認知症のリハビリに対する認識は時代とともに変わりつつあります。最近では、徐々に効果が認められつつあり、早期支援の大切さが謳われるようになってきました。
今回は、認知症リハビリの内容や効果、これからの治療についてまとめました。
認知症リハビリで用いられる主な療法
認知症のリハビリにはさまざまな内容があります。ここでは、5つの療法をピックアップして紹介します。
学習療法
学習療法とは、いわゆる「頭の体操」と呼ばれるような活動を行い、脳機能の維持・改善を図るものです。
簡単な問題を解くことで、脳の前頭前野が活性化するとされており、認知症に有効だとされています。
東北大学の川島隆太教授は、前頭前野という脳の指揮を取る分野が活性化する事柄について調べました。
その結果、複雑で難しい問題を解くときよりも簡単な計算や本の音読、読み書きなどが前頭前野を活性化させるということがわかったのです。
回想法
回想法は、心理療法の1つで、心が落ち着いたり、認知症の進行を遅らせたり、コミュニケーションを深められるとされています。
昔の写真や思い入れのある物などを活用しつつ、過去を回想しながら会話をするだけなので特別な物を用意することなく、比較的簡単に導入できます。
回想法は1960年から存在していますが、まだ十分な研究が進んでいません。
ただ、学習療法で紹介した川島教授の論文でも、前頭前野の活性化する方法の1つとして人とのコミュニケーションも挙げられているため、脳機能の向上が期待できるともいえるでしょう。
運動療法
運動療法は、体を動かして認知症の進行を送らせる方法です。近年では、認知症発症予防の効果が注目されており、一般的に知られるようになってきましたが、初期認知症患者の認知機能改善の効果も期待されています。
また、軽・中等度のアルツハイマー型認知症患者において、身体活動量が脳の体積に関連することが報告されており、運動が脳神経の保護に働くとされています。
つまり、認知症の進行を遅らせる効果があると考えられてるのです。
具体的には、ステップエクササイズや二重課題運動(話しながら歩くなど)があります。
身体活動量が脳の体積に関連するとされ、重要なのは活動や運動そのものだと捉えられています。認知症の治療において、運動療法は高い期待を寄せられているといえるでしょう。
音楽療法
音楽療法には、積極的音楽療法と受動的音楽療法がありますが、認知機能障がいにおいては受動的音楽療法で効果が認められています。受動的音楽療法とは主に認知症患者に音楽を聞かせ、活動を求めない療法です。
ただし、効果が認められたのはBPSD(認知症の周辺症状)であり、焦燥性興奮や不安、行動障がいに対して受動的運動療法が効果を示したという論文も発表されています。
また、うつに対しても効果があるという分析も存在しており、音楽療法は行動や心理症状に対する効果を期待できるといえるでしょう。
認知刺激療法
全般的な認知機能を刺激する療法です。特に明確な方法は定められておらず、日付や季節の確認であったり、パズルやトランプ、計算であったりと、人間の感覚を刺激することで認知機能の改善を図ります。
認知刺激療法は幅広い方法が考えられ、効果についてはさまざまな報告がされています。ほかの療法とも関連する面が強いので、内容によって得られる効果には変わると考えられています。
高い期待がかけられる認知症短期集中リハビリ
認知症短期集中リハビリとは、リハビリテーションによって生活機能の改善が見込まれると医師が判断した場合に厚生労働大臣が定める施設基準に適合する施設において実施されます。
主に、認知症短期集中リハビリテーション加算を算定して支援することを指します。
認知症短期集中リハビリテーションで行うこと
認知症短期集中リハビリテーション加算では、リハビリを行う時間が設定されており、以下のように要件が定められています。
- 認知症短期集中リハビリテーション実施加算(Ⅰ):1日に20分以上の個別リハビリの実施
- 認知症短期集中リハビリテーション実施加算(Ⅱ):1月に4回以上実施すること
上記の説明だと少しわかりにくいのですが、加算(Ⅰ)の方は1日あたりに算定する加算であり、加算(Ⅱ)は1ヵ月あたりに算定する加算となっています。
細かいルールはたくさんありますが、認知症リハビリのための時間がしっかりと確保される加算だといえます。
認知症短期集中リハビリテーションを使うための条件
認知症短期集中リハビリテーション加算が算定できる施設は限られています。以下の2つの施設が算定できる施設です。
- 通所リハビリテーション
- 介護老人福祉施設
上記2つのいずれかを利用している方であり、さらに以下のような条件を満たす必要があります。
- 医師が対象者を認知症と診断している
- 医師が対象者を生活機能の改善が見込まれると判断している
- 医師は精神科医師、もしくは精神内科医師、または認知症に対するリハビリテーションに関する専門的な研修を修了した医師であること
- 医師の指示を受けた理学療法士等が集中的なリハビリテーションを行えること
- 対象者は認知症のテスト(MMSEとHDS-R)において、おおむね5~25点に相当する者
これらの条件を満たしたうえで、認知症短期集中リハビリテーション加算を取得できる状況にあれば集中的なリハビリを行えます。
さらに、認知症短期集中リハビリテーション加算を算定する提供者にも、記録やリハビリ支援を行える時間の確保が必要になるため、さまざまな要素が満たされている必要があります。
認知症短期集中リハビリは誰しもが簡単に受けられるリハビリの形ではありませんが、期待が寄せられていることは間違いありません。
認知症ケアで大切になる支援計画
認知症に対する治療は、薬物療法と非薬物療法に大きく分けられ、今回紹介した認知症に対するリハビリは非薬物療法に分類されます。
少し前まで、認知症に対する非薬物療法はエビデンス(根拠)が不足しており、効果は否定できない程度のイメージを持たれていました。
しかし、現在では「認知症疾患診療ガイドライン2017」において次のように定義されています。
認知症の治療は認知機能の改善と 生活の質(quality of life:QOL)の向上を目的とし、薬物治療と組み合わせて行う。また認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of de- mentia:BPSD)には非薬物治療を薬物治療より優先的に行うことを原則とする特に軽度認知症状態での効果が期待され、早期介入に注目し、認知症短期集中リハビリテーションのような支援方法が重要視されています。
最近では、アデュカヌマブというアルツハイマー型認知症の根本治療薬として期待される薬が開発されましたが、治験の対象者はMCI(軽度認知障がい)という認知症の前段階の方でした。
アデュカヌマブは、MCIの方には効果を発揮しますが、アルツハイマー病と診断されている方に対しての効果は立証されていないともいわれているのです。
認知症の根本治療については、現在はまだ確立されていません。一方で、認知症に対するリハビリ効果は認められつつあります。
そこで、より患者本人や家族の視点に立ち、認知症と診断された後の将来計画を立てられるような支援が必要とされています。
海外では「診断後支援:post-diagnotic support」と呼ばれる将来計画を考えるための実際的な支援・取り組みが始まっている国もあり、認知症患者が増加しつつある日本でも認知症に対するより良いサポートの必要性が高まっていくのではないでしょうか。
