世界最大規模の健康調査『世界の疾病負担研究』によれば、頭痛を患っている人は世界で約30億人にも上ると見積もられています。

世界人口のおよそ4割に影響を及ぼしている頭痛は、私たちにとって身近な健康問題の一つといえるでしょう。

頭痛は、はっきりとした原因がない一次性頭痛と、脳梗塞や怪我など、他の病気や障がいが原因となって起こる二次性頭痛に分けられます。

一般的に頭痛といった場合、一次性頭痛のことを指し、高齢者の頭痛の3分の2を占めます。今回は、高齢者の日常的な頭痛と、市販されている頭痛薬の効果や注意点などについて解説します。

日常的に起こる頭痛とは?

代表的な一次性頭痛に、緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛が挙げられます。一般的に40歳を超えると、頭痛の発生頻度は低下しますが、それでも頭痛に悩む高齢者は多いといわれています。

研究データによってばらつきがあるものの、何らかの頭痛を患っている高齢者は5~8割にも上るとされています。

緊張型頭痛

一次性頭痛の中で、最も多い頭痛です。「締めつけられるような」「重りを乗せられたような」と表現される頭痛で、頭の片側だけに発生することはまれです。

頭痛の持続時間は30分以上で、時には1週間にわたることもあります。ただ、頭痛の程度は軽いことも多く、日常生活に支障をきたすことはあっても、寝込んでしまうことは少ないでしょう。

片頭痛

「ズキズキする」「脈打つような」と表現される頭痛です。緊張型頭痛と異なり、頭の片側で発生することが多いですが、両側に発生することも少なくありません。

また、階段の昇降など日常的な動作によって頭痛がひどくなることも特徴です。

多くの場合で吐き気や嘔吐の症状が現れ、頭痛がしている間は感覚が過敏となりやすいです。そのため、普段は気にならないような光や音、においを不快に感じることもあります。

片頭痛は女性の方が発症しやすいことが知られています。一般的に思春期の初めごろに発症することが多く、発症のピークは25~55歳です。

健康保険組合の医療費請求データを用いて、2万1,480人を対象に実施されたオンライン調査では、片頭痛を患う人は30代で26.6%、40代で37.9%だった一方、60歳以上では1.4%でした。

したがって、これまで片頭痛を患っていなかった高齢者が、新たに片頭痛を発症することは少ないと考えられます。

高齢者が新たに頭痛の症状を訴えてきた場合は、何らかの病気に伴って発生する二次性頭痛の可能性を考える必要があります。

群発頭痛

群発頭痛は、眼の周りから頭の前部、あるいは頭の横(側頭部)にかけて発生する激しい頭痛が特徴です。

症状は数週から数ヵ月に及ぶこともあり、特に夜間や睡眠中に頭痛が起こりやすいです。

通常の頭痛薬はあまり効かないため、頭痛を予防するための治療が行われます。

市販で購入できる頭痛の治療薬

市販で購入できる代表的な頭痛薬の成分として、ロキソプロフェン、イブプロフェン、アセトアミノフェンが挙げられます。

ロキソプロフェンやイブプロフェンは、痛みのもとになる体内物質、プロスタグランジンの産生を抑えることで鎮痛作用をもたらします。

一方、アセトアミノフェンは痛みを伝える神経に作用することで鎮痛効果をもたらすと考えられています。

ロキソプロフェン(商品名:ロキソニンSほか)

医療用の鎮痛薬として、主に医療機関から処方されていたロキソプロフェンですが、2011年以降は市販薬としても購入できるようになりました。

頭痛のみならず、腰痛や歯の痛みなど、さまざまな痛みの治療に用いられる一方で、その有効性を裏付ける質の高い研究データは限られています。

ほかの薬とほぼ同等の鎮痛作用が期待できるものの、緊張性頭痛や片頭痛に対する効果については、現在までに質の高い研究データが報告されていません。

ただし、二日酔いにともなう頭痛については、2020年に日本人を対象とした研究が報告されており、有効性が示されています。

イブプロフェン(商品名:イブA錠、ナロンエースTほか)

イブプロフェンの有効性については、複数の研究データで片頭痛や緊張型頭痛を和らげる効果が報告されています。

イブプロフェンを配合した市販薬の種類は多く、一般的にイブプロフェンの配合量が多いほど、鎮痛効果も高くなります。

アセトアミノフェン(商品名:タイレノールA錠ほか)

イブプロフェンと同様に、複数の研究データによって、片頭痛や緊張型頭痛を和らげる効果が報告されています。

なお、市販薬では、アセトアミノフェンに加え、頭痛を和らげる働きがあるカフェイン、鎮痛成分のエテンザミドを一緒に配合することも多く、3成分の頭文字をとって「ACE処方」と呼ばれます。

ACE処方は、作用の仕方が異なる3種類の鎮痛成分を配合することで、副作用のリスクを抑え、より効果的に鎮痛作用を得られると考えられています。

日常的な頭痛に困っていませんか?高齢者の市販薬服用時における...の画像はこちら >>

薬物乱用頭痛や副作用に注意

頭痛薬の飲みすぎで起こる薬物乱用頭痛

繰り返し頭痛薬を服用している方は、徐々に頭痛の発生回数が増えてしまい、やがて連日のように頭痛に悩まされてしまうことがあります。

このように、頭痛薬を過剰に使用したために生じてしまう頭痛を薬物乱用頭痛(薬剤の使用過多による頭痛)と呼びます。

鎮痛成分が複数配合されている市販薬を月に10日以上、1つ配合されている市販薬で月に15日以上服用しており、このような状態が3ヵ月以上にわたって続くと薬物乱用頭痛の可能性が高まります。

薬物乱用頭痛は過剰に服用している頭痛薬をやめることで症状の改善が期待できます。

頭痛に対する不安から、頭痛薬を早めに飲んだり、症状がないにも関わらず頭痛薬を飲んでしまうことを繰り返していると、薬物乱用頭痛が起こりやすくなります。

過剰に服用しないためにも、薬の効果を感じにくくなったら、自己判断で薬を飲み続けることは避け、早めに医療機関を受診すると良いでしょう。

頭痛薬の注意すべき副作用

痛みを引き起こす体内物質、プロスタグランジンにはさまざまな働きが知られており、胃の中では粘膜の表面を保護する役割も担っています。

ロキソプロフェンやイブプロフェンを配合した頭痛薬を服用すると、胃の粘膜にあるプロスタグランジンの働きも弱まり、胃が傷つきやすくなってしまいます。

そのため、頭痛薬を長く服用していると、胃痛や胸やけなどの症状だけでなく、場合によっては胃の粘膜が炎症を起こしてしまったり、高齢者では胃の粘膜がただれてしまう胃潰瘍を起こしてしまうことも少なくありません。

また、イブプロフェンやロキソプロフェンなどの鎮痛成分は、心臓病や腎臓病、肝臓病の発生リスクを高めることも知られています。

そのため、市販されている頭痛薬の多くは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、心臓病、肝臓病、腎臓病を治療中の方は服用できないこととされています。

ただし、アセトアミノフェンはプロスタグランジンに対する作用が弱く、胃に負担をかけにいと考えられています。また、腎臓や心臓病の発生リスクを高める報告もありません。

高齢者は安全性の面からアセトアミノフェンのみを配合した市販薬(例.タイレノールA錠)を優先的に選ぶと良いでしょう。

ただし、アセトアミノフェンは肝臓で分解(代謝)される薬のため、過量に服用すると、肝臓に大きな負担がかかることもあります。定められた用法用量を、しっかり守ることが大切です。

頭痛に効果が期待できる市販の漢方薬

薬物乱用頭痛や副作用を心配される方は漢方薬を試してみるのも良いでしょう。頭痛に効果が期待できる漢方薬として、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)が挙げられます。

呉茱萸湯は胃腸のはたらきを整え、吐き気を鎮める効果も期待でき、胃が弱い方に適した頭痛薬と言えます。

頭痛のある日本人91人を対象とした研究では、プラセボ(偽薬)と比べて、呉茱萸湯で頭痛の回数が少なかったと報告されています。

二次性頭痛が疑われる場合はすぐに受診しよう

頭痛の中でも病気や障がいによって発生する頭痛を二次性頭痛と呼びます。二次性頭痛は適切な治療を行わないと命にかかわることも少なくありません。最後に、二次性頭痛の中でも特に注意したい病気を紹介します。

髄膜炎

髄膜炎は、脳の周りを覆っている髄膜に炎症が起きてしまった状態で、原因の多くは細菌やウイルスなどによる感染症です。

歩くと痛みが響くような激しい頭痛があり、発熱や吐き気、首が硬く下顎が胸につかないなどの症状がある場合、髄膜炎の可能性が高くなります。髄膜炎が疑われる場合、直ちに適切な治療が必要です。

くも膜下出血

髄膜は脳に近い方から軟膜、くも膜、硬膜の3層に分かれています。このうち、くも膜と軟膜の間にある血管が破裂し、その隙間に出血した状態をくも膜下出血と呼びます。

くも膜下出血が起こると、「今までに経験したことのない突然の激しい頭痛」「人生最悪の頭痛」と表現される激しい頭痛が現れます。

くも膜下出血による頭痛は、多くの場合で発症した瞬間を自覚でき、徐々に頭が痛くなることはまれです。

例えば、テレビを見ていたら「突然激痛に見舞われた」というように、痛みがあるときとないときの境界がはっきりしているのです。くも膜下出血が疑われる場合は、直ちに対応可能な医療機関の受診が必要となります。

日常的な頭痛に困っていませんか?高齢者の市販薬服用時における注意点を解説
突然の激しい頭痛は早急な受診が必要