地域包括支援センターとは、地域内の高齢者に対する相談、権利擁護、支援体制づくり、介護予防に必要な援助などを行う公的機関です。高齢者の生活上の困りごとに対して、総合的に相談に乗ってくれる場所でもあります。

全国の地域包括支援センター約5,100ヵ所に対して行ったアンケート『地域包括支援センターの効果的な運営に関する調査研究事業 報告書』によると、地域包括支援センターの課題として所定時間外労働の多さと介護予防ケアマネジメントが大きな負担になっていることが指摘されています。

私が勤務する千葉県の地域包括支援センターでは、なるべく時間外労働をしない方向で活動をしています。

基本的には定時で退勤できるよう意識していますが、地域活動において重要な介護予防マネジメントが大きな負担となっています。

今回は、地域包括支援センターの置かれた現状をお伝えします。

地域包括支援センターは24時間気が抜けない

私たちの仕事は、ひとたび物事が動き出せば、曜日も時間も関係なく課題解決のために動かなければなりません。

例えば、高齢者虐待の通報があれば、48時間以内に家庭訪問をして状況を把握します。生命の安全が図れないと判断されれば、双方を分離するために受け入れ施設を探さなければなりません。

実際には48時間以内などと悠長なことは言っておられず、すぐさま自宅に向かっています。

虐待が心配されるケースでは、ダイレクトにSOSコールができるよう事前に連絡先をお伝えしていました。そのため、遅ければ23時、早ければ朝5時に電話が入ることもありました。

また、認知症徘徊が発生したときも同様に、行方不明者の捜索、警察への通報など地域を駆け回ります。

認知症の急激な悪化によって、危険なものを持つ人の通報があれば、対象だけではなく、地域住民の安全を図るために受け入れ先の病院を探さなければなりません。

とは言うものの、入院できる病院が簡単に見つからないのが現実です。

スタッフ総出で他県の病院にも連絡して、20時過ぎに受け入れ先が決まり、遠方の病院への送迎を含めてすべての業務が終えると23時になっていたというケースもありました。

こういったケースを踏まえ、事業所独自に『認知症非常事態宣言』を掲げています。

認知症や精神疾病が疑われる対象者を早期に医療機関(専門医)につなげ、いざ入院の必要性が生じたときに速やかに受け入れがされるよう日頃から準備をしています。

つまり、いつ発生するかわからない非常事態に備え、平時にはなるべく時間外勤務をせず、非常事態が生じた際にスムーズに事が運ぶよう日常的に医療機関や事業所と密に連携をとるよう心がけているのです。

知ってほしい地域包括支援センターの実情 介護予防マネジメント...の画像はこちら >>

介護予防マネジメントが負担に…

地域包括支援センターのスタッフには課題解決能力が求められます。地域の高齢者だけでなく、精神疾患を持った対象者や地域のケアマネージャーからも困難なケースの相談を受けます。

課題解決をスムーズに行うためには、日頃から地域のリサーチをしておくことがとても重要になります。手法は多様ですが、確実な方法として『介護予防ケアマネジメント』があります。

介護予防ケアマネジメントとは、高齢者の自立支援を目的として、対象となる方の心身の状況や環境を把握し、要介護者にならないように適切な支援をする包括的な活動を指します。

介護予防ケアマネジメントを行うことで、対象者の日々の変化や状態を把握し、リスクを避けるために福祉サービスの利用や住民との連携を図ります。そのメリットは以下の通りです。

  • 認知症や精神疾病の増悪、身体機能の低下を鈍化させる
  • いざ悪化した際に速やかに異常を感知できる
  • 事前の専門医や主治医との連携により入院や施設入所の対応がスムーズに行える

介護予防ケアマネジメントはとても有益なのですが、その反面、前述の資料にある通り、地域包括支援センターの大きな負担になっていることも確かです。

ケアマネジメントの対象者が増えれば、それだけ多くの人の状況を把握できますが、心身状況の悪化や急な入院、福祉サービスの変更などに対応する件数も増えます。

私も担当している高齢者のうち何人かに急な対応が必要となり、数日間を費やした経験があります。その間に入る新たな相談も、おろそかにするわけにはいきません。

当然チームで協力して対応しますが、こういった状況は地域包括支援センターが本来行うべき事業を圧迫していることは否めません。

介護予防マネジメントが広がらない理由

この問題を顕在化させる理由がもう一つあります。

それは地域のケアマネージャーが予防ケース、つまり要支援1・2の対象者の担当をあまり望まないことです。これにはいくつかの要因があります。

要介護の給付管理料に比べ予防給付の給付管理料が安い

要介護1・2の対象者の給付費が10,530円。要介護3~5の対象者が1万3,680円であるのに対し、要支援1・2の対象者は4,471円と比較にならないほど低料金なのです。要介護1と要支援2の要介護状態を計る介護にかかる時間、つまり1日の中で介護にかかる時間(要介護認定等基準時間)はともに32分以上50分未満にもかかわらず、給付管理料は約6,000円と倍以上の差があるのです。

そうなれば、取扱件数が決められ、件数を越えると減算となってしまう事業所は、当然予防サービスより介護サービスを選択するのは明らかです。

制限された件数の中で、収益を上げていくための選択として責められるものではありません。

予防対象者は要求水準が高いケースがある

ケースバイケースですが、介護予防対象者の中にも要求水準が高い方も当然います。

寝たきり状態になった介護サービス対象者は、転倒や徘徊のリスクは低減します。ですが、急な心身状況の増悪の可能性は上がるので、決して介護サービスの対象者のマネジメントが安易というわけではありません。

それに比べて予防サービスの対象者は比較的元気であり、要求水準や転倒などのリスクは高いとも言えます。

そういった背景に加え、介護予防ケアマネジメントのケアプランは記載量や事務量が多いことも避けられてしまう要因の一つではないかと分析しています。

介護保険更新申請の結果、介護から予防になると包括支援センターにが戻ってくることもしばしばです。

その結果、要支援者を担当してくれるケアマネージャーさんがいないため、ここ数年は、ほぼすべて地域包括支援センターのスタッフで担当しています。

知ってほしい地域包括支援センターの実情 介護予防マネジメントの負担
報酬の低さと住民の高い要求が業務を圧迫している可能性

介護から予防に変更した際、担当ケアマネージャーが変わってしまうことで、継続的なかかわりや、これまでの信頼関係が無になってしまう可能性があります。

高齢者は環境の変化に適応することが苦手な方もいるので、これは大きなデメリットだといえます。

また、地域包括支援センターが担当する予防介護ケアマネジメント数が多くなることで本来の業務に手が回らなくなるといった影響が考えられます。

実際、私が勤める地域包括支援センターは、行政が示す3職種における適正件数の2倍を上回る給付管理を担当しています。

日々の業務は多忙ですが、介護予防ケアマネジメントは地域包括ケアシステムの実現のためには非常に重要です。

介護予防マネジメントは高齢者と早期の段階から関係性を深め、重度化を防止するといった点からも大きな意義があります。また、予防給付対象となる高齢者との関係性の構築の過程で個々のケアマネージャーのスキルアップも期待できるので積極的に担当してもらいたいとも考えています。

地域包括支援センターは、住民と介護サービスをつなげる大きな役割を果たしています。

しかし、こうした実情があることも知っておいていただきければと思います。

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