認知症の行方不明者が1万8千人超えに
行方不明者の約4人に1人が認知症
近年、認知症の方が行方不明になるケースが増えています。警察庁によると、2022年中に行方不明の届け出があったのは全国で8万4,910人。その原因には「家庭関係(15.2%)」「事業・職業関係(11.3%)」「不詳(20.1%)」などがありますが、認知症が原因だったケースは22%を占めていました。
その多くは1週間以内に発見されるケースですが、死亡確認に至ったのは3,739人で、毎年1万人程度はそのまま行方がわからなくなっています。
桜美林大学が、行方不明になってしまった認知症の方のケースを独自調査したところ、発見までの日数が生存しているかしていないかのポイントになっていることがわかりました。それぞれの生存割合は以下の通りです。
- 当日中→約80%
- 翌日→約60%
- 3~4日→約20%
- 5日以上→0%
また、死亡事例となってしまったもののうち、軽度認知症が4割を超えていました。
さらに、発見者の約半数以上が家族や警察といった捜索関係者ではなく、一般の方々が約4割となっています。家族が発見した事例はわずか6%だったのです。
発見された場所はさまざまですが、普段移動できる範囲は約40%なのに対し、かなり遠くで発見されたケースが45%以上を占めていました。
これは認知症の方の徘徊では、家族が想定できる場所ではないどこかに行ってしまう可能性を示しています。
徘徊に至る原因
認知症による「徘徊」は、BPSD(行動・心理症状)の一つです。
認知症の方の徘徊には、目的がないと思われがちですが、多くの場合ではっきりとした目的があったり、外出して道に迷ってしまったなど、さまざまな理由があります。認知症の方にとっては切実な行動であることが多いのです。
そこで、徘徊を未然に防ぐためには、それぞれの状況や心理特性などを把握して、介護やかかわり方を工夫する必要があります。
日本作業療法士協会によれば、徘徊の原因には次のような4点に注目する必要があるといいます。
何月何日、何曜日であるかなど自分がどこにいるかわからない見当識障害で自分が今いる場所がわからなくなり、不安からあちこち歩き回ってしまうことがあります。
また、探しているはずのものが見つからず、探し続けてしまったり、最初は目的があっても途中で何を探しているのかを忘れてしまい、徘徊につながることがあります。
②病期認知症が中等度以上になると、よく慣れた場所でも方向がわからなくなってしまい、迷ってしまうリスクが高まります。
また、周囲の状況が判断できず、どのように行動してよいかわからなくなったり、次にどのように行動してよいかがわからなくなり混乱して立ち去ってしまうことがあります。
適切な判断ができなくなるため、道に迷っても人に聞いたり、電車に乗ることなどの判断が難しくなります。
③趣味、職歴、生活歴昔の生活をしているつもりで買い物や仕事、散歩などと勘違いして出歩いてしまうことがあります。仕事をしていると思い込み、職場を探して出かけることもあります。
認知症になる以前の生活や趣味が、徘徊の原因にもなるのです。
④不安やストレスなどの環境要因当たり前のようにできていたことができなくなると、「自分はどうしてしまったのだろうか」と不安になります。
その際、介護者とのかかわり方が不適切だったりすると、拒否や反抗、怒りっぽい言動になり、徘徊につながることがあります。
また、何らかの刺激によって気分が高揚したときなど、部屋をうろうろし始めて、徘徊に至ることもあります。
徘徊によるリスク
夏場は熱中症などのリスクが高まる
徘徊をしたときは事故にあったり、怪我をしたりする危険性が高まります。
先述した桜美林大学の研究によると、死亡確認になってしまったケースでは、次のような死因が多かったとされています。
- 溺死(27.8%)
- 凍死(21.3%)
- 事故(14.8%)
- 低体温症(13.1%)
- 水死(11.5%)
特に溺死と水死を合わせると約40%に上ることがわかっています。海や川が近かったり、大きな側溝などに落下してしまうケースが考えられます。
また、夏場の徘徊では脱水症状や熱中症の危険性があります。冬場であれば低体温症に気をつけなければなりません。
さらに、徘徊中に転倒をして骨折するようなことがあると、高齢者の場合はそのまま寝たきりになってしまうケースもありますので注意が必要です。

施設入居者の徘徊は事業者に責任が生じることも
徘徊によるリスクは、本人の怪我や事故だけにとどまりません。仮に施設入居者が徘徊先で何らかの事故にあって死亡してしまったとき、施設側に責任が生じることがあります。
福岡地裁での事例では、アルツハイマー型認知症の施設入居者が正面出入口が施錠されておらず、3日後に発見されたときは、凍死してしまいました。
この判例では、施設の介護職員が所在の確認をすべきことを怠り、動静を見守る義務(注視義務)に違反したとして、施設側に賠償責任が認められました。
一方で、埼玉県で起きた同様の事故事例では、職員が十分に注意を払っていたものの、勝手口が開けやすいタイプで、ドアが開いたら注意を喚起するような装置もなかったため、施設設備の設置義務違反での賠償責任が認められました。
どのような対策を取るべきか
人員配置と施設のハード面を再確認する
職員を十分に配置できず、どうしても注意を払うことができないような環境であれば、ハード面の義務違反が問われやすくなります。
そのため、施設側は十分な安全確認と、徘徊対策をするためのハード面を再確認する必要があります。
日本作業療法士協会は次のような対策を挙げています。
①家の中や施設内の本人にとっての不安要素を取り除く 新しい環境であれば、できるだけ利用者が馴染めるようなかかわりが大切です。地域との連携強化が大切なポイント
徘徊によって行方不明になってしまうと、死亡事故などにつながりかねません。しかし、危険だからといって、施設や家の中に閉じ込めてしまうと、認知症の方の不安感を高めたり、健康状態の悪化が懸念されます。
とはいえ、介護者がいくら気をつけていても、隙を見て外に出てしまうことも考えられます。そんなときに頼りになるのが、「第三者」の存在です。
桜美林大学の研究でも示されているように、徘徊によって行方不明になった場合、多くのケースで第三者である一般の方々が発見しています。
徘徊の症状が出ている方に対しては、地域の民生委員や自治会の役員、近所の方々に知っておいてもらうことで発見の確率が高まり、死亡事故などのリスクを軽減できます。
また、本人が立ち寄りそうなお店や駅、交番などにも同様のことを伝えておくといいでしょう。
近年は各自治体や地域のNPO法人が見守りネットワークを構築していることがあります。こうしたサービスをうまく活用して、自治体などとも連携しながら徘徊が起きても発見できるような体制を構築することが大切です。