マイナ保険証利用のメリット・デメリット

2022年度から始まった電子的保健医療情報活用加算

今、マイナンバーカードを保険証として利用する「マイナ保険証」に関する議論が過熱しています。

2022年診療報酬改定で、マイナ保険証を利用すると医療機関に「電子的保健医療情報活用加算」が算定されるようになりました。具体的には「オンライン資格確認」という制度を活用した医療機関などに報酬がある制度のことです。

オンライン資格確認とは、顔認証システムとマイナンバーカードを利用して、医療機関や薬局の窓口で既存の保険証を提示することなく、医療サービスが利用できるシステムのことです。

マイナ保険証やオンライン資格確認システムは、「データヘルス改革」の一つとして進められ、政府はいち早い普及を目指しています。

電子的保健医療情報活用加算は、医療機関などでのオンライン資格確認システム導入を進めるための加算として設けられました。

マイナ保険証の利用で患者の自己負担が増えるのはなぜ?

電子的保健医療情報活用加算は、算定した医療機関などの報酬をアップさせるものですが、実は利用者の自己負担が増えることで、賛否が分かれています。

例えば、自己負担3割の患者がマイナ保険証を提示した際は、初診で21円、再診で12円、調剤で9円の負担が新たに生じています。マイナ保険証の利用を推進するはずなのに、患者の自己負担が増えるという矛盾が生じており、専門家会議では廃止論まで飛び出しています。

誤解されがちですが、従来の保険証を使う場合であっても、オンライン資格確認システムを導入済みの医療機関であれば、2024年3月までは初診時に9円の追加負担がかかります。

患者からするとデメリットしかないと言われても仕方のない制度ですが、政府はメリットも強調しています。

そもそもオンライン資格確認の目的は、マイナンバーカードの普及だけではなく、医療機関や薬局などが患者の状態を素早く認識できることで適切な医療や薬の処方ができるという狙いがあります。

例えば、高齢者のポリファーマシー問題の対策。ポリファーマシーとは、複数の薬を服用することにより、患者に有害な影響を及ぼすことをいいます。

この問題は、地域にある複数のクリニックなどで、それぞれ薬を処方されるため、服用する薬が多くなることが原因の一つだとされています。

マイナ保険証を利用すれば、患者の服用する薬などを情報として登録することができ、医師や薬剤師が確認することができるので、適切な薬の処方が受けられることになり、高齢者の健康増進にもつながります。

このように、マイナ保険証には、患者の負担が増える代わりに治療で得られるメリットを大きくする目的もあるのです。

マイナ保険証が義務化される可能性

2023年に医療機関などでのオンライン資格確認導入が義務化?

現在、オンライン資格確認システムを運用している施設は全22万9,528件のうち、19%にとどまっています。一方、システム導入の申し込み件数は57.9%に達しています(2022年5月15日時点)。

マイナンバーカードの保険証利用で自己負担増!?廃止論が出た新...の画像はこちら >>
出典:『第151回社会保障審議会医療保険部会 資料』(厚生労働省)を基に作成 2022年06月09日更新

政府は2022年度中に100%の達成を目指していますが、このペースでいくと、2023年3月時点で運用を開始できている施設は6割程度の見込みとなっています。

そこで、厚労省では一段上の取り組みが必要とし、2023年4月から、保険医療機関・薬局に「オンライン資格確認等システムの導入」を原則義務化することを提案しています。

将来的に保険証廃止も視野に

また、厚労省は将来的に既存の保険証の原則廃止を目指すとしています。

現在、保険証は健康保険組合などが保険者として、私たち被保険者に交付しています。しかし、マイナンバーカード利用が進めば、交付事務がなくなるため、マイナンバーカードの被保険者証利用に一本化し、保険証の交付をやめたいという声も上がっているのも事実です。

しかし、これに対して日本医師会などは反発を示しています。というのもマイナ保険証制度を導入する際、「既存の保険証は残しておく」と明言していたからです。急速な制度の移行によって、医療機関がうまく対応できない事態も懸念されています。

厚労省は2024年中に、保険証を発行するかしないかの選択制の導入を目指すともしており、今後は保険証の廃止によって生じる問題などについて具体的な議論が行われる見込みです。

マイナンバーカードの活用が困難

マイナポータルアプリの使用方法が複雑

マイナ保険証のメリットの一つが、スマートフォンなどを利用して特定健診結果や乳幼児健診などの結果を閲覧できる点です。こうした医療情報に個人が簡単にアクセスできることで、在宅でも健康状態のチェックなどがしやすくなります。

しかし、このシステムを利用するためには、スマートフォンでマイナポータルというアプリをダウンロードしなければなりません。

しかし、70歳以上になると、約半数がスマートフォンやタブレットなどのデジタル機器を利用していないというデータもあるように、スマートフォンの使用に難色を示す高齢者も多いです。

マイナンバーカードの保険証利用で自己負担増!?廃止論が出た新加算など迷走が続く普及策
デジタル機器を利用していないシニア世代の割合
出典:『令和3年版情報通信白書』(総務省)を基に作成 2022年06月09日更新

また、利用しない理由として「どのように使えばよいかわからないから」と回答した割合も42.4%に達しています。

マイナポータルの利用方法は非常に複雑です。

例えば、マイナンバーカードは暗証番号を複数登録しなければならず、いずれも市区町村で登録します。しかし、この番号を5回連続で間違えると再発行のために市役所に行かなくてはなりません。

また、アプリ同士を連結させるために、スマホに何度もマイナンバーカードをかざさないといけません。

ITリテラシーの低い高齢者が使いこなせるような仕様とは思えません。

マイナポータルは、セキュリティーを強化するあまり、利用が非常に困難になっていると言わざるを得ません。

プッシュ型支援の充実などが普及の鍵

マイナンバーカードが普及し、データヘルスを実現するためには、まず利用者がメリットを感じることが大切です。

政府はマイナンバーカードを発行した人に2万円分のポイント付与を開始しましたが、2022年4月1日時点での普及率は44%にとどまっています。約6割はまだ発行に至っておらず、ポイント付与事業の限界も指摘されています。

マイナンバーカードの普及を進めるためには、そのメリットを丁寧に説明していくことがポイントです。

例えば、「プッシュ型支援」です。これは、マイナンバーカードと口座を紐づけることで給付金などが迅速に支給されることを指しています。

昨年、特別定額給付金などの際、市役所への申請が必要なケースもあり、支給が遅れるということもありました。しかし、マイナンバーカードのシステムが浸透すればタイムロスなしに給付金などが振り込まれます。

こうしたプッシュ型支援の体制をさまざまな分野で広げていければ、マイナンバーカードの利便性を実感できるでしょう。

マイナンバーカードをめぐる政策は今後も議論が活発に行われると予想されます。特にマイナ保険証は、医療機関を利用する機会の多い高齢者の生活に大きな影響を及ぼすため、議論の動向に注目です。