現時点での家族支援の位置付け
制度上で明確な支援が定められていない
一人暮らし高齢者の増加やヤングケアラー問題など、要介護者だけでなく、実際に家庭でケアを行っている家族への支援が課題となっています。
介護保険制度は、要支援・要介護者の尊厳を保持したうえで、適切な支援やサービスの提供により、「本人が望む生活や暮らしを実現する」ために設けられた制度です。当然ながら、それを支える家族介護者の役割が非常に重要になります。
しかし、現状では家族介護者(ケアラー)を支援するための明確な制度や法律などは定められていません。
家族支援のあり方などのマニュアル化を進めてはいますが、いずれも国が保障するものではなく、あくまでケアマネジメントや地域支援を推進するという姿勢を貫いています。
現在は「介護離職」への支援がメイン
ケアマネの家族支援強化としては、2020年度から開始された仕事と介護の両立支援カリキュラムの研修があります。
これには、就労している家族介護者が介護を理由に仕事を辞めてしまう「介護離職」を未然に防ぐ目的があります。
これまでケアマネは介護保険法をはじめ、福祉関連の法律を中心に学んできましたが、介護離職を防止するためには「育児・介護休業法」なども学ぶ必要があります。
2022年4月からは育児・介護休業が改正され、介護休業や介護休暇の取得要件が緩和。これまでの「入社1年目」という要件が撤廃され、アルバイトやパートなどの有期雇用者も介護休業を申請しやすくなりました。
というのも、同法はこれまでも施行されてきましたが、依然として介護休業の取得が進んでいないからです。例えば、明治安田生命総合研究所の調査によると、介護休業の利用率はわずか8%にとどまっています。
出典:『介護離職の現状について』(明治安田生命総合研究所)を基に作成 2022年11月08日更新そもそも介護休業制度を知らない人も約6割に上っており、国民への周知が進んでいない状況です。そこで、要介護者やケアラーと接する機会の多いケアマネが制度の理解を深め、それぞれの状況を考えて、多角的な支援を進めることが求められているのです。
国内外で広がりつつある家族支援
各自治体でケアラー支援条例が定められている
国による支援に先がけて、各自治体ではケアラー支援条例を定めて、体制の整備を進めています。
ケアラー支援条例を初めて公的に位置づけたのは埼玉県です。2020年4月に「埼玉県ケアラー支援条例」を定めています。
そこでは成人の家族介護者を「ケアラー」、18歳未満の家族介護者を「ヤングケアラー」と位置付けて、県内市町村がそれぞれの状況にあった支援を行えるよう施策を推進しています。
特にケアラーが社会から孤立しないような体制や仕組みづくりを掲げており、市町村単位での取り組みを促しています。また、ヤングケアラーに対しては学校などの教育機関との連携も条文に盛り込んでおり、画期的な条例として注目を集めました。
こうした動きに合わせて、ケアラー支援条例を設ける自治体も増えています。地方自治研究機構によれば、その数は15にまで広がっており、今後も支援の輪は広がることが予想されます。
海外では現金給付などの支援制度も
ケアラーの問題は日本だけではありません。欧米の先進諸国も多かれ少なかれ少子高齢化が進展しており、増加するケアラー支援に乗り出す国もあります。
例えば、社会福祉が充実するスウェーデンでは、ケアラーに対する現金給付などの制度改定も行われています。
スウェーデン国内で、重度の病気を患っている人を介護するため、ケアラーが休職している期間に対する経済的補償として、家族手当として現金が支給されます。
また、排せつの介助や衣服の着脱など、在宅サービスに含まれる支援を行っているケアラーに対し、「看護手当」を給付している自治体もあります。
国による制度改正はどうなる?
今後、ケアマネに求められる実務とは
2024年の介護報酬改定でテーマとなるのは、ケアマネがどこまで家族支援に踏み込むのかという点です。
具体案が出ているわけではありませんが、参考になるのは『多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル』での記載です。
これはヤングケアラーに限定された支援マニュアルですが、家族支援という点では大きな違いはありません。記載されている内容で目を引くのは「介護者本人の意思の尊重」を重視しているという点です。
つまり、すべてのケアラーが直接的な支援を求めているというわけではなく、ときには「そっとしておいてほしい」と望む人もいます。
その際、ケアマネとして支援をしないというだけでなく、「無理はしていないか」などの現状を把握して支援が必要か否かを判断することが大切になります。
例えば、埼玉県の調査によれば、ケアラー自身が体調に異変をきたしているケースも少なくないことがわかっています。

次回の改定では、ケアマネによる家庭における介護の状況把握などが推進される可能性が考えられます。
国として支援策を明確にする必要が
現在、国では既存の枠組みを活用して家族支援を広げようとしています。例えば、レスパイトサービスの利用促進です。
レスパイトとは、「休息」などを意味する言葉で、在宅介護を行うケアラーが介護から離れて休息するための制度です。介護保険や医療保険が適用されるので、心身ともに疲れたケアラーなどの利用促進が求められています。
ただ、ケアラーの意思を尊重する以上、ケアマネがレスパイトの利用などを強要することはできません。
また、近年はケアマネの業務内容が拡大傾向にあり、これ以上の負担を強いると業務が滞ってしまい、逆に家族支援が進まないような状況も考えられます。
日本では現金給付のような直接的な支援に関する議論はまだ進んでいませんが、このまま介護離職に歯止めがかからなければ、国としての対策を講じなくてはならなくなる可能性もあります。
現場での支援を促進することも大切ですが、より効果的な体制や仕組みを設けることに力を注ぐことも必要ではないでしょうか。