高齢者の住宅事情

賃貸暮らしの高齢者が増加する見込み

近年、高齢者の住まいに関する議論が活発に行われています。医療や介護のニーズが高まる世代でありながら、地域で孤立するケースが増加しているからです。

『令和4年版高齢社会白書』によると、65歳以上の人がいる世帯のうち自宅を所有している割合は82.1%と最多。

その一方で、65歳以上で一人暮らしをしている人に限れば、自宅を所有している割合は66.2%と、相対的に低くなっています。

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出典:『令和4年版高齢社会白書』(内閣府)を基に作成 2022年10月11日更新

また、主として家計を支える者が65歳以上の世帯では、持ち家の世帯に比べて賃貸住宅の世帯の方が収入が低くなっています。

高齢夫婦だけの持ち家世帯では、年収200万円以下が約1.5割、年収300万円以下が約5割となってますが、民営借家世帯は年収200万円以下が約3.5割、年収300万円以下が約7割と多くなっています。

つまり、賃貸世帯に住んでいる高齢者は低所得者が多く、そのまま居住できるかどうかの不安を持つ人も多いとされています。内閣府は、今後賃貸に住む高齢者が増加すると見込んでおり、安定した住まいの確保が急務となっているのです。

賃貸住宅に住む高齢者の不安

『令和元年版高齢社会白書』では、高齢者の住まいに対する不安について特集を組んで調査しています。

その中で、60歳以上の人に将来の住まいに不安と感じていることがあるかどうかを尋ねました。

「不安と感じていることはない」という人が71.1%で最多となっている一方で、持家・賃貸住宅別で見ると、「不安と感じていることがある」とする人が「持家」の24.9%に対し、「賃貸住宅」の人が36.5%と高くなっていることがわかります。

また、「不安と感じていることがある」と回答した人が、具体的にどのような点を不安に感じているかでは「賃貸住宅」の人は、「高齢期の賃貸を断られる」(19.5%)、「家賃等を払い続けられない」(18.2%)を挙げる割合が多くなっています。

今後の介護事業に大きな影響を与える可能性がある「高齢者住まい・生活支援伴走事業」とは
賃貸住宅に住む高齢者の不安要素
出典:『令和元年版高齢社会白書』(内閣府)を基に作成 2022年10月11日更新

住居を貸し出している家主に対する調査では、高齢者に対して約7割が拒否感を持っており、入居制限を設けているケースもあります。

その理由として挙げられているのが「孤独死などの不安」「保証人がいない」などです。家主が考える有効な対策には「見守りや生活支援」が最も多く回答されていました。

このように、賃貸住宅に住む高齢者を取り巻く環境は厳しいと言わざるを得ません。

高齢者住まい・生活支援伴走事業とは?

高齢者の住まいに対する一体的な支援が目的

そこで、厚生労働省では地域包括ケアの一環として、住まいの確保だけでなく、地域とのつながりや見守り・相談支援など一体的な支援が必要だとして、「高齢者住まい・生活支援伴走事業」を実施しています。

一般的に、伴走型支援とは困っている人に対して継続的な支援を行うことを指していますが、この事業では、サービスを提供する自治体や関係機関に対して、厚労省の職員などを派遣して寄り添う事業となっています。

高齢者の住まいに対する支援は、地域支援事業における任意事業として認められています。これは各自治体などが地域の実情に合わせた事業を自由に展開でき、認可されれば相応の交付金をもらうことができます。

つまり、「高齢者住まい・生活支援伴走事業」とは、市町村レベルで高齢者の住まいに対する積極的な取り組みを行う際、厚労省などが計画立案や事務的なサポートをする事業を指しています。

愛知県岡崎市の取り組み

愛知県岡崎市では、「高齢者住まい・生活支援伴走事業」を活用して、2019年から「岡崎市住宅確保要配慮者居住支援協会」を設立。地域包括支援センターや社会福祉協議会と連携して、岡崎市ふくし相談課が実施主体として支援を提供しています。

岡崎市は、民間の賃貸住宅の需要が高く、空きが少ないという特徴があります。そのため、生活保護基準で入居できる物件も限られており、家主は孤立死などのリスクが高い高齢者を敬遠する傾向がありました。

そこで、厚労省ではさまざまな機関からのヒアリングを実施。2021年には家主や不動産業者と居住支援団体などとの連携を強化するため、「住まいサポートおかざき」という条例を施行しました。

その結果、終活ビジネスマッチングなどの多業種連携を促進するイベントを開催するなどして、活用できる民間サービスの範囲を広げています。

介護・医療・住まいの支援のあり方を模索

介護サービスをいかに強化していくか

今後、地域包括ケアシステムにおいて、国と自治体が協力して地域の実情に合わせたサービスを構築していく必要があります。

そのためには中長期的な視点で、いかに安定した介護サービスを提供していくかを考えなければいけません。

そこで、厚労省の介護保険部会では、特別養護老人ホーム(特養)の入居基準の見直しも視野に入れた議論が行われました。

現在、都市部と地方部では特養の入居率に差が生じています。人口が多い都市部では特養に入居できない「介護難民」が発生している一方で、地方部では定員割れを起こしているケースも少なくありません。

現状、特養の入居基準は原則として65歳以上で要介護3以上の人に限られています。条件付きで要介護1~2の方でも入居できるようになっていますが、施設ごとに毎月行われる入所判定委員会で判断されます。

この基準が緩和されれば、空きが出ている特養については、要介護1~2の方でも入居できるようになるかもしれません。

高齢者の生活ニーズに沿った支援のあり方が必要

高齢者の住まいの問題を解決するためには、在宅医療・介護の推進とともに、所得や住んでいる住宅の状況などを含めてサービスを提供しなければ効果が薄れてしまいます。

住まいと生活全般の支援が必要となるので、介護保険サービスだけではなく、民間サービスの活用が成功のカギを握ります。

ニッセイ基礎研究所では、高齢者が地域で生活いく上で何に困っているかを調査。独自にランキング付けを行っています。

それによると、一般高齢者の生活ニーズでトップになったのは「見守り、安否確認、声掛け」でした。一方、要介護高齢者では「送迎、公共交通の充実」となっています。

いずれも現状の介護保険サービスだけで対応するのは難しく、民間サービスが必要になります。

愛知県岡崎市のように、高齢者に対するサービスを市町村と民間業者で連携して構築していくことが大切です。

とはいえ、まだ「高齢者住まい・生活支援伴走事業」を活用している自治体は多くはありません。今後、こうした動きをどうやって広めていくかが地域包括ケアを成功に導くポイントになりそうです。

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