大グループホームの「医療連携体制加算」のあり方が議論に

医療連携体制加算Ⅱ、Ⅲの取得率が3%未満という実情

10月23日、来年度の介護報酬改定について話し合う社会保障審議会・介護保険部会の場で、グループホームにおける「医療連携体制加算」のあり方が議論のテーマとなりました。

グループホームの看護体制を評価する医療連携体制加算については、基本的な位置づけとなる「加算Ⅰ」は算定率が82.3%と高い数値になっています。

しかし、より高度な体制を求める「加算Ⅱ」と「加算Ⅲ」については、取得率は加算Ⅱが1.3%、加算Ⅱが2.4%しかありません。

「Ⅰ」と「Ⅱ・Ⅲ」の取得率に圧倒的な差が生じているのです(加算率はすべて2022年4月審査分の数値)。

介護報酬の加算は一般的に、加算Ⅰよりも加算Ⅱ、加算Ⅱよりも加算Ⅲの方が、より多くの報酬を得られる分、高度な体制整備が必要です。そのため、加算Ⅱ・加算Ⅲが加算Ⅰよりも取得率がある程度下がるのは当然とは言えます。しかしグループホームの医療連携体制加算では、加算Ⅰの取得率が8割あるのに、加算Ⅱと加算Ⅲは3%にも届いていません。

この異常なほどの差が生じている実態を踏まえると、やはり制度の見直しが必要ではないか、というのが今回話し合われた内容です。

グループホームとは?

グループホームとは、認知症の方が共同生活を送るための入所施設です。介護保険制度上では「認知症対応型共同生活介護施設」と呼ばれています。

グループホームにおける看護体制の実態とは?加算のあり方が実態...の画像はこちら >>

入居要件として、医師から認知症の診断を受けていること、要支援2以上の認定を受けていること、施設と同じ所在地に住民票があること、などが制度上規定されています。

また、「共同生活を送る」という施設の性質上、他の入居者に過度な迷惑をかけるような重度の認知症の方、家事などに取り組むことが難しいほど重篤な状態な方は、基本的に入居者としては想定されていません。軽度~中度の認知症の方が家事作業やレクリエーション、機能訓練などに取り組みながら認知機能のトレーニングを行い、認知症の進行をやわらげ、状態の改善を図るというのが施設の目的です。

入居後は最大9名ほどで構成される「ユニット」単位での生活・ケアとなります。少人数体制での暮らしとなるので、入居者同士、入居者とスタッフの距離感が近く、ユニットごとに家族のような関係性が構築されます。

グループホームは、他の入居者と共同生活を送れるある程度お元気な人を入居対象としていることもあり、制度上、看護師の配置義務はありません。

しかし実際には、認知症に加えて持病など医療ニーズのある入居者も少なくないため、現場では看護ケアも必要となってきます。そのため、看護師を配置しているグループホームを評価する加算として、「医療連携体制加算」が設けられています。看護体制の整備は義務ではないものの、整備しているグループホームは評価し、報酬アップを図れるようにしているわけです。

グループホームの医療連携体制加算と現場の実情

現行制度における医療連携体制加算を得るための具体的な要件とは

現行制度におけるグループホームの「医療連携体制加算」は、Ⅰ~Ⅲの三つに分けられていて、算定要件は以下の通りです。

  • 医療連携体制加算Ⅰ・・・事業所の職員、もしくは病院や訪問看護事業所との連携によって、「看護師」を1名以上確保している場合に取得可能。
  • 医療連携体制加算Ⅱ・・・事業所の職員として、看護職員を常勤換算で1名以上配置していることが要件。ただし、配置されている看護職員が「准看護師」のみであるときは「Ⅱ」となり、別途病院や訪問看護事業所との連携により、「看護師」との連携体制を確保することが必要。
  • 医療連携体制加算Ⅲ・・・事業所の職員として、「看護師」を常勤換算で1名以上配置していることが要件。

また上記の加算には、共通の要件として以下の点も規定されています。

  • Ⅰ~Ⅲのいずれにおいても、入居後に容態が重度化した場合の指針を定めて、その指針について入居者またはその家族から同意を得ていることが必要。
  • Ⅱ~Ⅲについては、算定日を含めた過去1年間において、「喀痰(かくたん)吸引を必要とする入居者」もしくは「経鼻胃管・胃ろうなどの経腸栄養を必要とする入居者」が1人以上いることが必要。

冒頭でご紹介した通り2022年4月時点において、算定率は加算Ⅰが82.3%、加算Ⅱが1.3%、加算Ⅲが2.4%です。約98%のグループホームが、ⅡとⅢは取得していないという状況が生じています。

医療連携体制加算の算定するための看護職員を確保できない

グループホームにおける医療連携体制加算を簡単に言うと、「看護職員は勤務していないけど、医療機関や訪問看護と連携して看護師の用意はできる」という場合は「Ⅰ」のみ、「看護職員は勤務しているけど、准看護師だけ」という場合は「Ⅱ」まで、「正看護師の看護職員が勤務している」という場合は「Ⅲ」までを取得できるという内容です。Ⅱについては、別途外部機関との連携により正看護師との連携を確保する必要はあります。

では、なぜ加算Ⅱ、Ⅲの取得率が1~2%台なのでしょうか。

実は加算Ⅱ、Ⅲが創設されたのは2018年度(平成30年度)の介護報酬改定時であり、比較的新しい加算です(加算Ⅰは2006年度に創設されています)。

加算Ⅱ、Ⅲを創設後の2020年に、2018年時に行われた介護報酬改定の影響に関する調査結果が発表されましたが、その際、グループホームに対して「医療連携体制加算Ⅱ、Ⅲを取得しない理由」を尋ねるアンケートの結果(n=2,844)が公表されています。

それによると、「看護師・准看護師を常勤換算で1名以上確保できない」が最多回答で72.8%を占めていました。先述の通り、加算Ⅰは医療機関や訪問看護との連携を通して看護師を用意できればよいのですが、加算Ⅱでは准看護師、加算Ⅲでは正看護師を常勤換算できるほどに雇用することが求められます。

この雇用ができないわけです。

看護職員を配置するには、当然ながら人件費が必要です。また、グループホームなので認知症ケアに対応できることも看護職員には求められ、その点も含めて人材確保がしづらい面があるのは間違いないでしょう。

グループホームの現場と制度設計のズレもある!?

喀痰吸引・経鼻移管・胃ろうを実施する入居者がいない

さらにアンケート調査結果では、医療連携体制加算Ⅱ、Ⅲを取得しない理由の回答として「算定月前の12カ月に、喀痰吸引もしくは経鼻胃管・胃ろうなどの経腸栄養を必要とする入居者がいない」を挙げているグループホームも51.8%と過半数に達していました。

前述の通り、医療連携体制加算Ⅱ、Ⅲの算定要件には、「過去1年間の間に喀痰吸引もしくは経腸栄養を必要とする入居者が1名以上いること」も規定されているが、このような入居者がそもそもいない場合も多いのです。

また、「事業所で対応できない医療ニーズが生じた場合、入院もしくは退去・転居となる」との回答も45.7%と半数近くに上っていました。看護職員による医療ケアを常時必要とするほどの医療ニーズのある人は、入院や設備の整った他施設への転居、となることが多いわけです。

喀痰吸引や経腸栄養など看護師の医行為を必要とする人がおらず、さらに医療ニーズが生じたときは転居、退去を進めるという状況であることを踏まえると、無理をして看護職員を配置する必要のないグループホームが多い、とも現状では考えられます。

看護職員を雇用していなくても、連携内容により高評価される仕組みが必要か

医療連携体制加算Ⅱ・Ⅲの取得率が1~2%台ということは、看護職員(看護師または准看護師)を職員として配置しているグループホームが、現状それだけしかないということを意味します。

しかしこの点は、「グループホーム」という施設の性格を踏まえると、当然のことでもあります。グループホームは軽度~中度の認知症の方で、自分の身の回りのことはある程度できる人、共同生活を送れる状態の人を入居対象とする施設です。

つまり現行の医療連携体制加算は、「ある程度お元気な高齢者を入居対象とするグループホーム」において、「看護職員の配置を必要とするほど、医療依存度が高い重度者への対応力を上げるための加算」を設定したものであるわけです。一種の矛盾があり、加算Ⅱ、Ⅲの算定率が上がらないのも仕方がないとも言えます。

この点を踏まえると、制度改定はやはり必要でしょう。1つの方法として「看護職員を常勤換算で1名以上配置していること」を評価するのではなく、医療機関・訪問看護との連携状況を細かくわけて、連携体制のあり方により評価を分けることなどが考えられるでしょう。あるいはグループホームのあり方そのものを、ユニット型特養のような介護施設寄りの位置づけにシフトする、ということも方針としてあり得るのかもしれません。

今回はグループホームの医療連携体制加算について考えてきました。適切な形へと医療連携体制加算を改定すれば加算の取得率が上昇し、グループホームにとっては介護報酬アップにもつながります。今後どのような動きを見せるのか、引き続き注目していきたいです。