ニーズが高まるシニアリビング
シニアリビングとは?
現在、国や市町村では、高齢者の住まいに関する取り組みが推進されています。こうした取り組みは介護保険制度の枠組みにとどまりません。国土交通省が主導で住み替え支援制度を充実させたり、地域で高齢者の住居問題の相談窓口を設けるなどが実施されています。
こうした国の動きに合わせて、民間レベルでも高齢者向けの住宅開発が進んでいます。今、注目されているのは「シニアリビング」です。
これは要支援・要介護者向けではなく、まだ大きな病気を患っていない元気な高齢者向けの住居です。有料老人ホームやサ高住もその一種で、高齢期の生活をサポートするサービスが一体化されているのが特徴です。
その種類には以下のようなものがあります。
有料老人ホーム 要支援・要介護者向けの「介護専用型」と、健康で自立して生活できる方、要介護状態の方のどちらでも入居できる「混合型」があり、シニアリビングにあたるのは後者の「混合型」です。有料老人ホームでは「介護専用型」が多く、実際には要支援・要介護者向けのサービスが充実しています。 サ高住サービス付き高齢者向け住宅のことで、近年全国で非常に増えているタイプです。バリアフリー対応で、安否確認や生活相談のサービスが受けられる施設も多い傾向です。
サ高住は、必要になったら外部の介護保険サービスを受けることも可能なので「今のところ介護は必要ないが、将来の備えとして利用したい」という方に人気があります。
シニア向け分譲マンション 実際に物件を購入して所有財産にできるタイプです。サービスはサ高住と似ており、バリアフリー設備や生活支援サービスのほか、フィットネスジム、レストラン、シアタールーム、温泉などが併設されていることもあります。シニアリビングは、高齢者が安心して老後の生活を楽しめるような施設やサービスが充実しています。そのため、現在自宅で生活している方が老後の住み替え先として選ぶケースが増えているようです。
シニアリビングで住み替える理由
全国有料老人ホーム協会(有老協)と高齢者住宅協会(高住協)は、シニアリビングに今後求められるニーズの実態調査を行いました。
その結果、シニアリビングに住み替えるきっかけとして最も多かったのは「日常生活に不安を感じた」(34.9%)で、「単身になった」(19.2%)、「要支援・要介護になった」(9.2%)と続きます。
やはり生活環境や心身状況が多くなっていますが、中には「新しいライフスタイルを始めたい」(14.5%)、「日常生活に便利な場所に住みたい」(24.6%)、「人との交流の機会をもちたい」(6.4%)など、ポジティブな要因で住み替えを考える高齢者もいることがわかっています。
元気高齢者が求める生活スタイル
生活支援として望まれるのは移動支援
では、元気高齢者はどんな生活を求めているのでしょうか。
ニッセイ基礎研究所は過去の厚労省のアンケート調査などを詳細に分析しました。その結果、元気高齢者が求めているニーズで最も多かったのは「送迎、公共交通の充実」でした。
バス路線の廃止が相次ぎ、免許返納などによって移動手段を失うことが多く、元気高齢者の多くは移動に不安を抱えている方が少なくありません。移動支援は高齢者の生活における最大の課題ともいえるでしょう。
次に多かったのは、「買い物、移動販売、薬の受け取り」。食料品や日用品、医薬品など生活必需品の確保が困難になる高齢者が多いことを物語っています。これは移動支援とも絡んだ課題でもあり、移動手段の確保という問題を秘めているともいえます。
先述した有老協と高住協のアンケート調査でも、住み替え先を選んだ理由として「公共交通機関が使いやすい場所」(38.2%)、「スーパーマーケット等日用品の買い物に便利」(30%)など、移動の利便性を考慮した回答が多くなっています。
資金面以外では健康に不安を感じている
老後の不安として、資金面以外では健康面を不安視する声も多くなっています。みんなの介護では「老後の不安で一番大きいことはなんですか?」というアンケート調査を実施しました。
トップは「お金」(806件)でしたが、次いで「健康面」(463件)が多くなっています。
そのため、有老協と高住協の調査では、住み替えの理由として「見守り等の生活支援サービスがある」(39%)、「介護・医療サービス事業所を併設している」(15.7%)を挙げる回答も目立っています。
シニアリビングは、地域の中でも都市部に多く立地しているため、公共交通が利用しやすいことが多くあります。さらに、介護状態になる前から自由に生活できるうえに、仮に要介護になっても、すぐにサービスを受けられるとあって、元気高齢者から注目を浴びていると考えられます。
シニアリビングが果たす役割
ソフト面の充実が図られる
これまでのシニアリビングは、さまざまな施設を併設して高級感を打ち出したり、サービスを充実させたりして家賃を高額化してきた経緯があります。
一方、近年は高齢者のニーズがより現実的なものになっており、趣味や生きがい活動を継続し、自分らしく生き続けたいという意識が高まっています。
こうしたニーズに応えるためには、必ずしも施設や立地などのハード面に依存しない新たな機能が求められます。
そこで、有老協と高住協は次のような5つのポイントを、提言としてまとめました。
①高齢者のニーズ・経済的条件に対応したハード消費者調査結果では、特に重視されているのは、災害に対応しうる「建物の堅ろう性」や「住居としての機能」であり、これまでのような豪華な大浴場や各種の大型共用施設へのニーズは低くなっています。
例えば、一人暮らしの場合は1LDKでバス・トイレ付きを希望する方が多く、派手さよりも使い勝手を重視しているようです。
②外部資源の活用による健康維持・介護予防の強化住み替えを決めた理由のひとつに「日常生活になんとなく不安を感じた」や「将来の身体機能の衰えに備えたい」という回答が多くなっています。
③生きがいづくり・新たなコミュニティ形成の支援 元気高齢者のニーズのなかでも、新たに増えてきているのが「趣味・スポーツ」「教育・文化活動」などの社会参加を求める声です。入居者が社会活動に参加できるような仕組みやサービスを充実させることがポイントになるでしょう。 ④生活支援機能のさらなる強化 生活支援の中でも、移動支援は立地条件などが求められますが、一方で入居者のニーズとして高かったのは食事です。現在、入居しているシニアリビングの不満点として最も多かったのが「食事に満足していない」(20.5%)」でした。食事のバリエーションを施設だけで広げるのは難しいため、外部の民間サービスと提携するなどして、充実していくことが求められるでしょう。 ⑤シニアリビングに対する制度上の支援
高齢者の住み替えにはある程度の資金が必要になります。しかし、実際には資金が不足して望んでいた住み替えができないというケースも少なくありません。
そこで、自宅売却時の課税特例措置や、賃貸活用に係る税制支援などを設けて、より高齢者が望んだ暮らしを送れるような支援が必要だとしています。
介護保険外サービスとの連携が高まるか
今後、介護が必要のない高齢者でも、地域経済の衰退などで住み替えのニーズが高まっていきます。
また、シニアリビングが増えれば、企業による投資も増える傾向があります。アメリカでの調査によれば、不動産投資としても魅力的な市場としてシニアリビングは注目されているそうです。
日本では、少しずつ介護保険外サービスを運営する団体も増加しています。ここに積極的に企業が参加し、シニアリビングとの一体的なサービスが増えていけば、地域経済の活性化にもなります。
今後は介護予防というニーズに応えるためにも、シニアリビングのサービスというソフト面の充実が求められていくでしょう。