健康保険組合の現状と仕組み
赤字の組合数が半数を超える
大企業の社員などが加入する健康保険組合ですが、その決算状況は芳しくありません。
健康保険組合の全国組織である健康保険組合連合会(健保連)が、2022年10月6日に発表した2021年度の決算見込みによると、全国1,388組合の半数以上に当たる740組合が赤字になることが明らかになりました。前年の33%から大幅に増加しています。
組合全体の収支でも825億円の赤字となり、8年ぶりに赤字に転落しました。
出典:『令和3年度 健康保険組合 決算見込状況について』(健康保険組合連合会)を基に作成 2022年11月15日更新原因となったのは、現役世代から支払う高齢者医療への拠出金がかさんだことです。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大から「受診控え」などが生じていましたが、2021年にはその反動で医療機関を利用する高齢者が増えたと考えられます。
今後、2040年まで高齢者が増加すると見込まれており、受診控えの反動が落ち着いたとしても、厳しい状況が続くかもしれません。
健康保険組合とは?
健康保険組合とは、公的医療保険を運営するために特別につくられた法人です。
700人以上の従業員がいる事業所、または同種・同業の事業所の集まりで3,000人以上の従業員がいる場合は、厚生労働大臣の認可を受けて健康保険組合を設立し、実態に合った健康保険の仕事を運営することができます。
従業員と勤務先が毎月支払う健康保険料をもとに、医療費の支払いなどの保険給付、健康診断等の保健事業を担っています。
現在、大企業の従業員と家族など約2,900万人が加入しています。日本に住む人のうち、約4人に1人が加入している計算になります。
基本的に保険料は会社と従業員による折半です。そのため、民間の保険サービスよりも割安で、入院費や療養費などもカバーしてくれるとあって、医療のセーフティーネットとして重要な仕組みに位置付けられています。
しかし、近年の少子高齢化によって、現役世代からの収入が減少しており、現状のまま維持するのは難しいのではないかと見込まれています。
健康保険組合が減るとどうなる!?
健康保険組合の歴史
そもそも、健康保険組合は国民保険よりも古くからありました。
今でこそ国民皆保険となり、厚生年金保険や国民健康保険などで国が一定の医療費を負担してくれていますが、1920年代以前は民間企業では民間共済組合、公務員に対しては官業共済組合によって医療保険と生命保険が提供されていました。
当時、組合への加入は任意であり、給付金額や掛金の割合も加入者によって異なるなど、不完全な制度でした。
転換点となったのは1922年に定められた健康保険法です。これにより、10人以上の従業員がいる企業は健康保険組合を通して、従業員に健康保険を提供することが義務づけられたのです。
1934年にはこうした保険の提供範囲を「5人以上の企業」にまで拡大。現在の健康保険組合制度が次第に確立されていきました。
対して、国民皆保険制度のベースとなっている国民健康保険法が制定されたのは1958年。のちにすべての市町村で加入が義務付けられることになり、1961年に国民皆保険が達成されました。
国民健康保険と企業による健康保険。この両輪によって、日本の医療は支えられてきました。健康保険組合は1990年代初頭には1,800を超える数になりました。
しかし、近年は解散や合併が相次ぎ、1,300ほどに減少。このまま赤字が続けば、解散を余儀なくされる組合も増えるのではないかと危惧されています。

保険料の負担が増える?
2021年3月、大阪にある紳士服などの製造販売会社で作る「大阪既製服健康保険組合」が、新型コロナの影響などによって解散しました。
健保組合が解散すると、加入者は中小企業などが加盟している「協会けんぽ」に移ることになります。協会けんぽは、企業や個人が支払う保険料のほか、公費も投入されています。
その場合でも、病院などでの窓口負担の割合は3割以下に抑えられますが、協会けんぽに支払う保険料率が、これまでの健保より上がることもあります。
また、組合によっては一部の予防接種などを無料化するといった特別な措置が取られていることもあります。
しかし、協会けんぽは公費も投入されていることからわかるように、独自のサービスはなく、これまでのような厚遇を受けられなくなる可能性もあります。
健保の仕組みに改革が必要か
訪問看護サービスの利用控えにもつながる可能性が
健保からの給付が減ると、介護サービスの利用などにも影響があると考えられます。健保組合から介護サービスに対する直接的な給付は、ほぼありませんが、医療費や介護保険料の自己負担が増えるために、間接的に介護サービス控えにつながるリスクは否めません。
例えば、在宅介護において重要なサービスである訪問看護は健保による給付が認められています。この給付がなくなることはないでしょうが、組合によっては制度で認められたものに、さらにサービスを上乗せしているケースがあります。
それが協会けんぽに移ることによってなくなってしまうと、利用者が割高感を覚えるのは当然のことです。ましてや協会けんぽに移ることで保険料率が上がっていれば、なおさらです。
さらに、近年は物価上昇や年金引き下げによって、年金暮らしなどの高齢者は収入が年々目減りしています。
健保の仕組みを持続していくのは難しい
健保は会社と従業員が折半して支払う保険料が基本的な収入になります。
そのため、現状のままではすでに赤字になっている健保組合の財政状況を改善させるのは困難です。
健保組合が今後も持続可能性を担保するためには、まず効率性を高めてコストをカットすることしかありません。収入は今後も減少していくのですから、ムリ・ムダ・ムラを見つめ直して、一般企業的な経営改善を図ることが大切です。
日本のセーフティーネットとして戦前から脈々と続いてきた健保の制度ですが、今後はさらに厳しい状況になることが予想されます。存続が求められるのであれば、今のうちに何らかの手を打ったほうがいいのではないでしょうか。