料理や片づけ、掃除など、高齢者に家事の役割をもってもらうことは、生活意欲維持や向上にも繋がります。
一方、認知症の症状による台所でのトラブルも起きやすく、フレイル状態であるがゆえに「本人に任せるか」の判断が難しくなってしまうこともあります。
そこで、この記事では、認知症でよくある台所トラブルとその対処法を紹介していきます。
台所仕事はやってほしいけどミスが続き心配…
台所仕事が好きな高齢者は多いです。
できれば、本人に任せることで生活意欲を維持したいところですが、ミスやトラブルが心配というご家族もいるのではないでしょうか。
筆者が過去に関わった高齢者家族の事例を紹介します。
【事例】Eさん(女性・50代)
Eさんは、要介護1の義母(89歳)と夫の3人暮らしです。
最近、もの忘れがひどくなってきた義母を心配して、病院に連れて行ったところ、軽度の認知症と診断され、そのときに家庭で困っていることを相談したら、介護サービスの利用を勧められました。
そこから、義母は週2回デイサービスに通うようになり、それ以外は家で過ごしていました。
義母は台所仕事が好きだったため、調理や食事の準備などは、ある程度本人に任せるようにしていたのです。
要介護1の義母の介護度が進行しないようにと任せていたのもありますが、Eさんは日中仕事をしていたため、義母が自分のご飯を作ってくれることに助かってもいました。
しかし、ここ最近、味付けの調味料を間違えたり、ご飯が炊けていなかったりと、認知症の症状によるミスも多くなってきたことをEさんは心配するようになりました。
「これからミスがエスカレートして火事にでもなったらどうしよう…」と思う一方で「義母が好きだった調理まで取り上げてしまうのも可哀そう」と悩むEさんなのです。
台所トラブル例と対策
Eさんのように台所のトラブルを想定し、悩む家族は多いです。
自立支援という観点からも家事は生活リハビリとしての効果が期待できるものとされており、実際に介護施設で家事をしてもらう取り組みを進めている例もあります。
認知症の進行緩和や生活意欲の維持のために本人に役割をもってもらうことは大切ですが、症状が軽度であるなど、いわゆるフレイル状態であれば「任せるか辞めてもらうか」の判断が難しいです。
トラブルの対処法を考える前に、まずは、認知症で起こりうる台所トラブルを整理していきましょう。
➀ガスコンロの火を消し忘れる
火を使う調理の場合、ガスコンロを使用していると火を消し忘れてしまうトラブルも。
場合によっては、火の消し忘れにより取り返しのつかない事故に繋がってしまうこともあるため、心配な家族は多いものです。
ただ、「火を使わないでね」などと本人に伝えたらやる気を失わせてしまわないかと心配になってしまいますよね。そこで、おすすめなのがコンロをIHヒーターに変えてしまうことです。
コンロ全てを変えてしまうのが難しければ、家族がいない間はコンロをロックしておき、コードで使えるタイプのIHヒーターを使ってもらいましょう。火を使うコンロの使用を控えることで、火事の危険性が下がります。
➁台所で物を取ろうとして転倒する
油や水が床に落ちて滑りやすくなる場所であることから、意外と台所での転倒は多いです。
転倒で動けなくなるとADLの低下にも繋がる恐れがあるので、台所での転倒にも気を付けたいものです。そこで、台所の転倒予防方法を以下にまとめました。
- 床を滑りにくい素材に変える
- 高齢者が素足で過ごせるよう床暖房をつける
- 定期的に床掃除をして油気を取る
- 高いところにものを置かない(低い位置に収納できるものを用意する)
台所に限らず転倒予防のためには、滑りにくい床を高齢者が素足で過ごせる環境が理想的です。
こまめな掃除に加えて、無理のない姿勢で物を取れるように低い位置に収納を用意するなどの工夫が効果的です。費用はかかってしまいますが、冬でも素足で過ごせるよう、床暖房の設置を検討してみるのも良いでしょう。
➂その他よくあるトラブル
その他台所でよくあるトラブルとして以下のようなものがあります。
- 炊飯器を炊いている途中に開けてしまう
- 冷蔵庫のなかのものが整理できない(賞味期限切れのものを捨てない)
- 電子レンジで温めた後、忘れてそのまま放置してしまう
上記のようなトラブルは比較的小さなことですが、認知症により忘れてしまうことが原因である可能性も。家族が定期的な見守りや様子観察を行うことで、間違いや忘れに気付き、食中毒などのリスク回避ができます。
上記のような小さなトラブルが増えてきたら、高齢者と家族が一緒になって調理を行ってみてください。小さな異変に気づくことで食中毒の防止や、スムーズな台所作業の進行が可能です。
早めの対策が大切
台所トラブル回避には、状況に合った家電を使用することも大切。しかし、認知症が進行してしまってからだと、慣れていない家電を扱うのが難しく、結局元の家電に戻さなければいけない可能性もあります。
そのため、早めの対策を意識しましょう。認知症の症状が出る前に家電を変えることがおすすめです。
家電を変えたら、一緒に使ってみる・表にしてわかりやすく記載しておくなど、高齢者に覚えてもらいやすい工夫をしてみましょう。
早めに家電を変えて元気なうちに使い方をマスターしてもらうと、その後の台所トラブル対策もスムーズにできます。
遠方に親がいて心配な場合
親が遠方に住んでいる場合、常に近くでサポートできるわけではないため、何かあったときにすぐに駆け付けられないことで不安に思う人も多いです。
そこで、遠方に住む親のためにできる事故への対策を紹介していきます。
➀見守りカメラを設置する
最近では、遠方からでも親を見守ることができる「見守りカメラ」という商品が販売されています。
遠方にいても親の生活の様子がわかり、台所での危険が発生した場合に早く気付くことができます。ネットに繋がなくても設置できるタイプもあるため、不安が大きければ導入を検討してみてください。
「親がカメラの設置を嫌がってつけられないけど心配…」という場合は、親に事情を伝え、よく過ごす居間などから徐々につけるようにして見守り効果が実感できると説得できるかもしれません。
➁近所の知人や緊急連絡先にすぐ連絡できるようにしておく
操作が簡単で安全性の高い家電に変えるのはもちろんのこと、遠方の親を守るために「危険に気づく」「すぐに誰かがかけつけられる」準備は必要です。
親の自宅近所に住む頼れる知人をピックアップしておき、すぐ連絡できるように準備しておくことが大切。
また、救急車などの緊急連絡先にもすぐ繋がるような電話設定にしておくと安心です。
台所トラブルが大きくならないよう対策をしよう
台所でせっかく調理や食事準備を楽しんでいるなら、できるだけ本人に長くやってほしいものですよね。
台所で起こりうるトラブルを事前に把握し、大きな事故になる前にしっかり対策をしておけば、ご家族も安心して高齢者本人に家事を任せることができるでしょう。
また、高齢になると視力が弱くなる傾向にあり、若い世代の2~3倍の明るさが必要であるとも言われています。
照明が暗いと調理器具や食材が見えず、怪我のもとになってしまう可能性もあるため、台所の照明はなるべく明るくなるように心がけてください。
台所トラブルに対する対策を早めにして、心置きなく高齢者が調理を楽しめる環境を整えてあげましょう。