K氏:いえ、アーティスト人生に取りこぼしがある、というマイナスの意味ではありません。むしろ40代になったGAYA-K&DESTINOの2人が、厳しい今の時代を生き抜く同世代や、道に迷っている若者たちへ向けて、俺たちも同じであり悩みもがきながらも等身大でメッセージを伝えたいという、むしろ応援歌というか、前向きな意味です。
編集部:確かに、第二次ブーム、第三次ブームの真っ只中にいた人たちは、もう40代、50代ですよね。私を含め、悩みが多い世代かもしれません。
GAYA-K氏:ただし、勘違いしてほしくないのは、ノスタルジーではない、ということです。新曲「Mi Vida Loca」は第三次ブームの頃のヒット曲である「LOCO POR VIDA」のリメイクですが、決して紅白歌合戦的な「昔のファンを当てにした曲」ではありません。
編集部:今の若いヒップホップ好きは、昔のレジェンド好きが多いことは事実ですが、この曲自体はリメイクのレジェンド感は出しつつも、今の若い人たちにとってはかなり新鮮に聞こえるんじゃないか、という印象です。
GAYA-K氏:そうですね。私たちとしては、昔を賛美する現代に疲れてしまった奴らに、まだ自分もいけるんじゃないか? そう思わせたいです。むしろ、Light Lawはそういう思いで結成したユニットです。
編集部:なかなか興味深い試みですね。Youtubeなどで、ヒップホップをテーマにしたチャンネルや番組もかなり増えていますし、中にはそうとう専門性の高い、魅力的なコンテンツも多いので、今後、Light Lawをそういった場面で眼にすることも多くなると思います。期待しているので、同じ第二次・第三次ブームの世代として楽しみしています。

(以上、インタビュー)

大衆化が加速している現在の第四次ブームは、それ以前の第二次・第三次ブームの世代とのジェネレーションギャップが進んでいることは事実である。第二次・第三次ブームを牽引したベテラン世代がまだまだ現役の第一線で活躍している点もギャップを加速させているように思う。
しかし、そんなジェネレーションギャップを超えた魅力を打ち出せていることも、ベテラン世代の強さであろう。

2023年は空前のMCバトルブームとなったが、来る2024年はいよいよ、表面的なブームが深く浸透し、世代を超えた融合も進んでゆくように思う。今後の日本のヒップホップシーンの動向に注目したい。

(編集部註:写真はGAYA-K氏より提供いただきました。無断転載・流用は固くお断りいたします)