心のケアが必要な介護職は想像以上に多い

「看取りケア」が介護職の心の負担となっている

介護現場では、介護職が看取りケアに携わることも多いです。

看取りケアとは、医師の指示のもと、利用者の苦痛を緩和しながら、穏やかな最期のときを迎えられるように支援することをいいます。医療・看護・介護の専門家が連携して対応しますが、介護職が果たす役割も大きいです。

そうした中、看取りの経験を重ねる介護職の間で、利用者の「死」という特別な事態を前に自責の念に駆られてしまったり、最期のときを迎える利用者への対応の中でメンタルに何らかの支障をきたすケースが少なくありません。

また、自分が利用者の死に関与することを嫌がり、離職する介護職もいます。

2015年に設立された「介護者メンタル協会」は、自宅で親の介護をしている人、および介護分野で働く人の悩みに関する講演会や研修、ワークショップを開催している団体です。

2017年からは看取りを行っている施設からの依頼にも対応するようになりましたが、現場からのニーズ・依頼は多いといいます。

以下では、看取りの現場において介護職の心に何が起きているのか?その実態、背景、対策について考えていきます。

介護職は精神障害に関する事案での労災補償が最も多い

実際のところ他職に比べて介護職は、メンタルケアの必要性が高い職種です。

厚生労働省が公表している令和3年度版の「過労死等の労災補償状況」によると、2021年度内に行われた「精神障害」を原因とする労災の請求件数は、全産業で合計2,346件。そのうち産業別(中分類)で最多となったのが「社会保険・社会福祉・介護事業」で、336件に上っていました。2番目は「医療業」の235件、3番目が「道路貨物運送業」の106件と続いています。

看取りを行う介護職のメンタルケアの重要性。心を病む職員を減ら...の画像はこちら >>
出典:『令和3年度版 過労死等の労災補償状況』(厚生労働省)を基に作成 2022年09月22日更新

「医療業」も患者・利用者の「死」を目の当たりにする職種ですが、介護職が属する「社会保険・社会福祉・介護事業」は、その医療業よりも精神障害による請求件数が多いです。

もちろん、看取りケアの辛さだけが精神障害の要因ではないでしょうが、医療業が2番目に位置していることを踏まえても、利用者の生死を扱う責任・ストレスの大きさが少なからず影響していると考えられます。

看取りケアを行う介護職のつらさとは

介護職が行う看取りケアの内容とは

介護職が行う看取りケアには、大きくわけて身体面のケア、精神面のケア、家族へのケアの3点があります。

身体面のケアでは看取りケアの基本とも言えるもので、利用者本人の意思を尊重しつつ、日常生活の中での身体的苦痛・ストレスをなくすためのケア・介助を行います。

容体の確認や経過の記録、危篤の兆候が見られたときの家族への連絡なども介護職の担当です。

利用者が亡くなった後は、エンゼルケア(ご遺体の清めなどの死後処置)も行います。

精神面のケアでは、利用者の死に対する不安や恐怖と向き合い、その心的苦痛を緩和するようなコミュニケーションを取ることが求められます。利用者に孤独を感じさせないような声かけ・会話が必要です。

家族へのケアでは、亡くなるまでは経過説明のための連絡を密にとりつつ、その精神的な支えとなり、亡くなった後は悲しみを癒すためのグリーフケアを行います。

看取りケアを行う施設では、こうしたケアを日々行うべき業務として、何人も繰り返し担当していくことになります。

介護職員の3割が「精神的に辛い」と回答

介護職にとって、看取りケアを行う上で大きな負担となるのが、一人夜勤のときに急に利用者の体調が悪化した場合です。

主治医や看護師、家族、同僚・上司の看護職など方々への連絡を一人で担う必要があり、ただでさえ夜勤で辛い中、身体的・精神的負担はより大きくなります。

また、担当する利用者が少しずつ「死」に向かっていく様子を見続けることは、介護職自身としても死に対する大きな恐怖を感じざるを得ません。

さらに、親しかった利用者が亡くなった後、そのエンゼルケアを行う必要があることも、介護職にとって精神的に辛い業務といえます。

公益財団法人介護労働安定センター「令和2年度介護労働実態調査の概要」によると、介護職員に対して「労働条件等の悩み、不安、不満等」を尋ねたところ(複数回答)、「精神的にきつい」との回答は25.6%、3割近くに上っていました。

看取りケアの大変さ、責任の重さを踏まえると、そのように考える介護職が多いことに不思議はありません。

看取りを行う介護職のメンタルケアの重要性。心を病む職員を減らすには職場環境が重要
介護職の労働条件等の悩み、不安、不満等(複数回答)
出典:『令和2年度介護労働実態調査の概要』(公益財団法人介護労働安定センター)を基に作成 2022年09月22日更新

職員のストレス軽減策を取り入れることが大切

悩みを一人で抱えないことが大事

利用者の死を目にする辛さなど、看取りケアにおけるストレスを一人で悩み続けると、メンタルにトラブルを抱えてしまうリスクはどうしても高くなります。

こうした精神的な負担を軽減する上では、悩みを一人で抱えないことが重要です。

介護現場はチームプレイが基本であるため、もし悩み・ストレスがあれば上司や同僚に積極的に相談し、アドバイスを受けるよう心掛けることが大事です。

また、他の人が悩んでいるときは自分から積極的に声をかけて相談にのってあげるようにし、お互いの信頼関係を高めることも大切。そのような関係を構築することで、自分が苦しいときにも助けを求めやすくなり、悩みを一人で抱え込まないことにつながります。

さらに、看取りケアを行う施設では、利用者が亡くなった後にケアの内容を振り返るカンファレンス(デスカンファレンス)が開催されるのが通例です。

このカンファレンスの場は、看取りケアが適切であったかどうかを検討する場であると同時に、利用者の死に精神的なストレスを感じている職員が自分の胸の内を話し、思い・感情を職員間で共有する場でもあります。

話すことが心のケアにつながる面もあるため、カンファレンスに参加した際は、辛さや感情を正直に話すことが求められます。

EMCOカードの利用でストレスの軽減を

しかし、介護職は人間関係で悩むことが多いのも実情です。

「令和2年度介護労働実態調査」によれば、前職も介護分野で働いていた介護職員に対して「前職をやめた理由」を尋ねたところ(複数回答)、「職場の人間関係に問題があったため」との回答が17.8%に上っていました。

これは最多回答である「結婚・妊娠・出産・育児のため」(24.5%)に次いで多い回答割合です。

看取りを行う介護職のメンタルケアの重要性。心を病む職員を減らすには職場環境が重要
前職をやめた理由(複数回答)
出典:『令和2年度介護労働実態調査の概要』(公益財団法人介護労働安定センター)を基に作成 2022年09月22日更新

この調査結果からは、介護職の現場では職場で人間関係が悪化し、離職にまで至るケースが多い実態が見て取れます。人間関係が悪化しやすい職場環境では、看取りケアの辛さを職員の間でうまく解消できません。

各施設には、人間関係を良好に保ち、看取りケアの辛さを共有し、癒し合えるような職場づくりをすることが求められます。

また、職員のストレス軽減策を取り入れることも効果的です。

例えば冒頭で取り上げた介護者メンタル協会は、介護職から相談を受けた際に必要な支援をチェックできる「EMCOカード」を製作し、介護現場での活用を提唱しています。

EMCOカードは「感情カード」と「ニーズカード」から構成され、カードを使って相談者が現在抱いている気持ち、今後どうしたいのか、そのためには何が必要なのか、を整理できるツール。実際に介護現場で導入されるケースが増えています。

今回は看取りを行う介護職員のメンタルケアについて考えてきました。介護職に就きたいと思う若者を増やすためにも、看取りケアの精神的負担と適切に向き合う方法を考えることは、介護分野の大きな課題といえます。

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