2026年5月14日にホロライブプロダクションを運営するカバー株式会社が、メディア向けの決算説明会を実施しました。登壇者は代表取締役CEOの谷郷元昭氏、そして取締役CFOの金子陽亮氏です。


決算報告に関連する今後の経営方針や最重要課題を語ったのですが、当日に発表したバーチャル空間プロジェクト「ホロアース」のサービス終了、そして4月に事業縮小が発表された男性VTuberグループ「ホロスターズ」にまつわる説明もあり、ファンにとっても気になる内容が谷郷氏自身の口から語られました。

すべては持続可能な事業を展開するうえで下したことであり、「原点回帰」とも言うべき決断です。はたしてその決断の裏にはどのような意図や思いがあったのでしょうか?

本稿ではメディア向け決算説明会で語られた、おもに今後の経営方針にまつわる部分をレポートします。

◆谷郷氏の謝罪から始まった説明会
メディア向け決算説明会に先立ち、谷郷氏から現在の最重要課題と今後のかじ取りについて説明がありました。谷郷氏はまず、タレント、クリエイター、ファンに支えられて歩みを続け、VTuber経済圏とも呼べる大きな市場を形成することができたことについて感謝を述べます。その上で、昨今、ファンを中心に心配をかけていることに触れ、以下のような決意を語りました。

「(VTuberブームの)初期から事業をおこなっている私たちは、業界をけん引していく先行者として強い使命感を抱いてきました。しかしその想いから生じた焦りがさまざまな側面で負の影響を与えてしまったことも事実です。ファンの皆さんにご心配をおかけし、本来の目的である期待に応えることと矛盾する結果を招いてしまった点につきましては、経営者として猛省しております。今一度地に足をつけて、本質的な課題に向き合う覚悟です」

それは「選択と集中」という、限られた経営資源をどこに投下するかを明確にするという意思表示でもありました。

説明会の最中でも繰り返し触れられた部分でもあるのですが、これまでカバーではタレント事業を含むさまざまな事業に手を広げて多角的に展開してきました。しかしうまく機能しなかった分野もあり、今後はタレントの価値の創出や持続性を中心とした、ある意味でタレントファーストの経営方針を明確化することでリソースを効果的に投下していくとのことです。


そしてそこから得られるファン体験の向上、さらにそこから派生するメディアミックス展開、そしてタレントの価値創出へと戻って来るサイクルに、しっかりつなげていくことが重要だと語りました。

もちろん以前より掲げていた目標ではあったものの、人気タレントの卒業に端を発するファンの不信感を真剣に受け止めた結果、それを改善するために、このたび「選択と集中」によって経営リソースの見直しをおこなったようでした。

それが特に感じられたのが「タレント価値の持続性を支える基盤強化」の部分です。タレントのサポートをより厚くする具体的な方法の部分なのですが、まず挙げられたのが制作プロセスを改善することでのタレントの負荷軽減。さらに自宅配信をアップデートすることで、自宅からでもクオリティの高い配信ができるようなアプリ開発もあわせて発表されました。

タレントの負荷軽減は天音かなたさんの卒業に際して大きく問題となった部分であり、説明会では明言されなかったものの、その改善点と考えて良さそうなポイントでした。また自宅配信を強化するアプリの開発ではホロアースのリソースを投入するということで、まさにメタバース技術転用の一例です。

一方、タレントサポートの改善は、ホロスターズのサポート縮小と矛盾する点のようにも思える部分でした。その点について谷郷氏は、ホロスターズの運営は早すぎた事業拡大と捉えている部分もあるようで、女性タレントの成功体験を過信してそのスキームをそのまま適用してしまった点を反省していました。

ただしホロスターズのENタレントについてはまだチャレンジを続けているさなかということで、現段階においてはJPと同じ捉え方ではない雰囲気です。その点ではJPのみの経営方針の変更ということで、ENについては変わらぬサポートを続けることを明言しました。

これらの点について谷郷氏は、「(ホロスターズの)ファンの皆様には動揺を与えてしまったことを重く受け止めておりますが、現状を勘案したうえで、心苦しくも必要な決断だったと理解しています」と理解を求めていました。


またホロアースについては「経営者としての責任を痛感」としながらも、やはりサンドボックスゲーム、ライブ空間、ユーザーコミュニティーなど可能性を広すぎたことを反省しつつ、「たとえばライブに特化していれば、他社のバーチャル空間事業に対抗できたかもしれない」と舵取りの甘さを認識していました。

具体的な反省点としてはタレントとの関りの薄さもあったようです。それは「ライブ特化」の部分とも重なるのですが、もっと接点ある運用や開発をしていれば良かったとも語っていました。

ただし無駄な開発だったかと言えば決してそうではなく、ホロアースならではの技術開発ができたため、今後は独自のアプリを開発するなどタレントの配信環境をアップグレードするとともに「さらなる体験をファンの皆さんにお届けしたい」と力強く語っており、メタバース技術を応用した配信アプリ開発へ期待感をにじませていました。

それらサポートに加え、タレントマネジメントの強化、タレント増員による各タレントの負荷軽減、活動休止・復帰も含めた中長期的なキャリアの活動支援、そして誹謗中傷対策も強化していきたいと語ります。

その一環がまさに、先日発表された新たなタレントデビューの形である「mekPark(メクパーク)」でした。

こちらはユニット単位での活動を主軸としたデビューの形で、その基盤を作るためのチャレンジ企画となっているとのことでした。谷郷氏よると現在のVTuberは個の力だけで活動の幅を広げるのは難しい面が多く、ホロライブとしても「ReGLOSS」や「FLOW GLOW」などユニットでの活動を増やしている中、その部分に新たな可能性を見出しているようです。

以前より「ReGLOSS」や「FLOW GLOW」など、期生とは異なるデビューのありかたに対し「従来とどこが異なるのか?」と疑問視する声がありましたが、どうやらユニット活動を主軸とする活動方法の模索がその目的だったようで、「mekPark(メクパーク)」ではさらにその“ユニット感”が強く感じられる企画として立案したもののようでした。

もちろん常設のオーディションも同時に行っていくので、それらを通じ、次世代のタレントを育成していくこととなります。それによってタレントの数が増えれば、個々のタレントにかかる負荷も軽減できるというわけです。

「タレントの価値の創出」「ファン体験の向上」「メディアミックス展開の活発化」という3つのサイクルを成立させるため、その起点となる「タレント価値の創出」に今後もっとも力を入れてリソースを投下するというカバー社。


谷郷氏はCEOとして変わらず関わりつつ、この4月の体制変更により、VTuber事業については責任者として今後より深く関わっていくとの説明もありました。その点では、かつてホロライブが設立された当初のような空気感が戻って来ることに期待が寄せられます。
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