訪問ヘルパーの現状

約8割の事業所で不足感

人材不足が叫ばれて久しい介護業界の中でも、ひと際不足感が強いのが訪問介護における訪問ヘルパーです。

人材不足の指標としてよく用いられるのが有効求人倍率です。有効求人倍率とは「企業がハローワークにエントリーする仕事の数(有効求人数)÷働きたい人の数(有効求職者数)」の数で算出。

つまり、倍率が高ければ高いほど、求人に対して働きたい人の数が足りていないことになります。

訪問ヘルパーの有効求人倍率は、2022年度時点で15.53倍で過去最高の水準に達しました。2013年度には3.29倍だったので、およそ10年で約5倍にも膨れ上がっています。また、2022年度の施設介護員の有効求人倍率は3.79倍、全職種では1.31倍(2022年平均)。訪問ヘルパーの数値がいかに高いかは一目瞭然です。

また、約8割の事業所が訪問ヘルパーの不足を感じていると回答しており、訪問ヘルパーの不足感は深刻さを増しています。

訪問ヘルパーの有効求人倍率が過去最大に…人材不足が深刻さを増...の画像はこちら >>

介護職の中で最も高齢化が進む

また、訪問ヘルパーの高齢化も進んでいます。厚労省の資料によると、介護業界全体の平均年齢は50歳。職種別にみると、訪問ヘルパーは54.4歳で、最も高くなっています。

たとえば、介護職員は49.8歳、看護職員は45.7歳なので、訪問ヘルパーは5~10歳ほども平均年齢が高くなっています。

訪問ヘルパーのうち、65歳以上の構成割合は24.4%で、そのうち70歳以上は12.2%を占めていることがわかっています。

有効求人倍率が高く、平均年齢が高いということは、新しく訪問ヘルパーになる人の数が非常に少ないことを示唆しています。

人員不足と高齢化で起こる弊害

人員不足で対応できないケースも

近年、在宅ケアの重要性が叫ばれており、政府も在宅医療・介護の拡大を目指しています。2024年度介護報酬改定でも、この方針に変わりはありません。

一方で、一人暮らし高齢者の増加や、高齢者世帯の社会的孤立などが問題視されています。

その中で介護保険サービスにおける訪問介護は、利用者の安否確認や健康状態の把握などの意味でも、非常に重要な役割を担っています。

訪問介護のサービス受給者数は、2009年から一貫して右肩上がりで増加しており、2020年には約106万8,100人と過去最高を記録しました。

しかし、訪問ヘルパーは不足しているので、サービスを提供できないケースも生じているそうです。

厚労省の資料では、ケアマネージャーから紹介のあった方への訪問介護サービスの提供を断った理由をみると、「人員不足により対応が難しかったため」が90.9%と最多となっていました。

ニーズがあるのに対応できないケースが増えれば、介護保険サービスの存在意義すら揺らぎかねません。

高齢化によるサービスの質低下が懸念

また、訪問ヘルパーの高齢化によって、対応できないケースはさらに増加する可能性があります。

訪問介護の利用者数が増加する中、近年は要介護度の高い方も増加。比較的負担が少ない生活援助中心のサービスが減少傾向にある一方で、介護者への負担が大きい身体介護※を重点的に行わなければならないケースも増えています。

食事介助や排泄介助、入浴介助など、利用者の身体に直接触れて行う介護のこと

高齢になれば、たとえ訪問ヘルパーといっても身体に衰えが生じます。特に65歳以上ともなれば、ヘルパー自身も何らかの疾患を抱えていることも少なくありません。

そうなれば提供できるサービスに制限が出る可能性は大いにあります。このまま人材の流入がなければ、訪問介護事業者が利用者のニーズに応えられなくなり、サービスそのものが破たんしかねません。

人員確保のために必要なこと

訪問ヘルパーが抱える問題

日本社会福祉学会に掲載された論文「訪問介護における人材不足の構造的要因についての研究」は、訪問ヘルパーがほかの介護職員と比較して厳しい労働条件に置かれていることが指摘されています。

この調査では、訪問ヘルパーは施設の介護職員よりも高い時給が設定されているものの、労働時間が30分や60分などの細切れになっていることに注目。着替えや整理といった付帯労働時間が生じやすいことがわかっています。

また、訪問ヘルパーは施設の介護職員よりも幅広くきめ細やかな配慮が求められる一方で、より大きいリスクや責任も求められます。利用者の自宅という状況の中で、1対1でサービスを提供することで、事故や事件にもつながりやすいことが考えられます。

このような労働条件の厳しさは、業界内でも有名になっており、訪問ヘルパーになりたいと考える人がそもそも少なくなっていることが大きな問題ともいえるでしょう。

負担軽減と処遇改善が急務

厚労省の審議会では、多くの委員が2024年度の介護報酬改定で、できる限り対策に乗り出すべきだと主張しています。介護報酬の引き上げや処遇の改善、負担の軽減などを求める声が大半を占めていました。

しかし、事業所に対する処遇改善は、これまで国や自治体でも積極的に取り組んできた背景があります。政府によるベースアップ等支援加算は、介護職員の給与を押し上げる要因にもなりました。

また、独自に訪問介護事業所への支援に乗り出す自治体もあります。たとえば、兵庫県では「訪問介護人材等確保対策事業」を行っており、訪問介護人材に対する研修費用などを助成したりもしています。

しかし、事業所への支援策だけで、訪問ヘルパーのイメージを払拭するのは困難です。

厳しい労働条件であれば、それに見合った報酬を考えなくてはなりません。つまり、より訪問ヘルパーに直接利益がいくような仕組みが必要ではないでしょうか。

また、訪問ヘルパーの負担軽減も考えるべきでしょう。地域包括ケアシステムを活用して、介護保険外サービスと組み合わせるなどのケアプランを作成することなどが考えられます。

このままでは訪問介護サービスそのものが立ち行かなくなる可能性もあり、早急な対策が求められます。

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