特養の入所基準とは
原則として要介護度3以上の人が利用できる
特別養護老人ホーム(以下:特養)は、入浴、排泄、食事などの介護や、機能訓練、日常生活の世話、健康管理及び療養上の世話を行う施設のことを指します。
利用者は施設で生活し、スタッフによって24時間の介護を受けることができます。
同じようなサービスに有料老人ホームがありますが、特養は設置主体が地方公共団体や社会福祉法人のため、サービス利用料が比較的安く、施設入居が必要になった方からの人気が高くなっています。
現在、特養の施設数は1万799、サービス受給者数は63.6万人に上ります。
しかし、特養への入居は原則的に要介護度3以上の高齢者に限定されています。2015年に、在宅介護が困難な方のみに必要なサービスを届けるために重点化を目指して、基準が設けられました。
そのため、厚生労働省の資料によると、特養の入所者の平均要介護度は3.96となっています。
出典:『社会保障審議会介護保険部会(第101回)地域包括ケアシステムの更なる深化・推進』(厚生労働省)を基に作成 2022年12月06日更新要介護1・2でも入所できる条件
2015年の改正では、原則として要介護度3以上という制限が設けられましたが、要介護度1・2の方でも入居できる「特例入所制度」も認められました。当時の議論で関係団体や自治体からは慎重論が多く、その折衷案として設けられた制度です。
特例入所が認められる現在の要件は以下の通りです。
- 認知症や知的障がい、精神障がいなどにより、日常生活に影響のある症状・行動が頻繁に見られる
- 家族による深刻な虐待が疑われるなど、心身の安心・安全の確保が困難な状態
- 単身世帯や同居家族が高齢だったり病弱だったりして、家族などからの支援ができず、地域での介護サービスや生活支援の供給が不十分
こうした特養の入所要件に関する見直しの議論が行われています。
入所要件変更の論点
要介護度1からの入所が検討されている
関係団体などからは要介護度1からの入所を認めるよう求められていますが、厚生労働省としては特例入所の条件を見直して、公平性や透明性を高めていくため、より具体的な指針を作成する方針です。
その背景には、判定の基準などが曖昧だという指摘があります。そもそも要介護度1・2の特例入所の審査を行うのは各市町村に設置された入所判定委員会が行います。
入所判定委員会は地域における介護の専門家などで構成されていますが、自治体によっては判断基準が不明確で公平性に欠けていることがあるともされています。
そこで、厚生労働省では上記の条件だけでなく、よりわかりやすい条件を設けて自治体による判断の差が生じないよう是正を目指しているのです。
都市部と地方部での利用率が異なる
また、見直しの狙いの一つに特養に入所を申し込んでいるものの、入所できない「入所待機者」の解消も挙げられます。
報道などでは“介護難民”ともいわれ、2019年度の調査では、要介護度1・2の人も含めると全国に32.6万人いることがわかっています。
入所待機者は都市部で多くなっている一方、地方部では少なくなっています。最も多いのは東京都で2万5,811人、一方で最も低い徳島県では1,281人。その差は約20倍にも及びます。
地方部では都市部に比べて高齢化のピークが早く、定員割れを起こしている特養もあります。こうした地域間格差を解消するためにも入所要件を緩和して柔軟に受け入れられる体制が求められているのです。
入所要件見直しの影響
どんなメリット・デメリットがある?
入所要件が緩和されると、利用者にとってはどんな影響があるのでしょうか。
まず、要介護度が低くても、症状が軽度であるとはいえないことがあります。
一方で、以前のように要介護度の低い人が入所できるようになると、要介護度3以上で本当に特養が必要な人がサービスを受けられなくなり、専門性が失われるというデメリットも考えられます。
本当に必要なサービスを提供できるかが課題
現在、特養では重度の利用者に対する医療的ケアの推進を進めています。というのも、特養では病院に入院していた方からの入院が多いからです。
福祉医療機構の調査によると、新規入所者のうち直前に入院していた人の割合は73.7%に達しています。
つまり、特養には医療的ケアを必要とする人の利用者が多いのです。
こうした要介護者を在宅で介護するのは容易ではありません。家族だけで支援を続けようとすると、介護に割く時間が多くなり、共倒れをしてしまうリスクも高まります。
今後、特養は介護度だけで判断するのではなく、個別的な事例として利用者の状況を判断することが求められることでしょう。
そのためには市区町村が実態に合わせて、柔軟に入所できるような仕組みづくりが必要です。