介護施設ではポリファーマシーの入居者が多い?

ポリファーマシーとは?

近年、ポリファーマシーという言葉を耳にする機会が増えてきました。日本語では「多剤服用」と訳され、医療的には単に複数の薬を服用することではなく、副作用や有害事象(好ましくない徴候や症状、病気)を起こすことを指します。

取り沙汰されることが多くなったのは、日本の高齢化が関係しています。

どの世代でも数種類の薬を服用している方はいますが、特に高齢者は複数の病気を治療するために多剤服用の状態の方が多い傾向にあります。

その原因のひとつとされているのが、患っている病気に対して、通っている医療機関が多くなり、自然と処方される薬も多くなるケースです。

厚生労働省によると、75歳以上の高齢者のうち約4割は5種類以上の薬を使っていると報告されています。また、使っている薬が6種類以上になると、副作用を起こす高齢者が増えるというデータもあります。

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高齢者は、若い世代よりも肝臓や腎臓の働きが弱くなり、薬を分解したり、体外に排出したりする機能が低下するため、よりポリファーマシーを起こしやすいとされています。

総人口の4人に1人が高齢者となった今、ポリファーマシー対策は急務となっているのです。

常勤の医師がいない施設でポリファーマシーが多い?

ポリファーマシーは医療だけの問題ではありません。介護施設に通う高齢者にも複数の薬を服用している方が多いため、介護現場での対応が欠かせないからです。

2023年4月、厚生労働省は翌年に控えたトリプル改定※に向けて、「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」を開催。第2回のテーマとして「高齢者施設・障害者施設等における医療」を議論しました。

2024年度に医療保険の診療報酬、介護保険の介護報酬、障害福祉サービスの報酬の3つが改定されるため、このように呼ばれる

介護施設のうち、介護老人保健施設(老健)や介護医療院では、医師や薬剤師の配置基準が設けられており、患者がどれだけ適切に薬を服用しているかを示す「服薬アドヒアランス」を観察したり、生活習慣に合わせて薬を調整する機能が備わっています。

一方、特別養護老人ホーム(特養)や有料老人ホームでは、医師や薬剤師の配置基準が設けられていないため、老健などと同様の対応が難しくなります。

薬剤管理の現状と課題

施設入居者の約75%がポリファーマシー

厚生労働省が特養を調査したところ、入所者のうち5種類以上の薬剤を服用している人が最も多いと回答した割合は約75%に上ることが明らかになりました。

この結果から、厚生労働省は特養などの高齢者施設ではポリファーマシーのリスクが高く、服用アドヒアランスが低下しているのではないかと懸念を示しました。

城西国際大学の実態調査でも、特養と老健ではいずれも平均的に5~9剤の薬を服用している入所者が多いと報告されています。

また、同調査では老健のほうがポリファーマシーによる健康上の問題点を発見する割合が多くなっていることが示されました。

高齢者施設の職員の負担感が大きい

医師や薬剤師がいない特養などの老人ホームでは、配置されている職員が薬剤管理を担うことになります。

特に看護師資格を持つ職員が担当することが多くなりますが、介護職員に比べて、人員に限りがあるため、相応の業務負担を強いられます。

厚生労働省によれば、施設の看護職員が服薬支援に多くの時間、またはある程度の時間を費やしていると回答した割合は約90%にも上ります。

薬剤師訪問で得られるメリット

利用者の服用と職員の業務が改善

特養では、2016年の介護報酬改定以来、薬剤師との連携で加算が得られるようになっています。

この加算を算定している施設では、主に薬剤師が施設を訪問して、服用のアドバイスを行います。そのメリットは大きく、利用者の服薬管理が改善されています。

厚生労働省のアンケートによれば、特に次のような回答が多くなりました。

  • 剤形の変更や服薬方法の工夫により、服薬しやすくなった(64.6%)
  • 重複投与の改善(57.6%)
  • 薬の飲み忘れの減少(50.5%)
  • 残薬の解消(46.5%)
  • 誤嚥の減少(45.5%)

具体的には、次のような対応をすることで薬剤管理が改善されたといいます。

  • 内服薬を一包化し、利用者ごとにカレンダーにセット
  • 利用者の体調などに応じて、調整が必要な薬剤は別に分包
  • 液剤・外用薬にも氏名・用法などを記載し、服用のタイミング別に色付けした

こうした工夫によって職員の業務が改善したと回答した割合は69%に上りました。

さらに、服薬状況について薬剤師などの関係機関と情報共有を行うことによって「利用者の服薬の状況が改善された」と答えた施設は65.4%となっています。

このように、薬剤師が介入することによるメリットは大きいといえるでしょう。

介護施設と薬局との連携が強化される?入居者の薬剤管理が改善されると職員の負担が減少する
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高齢者施設の役割がさらに明確化する可能性

そこで、厚生労働省の議論では、今後高齢者施設で薬剤師が積極的にかかわることが望ましいとされました。

そのなかで施設の類型によって、医師や看護師の配置義務などの特性が異なるほか、ショートステイ入所時の施設への服用薬、服用方法などの情報提供方法など、現場レベルでどのように対応すればいいのかが今後の課題として挙げられています。

制度として明文化するか、それとも指針を示すのかはまだわかっていませんが、2024年度のトリプル改定で、何らかの言及がありそうです。

そのため、今後は高齢者施設の類型によって、服薬管理を徹底する施設と、そうではない施設とで明確に区別される可能性もあります。

2024年以降、特養や有料老人ホームなど、似たようなサービスを提供する施設の役割が明確化されるかもしれません。

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