香川県のデイサービスが敷地内に「椎茸ハウス」を建設

利用者に出荷準備作業を担ってもらうことが参加意欲向上に

香川県丸亀市にあるデイサービス「あい・あーるケアセンター」が、2022年5月から施設の敷地内で椎茸ハウスを建てて、椎茸の菌床栽培を開始しました。

「入居者に出荷作業に取り組んでもらう」というサービスを提供し、参加意欲向上につなげているとして注目を集めています。

デイサービスが果たす役割の一つに、利用者が自宅の外に居場所を作れるようにする、という点があります。

同施設では利用者と社会をつなぐきっかけを提供し、居場所を提供できる取り組みが何かできないかと検討を重ねたとのこと。

その結果、椎茸ハウスでの栽培は安定して収穫を見込むことができ、かつ作業負担が少ないので高齢者でも取り組みやすいことがわかり、導入を始めたといいます。

椎茸ハウスは同施設の敷地内にある27坪の土地を利用して建設。初期投資には1,000万円以上かかったようですが、利用者からの評判は上々のようで、実際にハウスで椎茸を生産し、すでに生椎茸を3,000パックも販売するまでに至っています。

同施設ではこの取り組みを通して、利用者はもちろんスタッフの間での活気も増したとのこと。栽培した椎茸は販売以外にもデイサービスで提供する食材としても活用。

利用者の食べる喜びにもつながっています。地域のケアマネージャーに対する見学も積極的に行っているそうです。

「椎茸栽培」による売り上げを従業員の給与アップにも活用

高齢になると仕事から遠ざかるようになるため、社会からの疎外感を高齢者に生じさせることは少なくありません。

「あい・あーるケアセンター」ではお元気な利用者から「社会の役に立ちたい」「まだまだ現役で頑張れる」といった声を聞いていたそうです。そのことが、椎茸ハウスでの栽培というアイデアを思いつくきっかけになったといいます。

実際、利用者が取り組むのは「余暇時間活動の一環」という位置づけではありますが、椎茸の掃除、仕訳、出荷用のシールはりなど、現役世代が取り組むような作業そのものです。

しかし、あくまでデイサービスが提供するサービスの一環なので、作業でミスをしても笑い合って済ませることができ、何か困ったことがあればすぐにスタッフがサポート。

ストレスフリーで楽しく作業ができる雰囲気です。この点、やはり「仕事」とは大きく違います。

同施設が出荷した椎茸は地元の産直で販売。生スライス椎茸、ミニ椎茸、ジャンボ椎茸、乾燥椎茸などを複数の種類があり、売上も上々のようです。

同施設によると、今後もさらに売上を伸ばし、そこで得た収益は利用者・スタッフに還元していくとしています。スタッフに対しては給与額アップという形で、利用者に対しては設備と食事の充実化という形での報酬になるそうです。

こうした利用者へのサービスの一環として事業を行い、スタッフの給与アップにもつなげるという試みは新しい視点といえます。

厚生労働省の「令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、デイサービスの平均給与額は常勤で28万8,880円、非常勤で17万0,780円。この額は各種介護保険施設、訪問介護事業所よりも低いです。

デイサービスで椎茸を栽培⁉独自色を出す経営努力の裏には倒産件...の画像はこちら >>
出典:『令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果』(厚生労働省)を基に作成 2023年01月17日更新

利用者へのサービスとして生産・販売事業を行い、そこで得た収益をスタッフの給与額にも還元するという取り組みは、デイサービス職員への待遇改善、さらには人材確保にもつながる面があるといえます。

多様な取り組みを進めるデイサービスは多い

「温泉」「カジノ」「男性向け」などユニークな取り組み

デイサービスでは、バイタルチェック、昼食提供、お風呂、レクリエーション、機能訓練などを提供するのが本来の利用目的です。

しかし、先述の椎茸栽培のように独自色を出し、ユニークなサービスを提供して利用者増を目指しているデイサービスは全国に多いです。

例えば関東、中部、九州地区で23店舗(2022年12月時点)を展開している「デイサービスラスベガス」は、カジノや麻雀を楽しめるデイサービスとして注目を集めています。

送迎用の自動車も、あえて黒塗りのワンボックスカーを採用。送迎車が来るたびにワクワク感を持ってもらえるようなサービスを目指しているそうです。

もちろん、基本的なデイサービスとしての機能を持ち、機能訓練、入浴、食事など各種サービスを提供。食堂はフードコートのような独特の内装・形態になっています。

また、関東をはじめ、長野、宮城、沖縄などに店舗を展開している「らいおんハートリハビリ温泉デイサービス」では、その名の通り施設内に天然温泉を整備。

入浴した利用者からは、乾燥肌や肩こりの改善などの声が寄せられているそうです。

デイサービスに行くというより、温泉に行くという感覚で利用できるので、通うのが楽しみになるでしょう。

利用者がデイサービスに求めていることで独自色を出す

一般社団法人全国介護事業者連盟が2022年3月に公表したレポートには、デイサービスの利用者(n=4958)に「現在通っているデイサービスの事業所に通うことを決めた理由」を訪ねるアンケート調査結果が記載されています。

その調査結果によると、「お風呂に入ることができるから」(68.5%)、「送り迎えをしてくれるから」(65.3%)、「元気になれるとおもったから」(45.9%)、「機能訓練が充実しているから」(43.1%)、「レクリエーションが充実しているから」(30.1%)などの回答が多くみられました。

デイサービスで椎茸を栽培⁉独自色を出す経営努力の裏には倒産件数の増加が影響か
現在利用中のデイサービスに通うことを決めた理由
出典:『在宅生活継続にあたり通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護が果たす役割に関する調査研究事業報告書』(一般社団法人全国介護事業者連盟)を基に作成 2023年01月17日更新

これらデイサービス利用者の回答を見ると、入浴できる、元気になれる、体を動かせる(機能訓練)、楽しい(レクリエーション)が通う上でのポイントであるといえます。

つまり、これら利用者のニーズに合致する形でサービスに独自色を出せれば、集客につながるわけです。

冒頭で取り上げた椎茸栽培は、作業を通してやりがいを持って体を動かすことができ、心も元気になれます。

また、先述のカジノ型のデイサービスは楽しく取り組めるレクリエーションが特徴。

天然温泉を提供するデイサービスでは、入浴を楽しめます。利用者が求めている内容に合ったサービスを提供しているからこそ、成功につながっています。

デイサービスに経営努力が求められる背景事情

デイサービスの倒産件数が増加傾向

デイサービスが多様な取り組みを見せている背景要因の一つに、デイサービスを取り巻く厳しい経営環境があります。

東京商工リサーチによると、2022年の1~9月期の「老人福祉・介護事業」の倒産件数は100件で、過去最高を記録しました。そのうち、45件が「通所・短期入所介護事業」であり、これは訪問介護事業、有料老人ホーム事業よりも多い数値です。

「通所・短期入所介護事業」の倒産件数は右肩上がりの状況であり、2012年に倒産したのはわずか2件でしたから、単純計算すると2022年までの10年間で、20倍以上も増えていることになります。

デイサービスで椎茸を栽培⁉独自色を出す経営努力の裏には倒産件数の増加が影響か
「通所・短期入所介護事業」の倒産件数
出典:「東京商工リサーチ」のホームページを基に作成 2023年01月17日更新

デイサービスとして制度上求められている最低限の機能だけを果たすような運営姿勢だと、競合が激しい地域の場合は経営状況が悪化し、倒産の危機が生じる恐れがあります。

そのようなリスクを避けるためには、その施設ならではの独自色を打ち出し、利用者を獲得していく必要があるわけです。

特に小規模デイサービスに経営努力が求められる

「老人福祉・介護事業」における倒産件数の内訳をみると、負債額別1億円未満が約8割、従業員別では5人未満の事業所が5割超となっています。つまり、中小規模の介護事業者の倒産が多いわけです。

これは「老人福祉・介護事業」全体についてのデータではありますが、デイサービスのみ例外とは考えにくいので、同様の状況であると考えてよいでしょう。

こうした厳しい経営環境の中、冒頭で取り上げた椎茸栽培のような独自色のある取り組みは、打開策の1つになり得ます。

この取り組みの特徴は、利用者に提供するサービスが事業として売上・利益を出すことができ、それを利用者が使用する設備の質や提供する食事の質の向上につなげ、さらにはスタッフの給与アップも図れるという点にありました。

デイサービスは通常、サービス提供による介護報酬が収益のすべてであり、その中から設備を整える費用、人件費をまかなう必要があります。

特に小規模事業者の場合、施設の規模などから利用者数も限られるため、費用をカバーするだけの収益を得られず、次第に経営が厳しくなるわけです。

一方、利用者へのサービスとして椎茸栽培を行ってそれを販売し、収益を出すことができれば、事業所としての収益アップを図れます。

人件費をはじめ各種費用に回せる金額を増やすことができるわけです。デイサービスの事業運営において、椎茸栽培の取り組みは一つの大きなヒントを提供しているのではないでしょうか。

今回はデイサービスにおける椎茸栽培の取り組みについて取り上げ、その背景要因について考えてきました。厳しい経営環境が続く中、デイサービスには独自の経営努力を続け、難局を乗り切ってもらいたいです。