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AKB48の現エースであった岡田奈々の恋愛スクープに対し、総監督である向井地美音がAKBのいわゆる「恋愛禁止ルール」について何事かはっきりさせたい趣旨のTwitter投稿をし、波紋を呼んだ。AKBのいわゆる「恋愛禁止ルール」についての由来と意味を、歴史的・構造的・客観的に解説・考察したい。
AKB史的にみたときに、恋愛禁止ルールはあるという反発も見受けられる。恋愛スキャンダルでAKBは解雇をしてきたのではないかと。AKB史上最初期で恋愛スキャンダルにより解雇になったメンバーといえば、9期の研究生の石黒貴己が挙げられる。その後、AKB運営は、加入したてのメンバーやあまりもう上がり目がないと思われるようなメンバーに対し、恋愛スキャンダルと同時に解雇あるいは自主的に卒業してもらうという形をとるようになった。
では、人気メンバーのスキャンダルはどうなのだろうか。最初期のAKBで大きく騒がれたスキャンダルが、恋愛スキャンダルではないものの、倉持明日香の過去の怪しい写真が雑誌『FLASH』(光文社)に流出した事件である。このスキャンダルの時に、初めてAKBでネタ的にスキャンダルを回避したのであった。当時のチームK公演で、メンバーで倉持を問い詰めた上で、メンバーの結束を固める寸劇が行われた。その上で、倉持は写真の件についてファンに説明した。
当時のAKBファンは、ハロー!プロジェクトからのファンも多かった。
その結晶がAKB48選抜総選挙であり、そして、2012年の指原莉乃のHKT48移籍であった。『週刊文春』(文藝春秋)によって、指原も過去の恋愛が暴露されてしまった。AKB は恋愛禁止ではないかということで指原がどうなるのか注目されたが、秋元は指原を出来たばかりのHKTに移籍させることで、うまく収拾をつけたのだった。生放送の『AKB48のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)で指原にコメントをさせ、秋元が指原のHKT移籍を告げる臨場感は、世間を沸かせた。
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恋愛スキャンダルでアイドルグループに挑戦する『週刊文春』に対し、AKBが世間を代表し打ち返す様相でもあった。確かに当時「ヘタレキャラ」だった指原にとって、恋愛スキャンダルは多くのファンを失わせるものであった。だが、既に『笑っていいとも』(フジテレビ系)レギュラーでもあった指原には、それ以上の可能性があったのだった。なお「文春砲」という言葉を先駆けたのも、指原のスキャンダルなどのAKBだった。
しかし、2013年、河西智美写真集の「児童ポルノ」疑惑事件や、立て続けに起こった峯岸みなみの丸刈り謝罪事件の大炎上と、AKBの過激さのあるエンターテインメントは、恋愛スキャンダルの対応も難しくなってきていた(峯岸は自主的な判断であったが)。実際に当時秋元は、『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(TBSラジオ)で、「恋愛禁止はいわばネタであって、ペナルティによってファンと向き合うが、万策尽きたかもしれない」との旨を語っている。
どうにもアイドルは恋愛禁止であって、恋愛スキャンダルによって多くのメンバーが解雇されてきたという認識にもなりがちなようで、その視点からすれば秋元の発言は批判されがちである。しかしながら上記の歴史を踏まえれば、秋元の発言の趣旨も理解できる。AKBはファン発信の恋愛禁止というテーマをネタにしながらも、メンバーのプロデュースに活かしてきたのだ。結局、AKBファンは、恋愛禁止を望んでいるのか、何を望むのかという疑問があるだろう。次に恋愛禁止の歴史を、主にAKB直前のアイドル史から辿り、アイドルファンと恋愛禁止の実態を説明したい。
<矢口真里による恋愛禁止ルールの復権>
昭和の時代のアイドルは、恋愛禁止が掲げられていたのは確かにその通り。しかし、高度消費社会を抜けて、性の解放が唱えられるようになってきて、時代は一変している。90年代は「アイドル冬の時代」だった。「ぶりっ子」などというような時代ではなくなったのだ。そもそも恋愛がスキャンダルという時代ではなくなっていた。
モー娘。も、リーダーの中澤裕子とエースの後藤真希らが早々に卒業することで失墜していった。モー娘。は、4期を中心として、期をますます重ねるごとにアイドル性を増していった。しかしながらアイドル性の高い4期以降のメンバーよりも、ゴマキら初期のエースがいなくなることの影響の方が大きかった。またちょうど『ココリコミラクルタイプ』(フジテレビ系)で、モー娘。のオタクがいじられるようになった時と、モー娘。の失墜期が重なっている。全盛期のモー娘。
よって、本当の意味でアイドルを復活させたのはAKBなのである。松浦亜弥にしてもw-inds.橘慶太との関係は、ずっと言われてきていた。松浦以来のソロアイドルと目することもできるきゃりーぱみゅぱみゅにしても、よく考えればSEKAI NO OWARIのFukaseとの関係が似ていた。この視点からみても松浦ときゃりーは同じ系譜であり、ソロアイドルアーティストだといえる。
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話を戻せば、モー娘。ファンのオタク化が進んでいく中で、恋愛禁止が前景化してきたのだ。モー娘。もアイドルオタクからすれば疑似恋愛対象であり、よって安倍なつみも押尾学とのスキャンダルでは「プレイステーションをやっていた」とされるが、これもまたネタ的に処理できていたわけだ。恋愛禁止を実効性あるものにしたのは矢口真里だった。2005年、矢口は小栗旬との恋愛スキャンダルを『FRIDAY』(講談社)で報道され、モー娘。を脱退する。
突然恋愛スキャンダルが実効的になったわけだが、矢口がモー娘。のリーダーになってしばらくし、矢口が辞めたがってると噂になりながらの脱退であった。矢口の脱退騒動は世間的にも非常に話題となった。また、矢口はモー娘。脱退後、元々唯一モー娘。メンバーで売れていたような状態から、さらに飛躍的に売れることとなった。なお藤本美貴もリーダー就任後の翌月に、庄司智春との熱愛発覚により脱退している。矢口と藤本は共にモー娘。を脱退後、結果的にはさらに飛躍的に芸能界で売れることとなったのである。恋愛禁止ルールは、矢口や藤本が半ば利用する形で復活したといっても過言ではない代物だったのだ。
ハロプロの文化を踏襲しているAKBは、ハロプロファンのオタク化が進む中で復活した恋愛禁止ルールを、同じくどう対処するかが問われることとなった。ハロプロもAKBも乃木坂46も対処法はさまざまで、基本的には本人の意向が重要で、また否定したり、スルーが正解か模索したり、一定期間ポジションが下げられたり、またネタのように切り抜けたりと常に模索中である。
秋元もすでに言及してるように、もちろんファンの意向も重要である。恋愛禁止ルールはオタクがディープになるにつれ、求められていった。しかし、ハロプロもAKBもオタクがディープになりすぎず、恋愛禁止ルールもネタのように跳ね返せるときが最も売れていたのだ。
<狭小(ディープ)なオタク批判の必要性>
今回、14期の岡田の恋愛スキャンダルから騒動は始まっている。14期は岡田の他に、小嶋真子と、そして先日極楽とんぼの山本圭壱との結婚を発表した西野未姫とで「三銃士」と呼ばれた3人が、AKBの象徴的存在として成長していた。実は、AKB史の中で最も意外な形で卒業したのが西野である。西野もまた『週刊文春』の報道の後に卒業を発表している。バラエティに走ったがゆえに総選挙の順位は低迷していたものの、西野はバラエティ寄りの魅力で、大いに活躍していた。
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西野ほど意外な卒業者は後にも先にもおらず、当初は劇場支配人としてAKBの中心人物であったものの、当時はカスタマーセンター長となり中心から離れていた戸賀崎智信が、西野の卒業をニュースで知り、ツイートで自身の無力さを嘆いていたことからもよくわかる。バラエティに走ったがゆえに総選挙の順位が低迷すること自体もまた、オタクのディープ化というよりは狭小化を示している。指原も同様であるが、当初はバラエティ的な活躍でも人気が得られたことは、第1回選抜総選挙で秋元才加が12位にランクインしたことが象徴的である。オタクもAKB運営もどんどんと変化してきていることがわかる。
現在、AKBは狭小化したオタクの要望を聞いた結果、「純AKB」路線と呼ばれるAKB48グループとAKBを切り離す戦略を講じている。それでいて、岡田と、岡田の親友で一緒に写真も撮られている村山彩希、茂木忍、向井地の「ゆうなぁもぎおん」の馴れ合い的なAKBの体制を、他のオタクが批判する内ゲバ状況もある。また岡田が批判される理由として、自身も卒業発表時に認める形で、かつて NMB48であった須藤凜々花が結婚宣言した総選挙時に、風紀委員長を名乗り出たこととの言行不一致を責められている点がある。
昨今のSNS社会は、確かに非常に道徳性が求められる面がある。たとえば、ベッキーの不倫騒動でも、不倫の内容が悪かったのかどうかとは別に、「記者会見で嘘をついたことが悪いのだ」と言われることがある。現行の不一致は美しくない有り様なのは間違いないが、アイドルなのに恋愛していたことが悪いのか、そもそもルールを破ったことが悪いのか、他人を批判しておいて自身が模範たり得ていないモラルの足りなさが問題なのか。
とにかく「叩ける部分がありそうならば叩けばよい」というSNS社会であるようでは、道徳性の高い社会とはいえないに違いない。歴史的に見てきたように、恋愛禁止ルールに関しては、ディープなオタクが求めているに過ぎないものだった。ディープなオタクたちによってAKBも支えられている部分があるといっても、ディープなオタクたちが求めているものが売れるアイドルグループに繋がるかといえば、歴史的に観て非常に疑わしい。アイドルの恋愛禁止が時代錯誤だと思いながらも、ディープなオタクたちが求めているだけの恋愛禁止ルールに「ルールならば守るべきだ」などと無思考に追随するのは非常に滑稽なこと。
これだけ(意図的に)はっきりしてこなかった恋愛禁止ルールに対し、「恋愛スキャンダルで辞めたメンバーもいるのだから恋愛禁止ルールはあるのだ」と断定するのも非常に恣意的な解釈に過ぎず、狭小なオタクたちや何かしら叩きたい人たちの無意識的な自己正当化に過ぎない。そして、曖昧な恋愛禁止ルールによっても、もちろん言行不一致のミスによっても、ファンを多数抱えるエースメンバーがAKBを卒業する必然性はない。
アイドルはファンに対し誠心誠意尽くすことも大切だが、また同時に一般層に対し、エンターテインメントで魅せることも重要である。どんどんと偏狭的になっていくAKBに対し、久々に恋愛禁止ルールが話題になるスキャンダルは、多少はAKBの存在を訴えるような問いかけを含むものだろう。
もちろんトレンディエンジェルのたかしがいうように、恋人がいるアイドルを応援し続けることは難しく、また明石家さんまの恋愛禁止に関する過去の発言が話題なように、恋人の存在は「できるだけ隠す」ことは重要である。アイドルの恋愛に関しては曖昧であるべきであって、また恋愛禁止ルールも曖昧だからこそ成立するのである。よって、向井地がわざわざ恋愛禁止ルールに言及することで、真面目な岡田が卒業に至るほどに炎上させてしまうのはよいことではない。
以上の認識をもって、改めて、恋愛禁止ルールがネタであることを理解すべきなのだ。また、ネタでありながらも「恋愛禁止ルールは存在する」といってもいい。
また今回の騒動を機に、どんどんと偏狭化するAKBの路線は本来のAKBにはふさわしくないことに気づき、AKBグループの活動や握手会、果てはAKB選抜総選挙を復活させる方向に持っていくべきである。どうせファン同士は争い合うのだから、狭い範囲で争わずに、より健全なグループ間の競争を復活させるべきだ。NGT48騒動によって、AKBグループは各グループの独立運営体制に切り替わったものの、グループ合同握手会でなくなった最初のきっかけは、独立運営体制は関係なくコロナ禍である。
コロナ禍政策もいまや出口のきっかけを探しており、ダチョウ倶楽部の上島竜兵さんが亡くなったときにはすでに飲み会のさらなる解禁が必要だったのだといえる。AKBはコロナ禍が明けたことを告げるかのように、AKBグループ活動や合同握手会、そして選抜総選挙を復活させる方向にいくべきである。
岡田は卒業を発表したものの、大人の事情として即日卒業するわけにはいかないとしている。岡田には、『岡田奈々 1st LIVE TOUR 2023~TIMELESS FLAG~』が控えており、さらには「お料理選抜企画」での「たこ焼き部」での活動をやり遂げるとしている。ソロ全国ツアーは来年の2月末まで、「お料理選抜企画」は少なくとも半年間はかけて行われるものとされている。岡田は卒業はするものの、ひとまず「たこ焼き部」を頑張らせてほしいとライブ配信サービス『SHOWROOM』で何度も繰り返している。事の経緯を説明した結果、最終的に、さしあたっては「たこ焼き部」を頑張るという言葉の響きの面白さは、恋愛禁止ルールがネタであるという全盛期AKBの精神を非常に理解してるようにも見える。
岡田といい、極楽・山本との結婚を発表した西野といい、「三銃士」メンバーはやはり全盛期AKBの遺伝子を継ぐ、エースメンバーだったのだ。なお、スキャンダル後に開始した「お料理選抜企画」の「部活別アピール合戦」では、トップの成績で岡田がファンからの課金によりポイントを稼ぐことができている。今のところ岡田は恋人の存在を曖昧にできてはいないが、岡田は恋人の存在を曖昧にせずともファンが付いてきてくれるアイドルである可能性もある。
岡田はもともと真面目キャラであり、また真面目さゆえにか摂食障害を経験したこともある。さらに岡田はバイセクシャルであることに言及しており、また髪色も一際目立つ個性的なキャラクターでもある。スキャンダルの結果、岡田は真面目ではなく開き直れるメンタルの強さを備えているとも思われてもいるが、摂食障害の経験や自己表現の仕方からして、むしろ真面目な純粋さとセンシティブな感受性を持っていると思われる。
岡田は恋愛禁止ルールをネタとしているのではなく、純粋さでもって現在の決定をしていると思われる。よって、アンチによる批判も多い中、どこまで岡田が活動を続けられるかも心配なくらいだろう。しかしながら、全身全霊の自己表現によって面白いエンターテインメントを魅せることが、坂道シリーズよりもファンとの距離が近いAKBの伝統である。卒業後になると思われるが、 スキャンダルも含めたAKBでの活動によって知らしめてきた、岡田の純粋さと真面目さと過激さをもって、見たことのないようなソロアイドルアーティストとして様々なファンを興して、パワーアップした活動を見せてほしいものだ。