ヤングケアラーの実態調査で小学生が初めて対象に

「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」の結果が公表

厚生労働省は4月7日、文部科学省・日本総研と連携して実施したヤングケアラーの実態に関する新たな調査結果を発表しました。

昨年発表された中学2年生、高校2年生を対象とした調査に続き、今回公表されたのは小学生6年生と大学3年生を対象とした調査結果。小学生6年生を対象としたのは今回が初です。

調査結果によると、ケアを行っている家族が「いる」と答えたのは、小学6年生の6.5%、大学3年生が6.2%で、小学6年生の方が割合は高くなっています。

なお、昨年公表されたデータだと中学2年生は5.7%、高校2年生は6.2%なので、小中高大の中でヤングケアラーの割合が最も高いのは、最も年齢が低い小学生であるわけです。

小学6年生の6.5%がヤングケアラー。大人や地域社会はどのよ...の画像はこちら >>
出典:『ヤングケアラーの実態に関する調査研究』(日本総研)を基に作成 2022年04月29日更新

小学生が行うケアの対象としては兄弟姉妹や父母が多く、中学生以上になると祖父母が増える傾向にあります。世話の内容としては家事が多く、見守り、外出時の付き添い、感情面のサポートなどが多いようです。

学校から帰ってすぐに家族の介護をする場合、友だちとの普通の日常を過ごすことができません。勉強はもちろん、友人関係や放課後の課外活動(クラブ活動・習い事)などにも支障をきたし、本人の人間的成長を妨げる恐れがあります。

今回の調査結果では中高大よりも小学生の方がヤングケアラーの割合が高いという結果になっており、この状況にどう対応すべきなのか、行政の手腕が問われているといえます。

ヤングケアラーの定義と社会問題化の背景

ヤングケアラーには法律上の定義はありません。厚生労働省のサイト「ヤングケアラーについて」では、一般的に、本来は大人が担うと想定される家族のケアや家事などを、日常的に行っている子ども、と表記されています。

ただ、今回の厚生労働省が公表した調査結果では20歳以上の大学3年生も対象になっているので、ここでの「子ども」とは「経済的に自立していない学生」という意味も含めて良いでしょう。

高齢化が進み全国的に要介護者が増える中、それに伴ってヤングケアラーの子どもが増加。介護や家事の負担が大きくて睡眠不足のまま学校に行ったり、家族の体調が良くないからという理由で学校を欠席したりする子どもが目立つようになりました。

ヤングケアラーの存在が社会問題として特に強く認識されるようになったのは、2015年頃のことです。

当時、新潟県南魚沼市が市内の公立中学校に対してヤングケアラーに関するアンケート調査を実施し、注目を集めたのです。

その後、各地の小中学校および特別支援学校でアンケート調査が行われていき、ヤングケアラーの増加に関する全国的な実態が徐々に明らかになっていきました。

現在では冒頭でもご紹介した通り、国・厚生労働省も本格的な調査を行うようになっています。

小学生ヤングケアラーの実態とは?

小学生のヤングケアラーは17.3%が就学前から介護をしている

今回発表されたヤングケアラーの実態調査結果における大きな特徴は、小学6年生が対象となっている点です。

小学生を対象とした調査は、全国の小学校のうち350校を無作為抽出し、対象校に調査票を郵送して校内で児童に配布。回答の後、返送してもらうという形で行われました。

対象者数は約2万4,500人で、そのうち9,759件の回答が得られています。なお、今回の調査を行うにあたっては、児童とその家族のプライバシーに留意するよう学校側に通達したとのことです。

調査結果によると、ヤングケアラーである小学生の介護対象として最も多いのは「兄弟」で、全体の71.0%を占めています。

その次に多かったのが「母親」の19.8%でした。兄弟の面倒を見ている子どもは、昼間は親が仕事に行っているため、放課後に世話をするというケースが多いと考えられます。

また、家族のケアをしている子どもにいつから行っているかを尋ねたところ、17.3%が「就学前から世話をしている」と回答。低学年のうちからケアをしている子どもも30.9%に上っていました。

今回の調査では小学6年生を対象としていましたが、その2割弱が保育園・幼稚園(6歳以下)のうちから世話を行い、半数近くが小学3年生(9歳)以下の段階からケアを続けているわけです。

小学6年生の6.5%がヤングケアラー。大人や地域社会はどのような支援策を行うべきか?
小学生の生活についてのアンケート調査
出典:『ヤングケアラーの実態に関する調査研究』(日本総研)を基に作成 2022年04月29日更新

幼い年齢だと、担えるケアの内容としては「見守り」や「感情面でのサポート」などがメインになるとも思われますが、「常に見ていないといけない」という心身の負担が生じるのは避けられないでしょう。

小学生のヤングケアラーが直面する生活上・学校での問題

調査結果をさらに詳しく見てみると、小学生のヤングケアラーは体調管理や学校生活の状況に関して、一般的な小学生よりもよくない面が多いことがわかります。

調査結果によると、生徒に対して「健康状態」について尋ねる質問をしたところ、「世話をしている家族がいない生徒」の場合は、「よい・まあよい」が82.5%、「ふつう」が14.7%、「よくない・あまりよくない」は2.2%でした。

一方、「世話をしている家族がいる生徒(ヤングケアラー)」の場合だと「よい・まあよい」が75.6%、「ふつう」が20.3%、「よくない・あまりよくない」が4.6%となっています。

「よい・まあよい」の割合が世話をしていない生徒よりも低く、「ふつう」と「よくない・あまりよくない」との回答割合も高くなっていました。特に、「よくない・あまりよくない」の回答割合は、世話をしていない生徒よりも2倍以上も多いです。

また、「授業中に寝てしまうことが多い」との質問には、家族の世話をしていない生徒だと4.5%でしたが、家族の世話をしている生徒だと11.4%。

「宿題ができていないことが多い」との質問には、家族の世話をしていない生徒が7.0%なのに対して、家族の世話をしている生徒だと15.2%。

「持ち物の忘れ物が多い」との質問には、家族の世話をしていない生徒が17.7%なのに対して、家族の世話をしている生徒は32.3%となっています。

これらの調査結果を見ると、ヤングケアラーの小学生は、学校生活に問題を抱えやすいといえます。授業中に寝てしまったり、宿題ができないことが多くなったりすれば、学びの意欲が低下してしまうでしょう。

ヤングケアラーに必要な大人・学校による支援

ヤングケアラーに対する認知度を高めることがまず重要

小学生のヤングケアラーについて社会として考えていく場合、まず必要なのはその実態に関する社会的認知度を高めることです。

今回の調査結果では一般国民に対するアンケート調査の結果も含まれています。

調査はWeb上で行われ、調査対象となったのは調査会社にモニター登録している全国の20代~70代の男女で、合計2,400件の回答を得たとのことです。

それによると、ヤングケアラーの認知度を尋ねる質問では、「聞いたことがあり、内容を知っている」と回答した人の割合は29.8%。「聞いたことはあるものの、よく知らない」との回答割合は22.3%で、「聞いたことはない」が48.0%でした。

半数近くの人がヤングケアラーのことを認知すらしておらず、内容を理解している人は3割にも満たないという結果になっています。

小学6年生の6.5%がヤングケアラー。大人や地域社会はどのような支援策を行うべきか?
ヤングケアラーに対する国民調査
出典:『ヤングケアラーの実態に関する調査研究』(日本総研)を基に作成 2022年04月29日更新

さらに調査結果では、ヤングケアラーと見受けられる子どもがいたときの対応は、認知度が高い人ほど「本人に様子を聞く」や「関係機関に相談する」といった具体的な行動に結びつきやすい傾向が明らかにされています。

一方、認知度が低い人ほど「わからない」「何もしない」との回答が多くなっていました。ヤングケアラーへの認知度を高めることが、子どもたちへの支援にもつながるわけです。

地域・学校におけるヤングケアラーへの支援体制の強化が必要

今回の調査結果を踏まえると、小学生のヤングケアラーが現在および将来に直面する問題が少なからず存在することがわかります。

まずは学歴の差です。家族の介護・家事に時間を取られ学習に身が入らなくなり、場合によっては睡眠不足のまま学校に行くことにもなるでしょう。

学校の授業についていけず、成績が落ち込む状態が続くと、高校・大学の受験時に不利となる恐れがあります。学歴に差が出ると、将来の経済的状況にも差が出るかもしれません。

また、放課後や休日に友だちと遊ぶ時間が限られるため、子どもが友人関係の中で孤立する場合も考えられるでしょう。コミュニケーション不足によりクラスに馴染めず、不登校に陥るリスクも高まります。

今回の調査結果では、小学生のヤングケアラーに相談相手についても質問していましたが、「家族」が78.9%であるのに対して、「学校の先生」は13.8%、「SSW(スクールソーシャルワーカー)やSC(スクールカウンセラー)」は5.5%でした。家族以外の相談先は、あまり機能していないのが実態といえます。

ヤングケアラーの現在・将来の問題を少しでも減らしていくには、地域社会や先生、特にSSW、SCがより重要な役割を果たす必要もあるでしょう。国・行政側にもこの点、適切な対応を取ってもらいたいところです。

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