認知症介護基礎研修とは

アルバイトやパートにも受講義務がある

2021年度介護報酬改定によって、認知症の方を直接介護する職員は認知症介護基礎研修の受講が義務づけられました。経過措置として2024年3月末までは未受講でも勤務できることになっていましたが、その期限がいよいよ半年を切りました

認知症介護基礎研修は、認知症の方に介護をする際に必要な基礎知識を学べる研修です。対象となる方は、おもに何の資格も持っていない職員です。

なお、以下の資格を持っている方は受講を免除されています。

  • 看護師、准看護師
  • 介護福祉士
  • 介護支援専門員
  • 実務者研修修了者
  • 介護職員初任者研修修了者
  • 生活援助従事者研修修了者
  • 介護職員基礎研修課程修了者
  • 訪問介護員養成研修一級課程・二級課程
  • 社会福祉士
  • 医師、歯科医師
  • 薬剤師
  • 理学療法士
  • 作業療法士、言語聴覚士
  • 精神保健福祉士
  • 管理栄養士、栄養士
  • あん摩マッサージ師
  • はり師、きゅう師 など

清掃員など直接介護に携わらない職員は受講の必要はありません。また、福祉系の学校で認知症介護のカリキュラムを受講済みの職員も受講は不要です。

一方、認知症の方の直接介護に携わるのであれば、パート・アルバイトでも受講の義務があります。そのため、事業者は職員に研修を受けるよう推進しなくてはなりません。

義務化に至る背景と受講内容

認知症介護基礎研修が義務化された背景には、認知症になる人の増加があります。筑波大学の推計によれば、2025年の認知症の有病者数は約700万人になるとされています。

2022年の国勢調査による65歳以上人口に当てはめると、高齢者のうち5人に1人が認知症の方になる計算です。

また、認知症介護はさまざまな専門知識が求められることがあり、無資格で何の知識もない職員による介護は、双方にとって大きなストレスとなることがあります。

そこで認知症介護基礎研修では、次のようなカリキュラムが設けられています。

  • 認知症の人を取り巻く現状(認知症施策推進大綱の内容)
  • 具体的なケアを提供するときの判断基準となる考え方(偏見の排除、意思決定支援など)
  • 認知症の人を理解するために必要な基礎的知識(認知症の症状やその原因)
  • 認知症ケアの基礎的技術に関する知識と実践上の留意点(チームケアや家族介護者への支援)

受講料金は自治体によって異なりますが、3,000円程度が一般的です。受講にかかる時間は約2時間30分。直接会場で受けるだけでなく、eラーニングなども適用されます。

認知症ケアの重要性

介護者の偏見を取り除く

認知症の方が増加しているにもかかわらず、認知症に対する偏見はいまだに根強く残されています。なかには「ボケ」という言葉を使用し、侮蔑的な見方をする人も少なくありません。

しかし、認知症とは認知機能に障害が起こることであり、さまざまな機能が低下する高齢者にとっては起こりえる症状です。多かれ少なかれ加齢によるもの忘れが生じやすくなるように、認知症は特別な疾患ではなく、症状の総称にすぎません。

また、認知機能の障害なので、その症状は千差万別。そのため、誰にでも当てはまる支援方法はなく、その人の性格や生活歴、人間関係などを踏まえたケアが必要になります。

そのため、認知症介護基礎研修でも、まずは認知症に対する偏見や誤解を解くカリキュラムが用意されているのです。

コミュニケーションが重要なポイント

認知症の人とのコミュニケーションにおいて、介護職員の対応は極めて大切なポイントになります。暴力や暴言はもってのほかですが、どんなに隠していても偏見や差別的な態度が出てしまうと、認知症の方の態度が硬化して、コミュニケーションがとれなくなってしまいます。

仮に意思疎通ができてないのに「(排泄介助をして)きれいになったから、これでいいでしょう」というようなケアでは、認知症の方の態度がますます悪化しかねないのです。

認知症の方との理想的なコミュニケーションは、職員と利用者との相互作用を念頭に置かなければなりません。特に大切なのは、相手の方は「認知症」ではなく、「人」であるという認識を持つことです。

コミュニケーションには、大きく分けて「言語的コミュニケーション」と「非言語的コミュニケーション」の2つがあります。

言語的コミュニケーションは「言葉を使って会話をすること」で、非言語的コミュニケーションは、「ジェスチャーや合図などを用いて、相手に心情などを伝える」方法です。

私たちは日常的にこれらをその時々に応じて使用しています。相手との意思疎通を図るためには、どちらのコミュニケーション手法も重要なのです。利用者とかかわる場合も同様です。その上で、気をつけるべきこととして、次の点が挙げられます。

加齢による身体的特徴を理解する

高齢者の身体機能は加齢によって低下します。例えば、視力や聴力が低下すると、コミュニケーションに大きな影響が生じます。

「誰に話しかけられているのか」「何を言われているのか」がわかりづらくなり、不安が生じやすくなるのです。

このような機能低下で、生活が不便になったりコミュニケーションが難しくなります。そこで介護職員は、利用者の身体的特徴をよく理解し、その状態に応じたかかわりが必要になるのです。

認知症の方の心理的特徴を理解する

認知症の方は、自身の能力の低下や周囲の変化に戸惑い、不安を覚えます。だんだん周囲から孤立していくような感覚になり、「ボケ」扱いや子ども扱いされることに自尊心が傷つきやすくなります。

また、介護者に対して迷惑をかけているという気持ちになり、自分の気持ちを伝えられないもどかしさも感じます。

このように、認知症ケアは適切な基礎知識を持って、ケアの方法を考えていく必要があります。そのため、何も学ばずに介護にあたるよりも研修である程度の知識を得ることが大切なのです。

2024年3月までに受講が必須!認知症介護基礎研修の必要性と...の画像はこちら >>

職員に受講させるポイント

未受講者がいると行政処分の可能性も

介護労働安定センターが毎年行っている「介護労働実態調査」によると介護職員のうち約7.7%が無資格だという調査結果が出ました。そのすべての人が認知症介護基礎研修を未受講かどうかまでは調査されていませんが、まだ一定数の未受講者がいると考えられます。

また、人手不足のため、未経験者でも積極的に採用する施設が増えていますが、認知症介護の必要がある場合は、非常勤の方にも受講させなければなりません。

対象者に認知症介護基礎研修を受けさせていない事業者は、行政指導や行政処分の対象となる可能性があるからです。

採用時に受講してもらう

多くの施設では、すでに職員の認知症介護基礎研修の受講に取り組んでいるようですが、職員に一任している場合はまず調査する必要があるでしょう。

また、新規で採用する際には、改めて資格の有無について証明書などを確認しておくと安心です。例えば、福祉系の大学や専門学校で認知症のカリキュラムを修了していれば受講の義務を免除されますが、その際は卒業証明書が必要になります。面接時に持参してもらうなどの方法で、確認を取っておくことが肝心です。

新規で雇用した方が未受講だった場合は、施設でまとめてeラーニングに申し込むなどして受講を促すと良いでしょう。

受講そのものはeラーニングで簡単に受けられますし、費用も低額です。事業者が補助するなどして、なるべく早めの受講を済ませておきましょう。