サポカー限定免許が導入された背景
5月からサポカ―限定免許制度がスタート
今年5月13日から「安全運転サポート車(サポカー)」限定免許制度が開始されます。警察庁は、日常的に車を使用しており、自主返納をためらう高齢者の積極的な切り替えを期待しています。
サポカー限定免許は、運転免許を持っている人であれば、誰でも申請することができます。
サポカーとは、自動ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置など先進安全技術が搭載された車のことを指します。
正式には「セーフティ・サポートカー」と呼び、「サポカー」と「サポカーS」があります。
「サポカー」は、自動ブレーキを搭載したすべての運転者向けの車です。
一方、「サポカーS」は、自動ブレーキに加え、ペダル踏み間違い時の加速抑制装置などを搭載し、特に高齢運転者に推奨されています。
今回の限定免許では、自動ブレーキとペダル踏み間違い時の加速抑制装置の両方の性能を認定された車種が対象になっています。
背景にあるのは増加する高齢者による自動車事故
サポカー限定免許が創設された背景には、いまだに後を絶たない高齢者による交通事故があります。
警察庁が発表する「令和3年中の死者数」によると、交通事故による死者数は2012年から2022年の10年間で4,438件から2,636件に減少しています。しかし、そのうち65歳以上の高齢者が占める割合は、2021年で51.4%に対し、2022年は57.7%と増加しています。
このように交通事故による死者数の多くを高齢者が占めていることがわかります。
また、こうした高齢ドライバーの事故を分析すると、人為的なミスによるものが多くなっています。
例えば、運転操作を誤って起こしてしまう「操作不適」による死亡事故は、75歳未満のドライバーで全死亡事故の16%を占めているのに対し、75歳以上のドライバーでは28%を占めています。
出典:『高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議資料』(警察庁)を基に作成 2022年04月08日更新また、75歳以上高齢ドライバーの「操作不適」のうち、「ハンドルの操作不適」が15%、「ブレーキとアクセルの踏み間違え」が5.9%となっています。
こうしたミスが生じるのは、加齢による身体機能や認知機能の低下によるものだとされており、認知症などの疾患を生じていなくても高齢ドライバーに起きやすいと考えられています。
そのため、サポカーに搭載された先進技術によって、こうした人為的なミスをなるべく防ぐことができ、より安全な運転につながると期待されています。
免許返納が生む高齢者の交通弱者
地方では車がないと生活できない交通弱者もいる
高齢ドライバーによる重大事故などが報じられ、高齢者の中にも自主返納の気運が高まっています。
免許の自主返納件数は、2014年時点で20万8,414件でしたが、2020年には55万2,381件と2倍以上まで伸びています
しかし、山間部など車がないと生活ができない地域もあります。実際に自主返納が進んでいるのは都市部が中心で、返納率のトップは警視庁(東京都)の6万2,626件、神奈川県の4万3,768件、次いで大阪府の3万9,270件と続きます。
逆に、最も低いのは福井県で2,867件、次いで高知県で2,910件、山梨県で2,911件となっています。
福井県の公表する「福井県総務部政策統計課」によると、福井県の世帯あたりの自動車保有台数は全国一位となっており、移動手段の4分の3は自動車での移動といわれています。
また、少子高齢化が進んでいる地域は、頼みの綱ともいえるバスや電車といった公共交通は利用者の減少で廃止や減便などが相次いでいます。
公共交通がない場合、住民は自家用車に頼らざるを得ません。ましてや独居する高齢者の場合、生活のために車が不可欠で、自主返納をしたくてもできない事情があるのです。
車のない生活に適応できずに健康被害が生じる
また、免許を返納したことで健康被害が生じる可能性も示唆されています。
日本看護科学会誌に掲載された「公共交通機関の少ない地域における運転免許返納者の返納理由、車のない生活の受け止めと外出状況」では、免許を返納した高齢者のその後の受け止め方を研究しています。
この研究では、返納する主な理由は「認知症・認知機能低下」「身体機能低下」「事故予防」の3タイプに分けられることがわかっています。
返納後、「通院」や「買い物」は地域サービスなどの活用によって代替手段を見つけることができていましたが、「娯楽」や「交友」では、代替手段が見つからないと家に閉じこもってしまう傾向が示唆されています。
厚生労働省によると、高齢者の閉じこもりは、要介護状態になるリスクを高めたり、寝たきりになるケースが増加することが指摘されています。
サポカーが高齢者の生活を豊かにする可能性と課題
サポカー限定免許の対象車種が少ない
車がないと生活できない高齢者にとって、サポカー限定免許は新たな選択肢の一つとなります。
しかし、今回の限定免許では、自動ブレーキに加えて、ペダル踏み間違い時加速抑制装置があらかじめ搭載されている車種に限定されています。
2016年時点で、自動ブレーキの新車への搭載率は66.2%、ペダル踏み間違い時加速抑制装置の搭載率47.1%となっています。
両方の技術があらかじめ搭載されている新車となると、車種はかなり限定されると考えられます。また、これらの機能の後付けは認められていないため、新たに購入する費用も高額になる可能性があり、高齢者が認定サポカーを入手するハードルは高いといわざるを得ません。
より高齢者が利用しやすいような制度設計が必要
サポカー限定免許は、交通弱者になりやすい高齢者の新たな選択肢になる可能性を秘めていますが、現状では乗れる車種が限定されるため、普及には時間がかかるかもしれません。
一方で、いまだに高齢者による事故は増加傾向にあり、自主返納以外の対策が必要なのは明らかです。
そこで、現在自動車メーカー各社が開発を進めている超小型モビリティの普及なども進めていくことも視野に入れるべきでしょう。
これは軽自動車よりも小さい1~2人乗りの自動車のことで、2013年から認定制度が設けられています。環境性能にすぐれており、コンパクトで小回りが利くことで、高齢者も運転がしやすいといわれています。
こうしたモビリティはまだまだ普及には至っていませんが、自治体などが主体となって貸し出して、高齢者の利用を促進するなどの取り組みも行われています。
今後は、高齢者が一般ドライバーとともに安全に運転できる選択肢を増やすような取り組みが求められています。