訪問診療・往診の適正化が議論される
訪問診療と往診の仕組み
2024年度診療報酬改定に向けて、在宅医療のあり方について議論が行われています。
政府はこれまで在宅医療の推進に力を入れてきました。厚労省の推計によると、2040年の訪問診療の患者数は、2020年と比較し1.5倍になるとされています。
在宅医療は医療保険制度によって報酬が定められています。訪問診療と往診は、いずれも高齢者が居住している自宅や介護事業所などに医師が訪問することを指していますが、厳密にいえば意味が異なります。
訪問診療 在宅療養計画を定めて、計画的に医師が訪問すること。在宅時医学総合管理料(在総管)と施設入居時等医学総合管理料(施設総管)が算定される 往診 通院できない患者の要請を受けて、医師がその都度、診療を行うこと。往診料として算定されるこのように、それぞれ意味や報酬体系が異なり、いずれも問題点があると指摘されています。
訪問診療・往診それぞれの問題点とは
では、訪問診療と往診にはどのような問題点があるのでしょうか。
まず訪問診療においては、要介護度の高い患者などの診療時間が長くなる傾向があることがわかっています。このように丁寧な診療を行っているにもかかわらず、現状の報酬体系では適切に評価されていないとされ、2024年の改訂を求める声が上がっています。
その一方で、訪問回数が格段に多い医療機関があり、問題視されています。医師1人当たりの在宅患者訪問診療料の算定回数は、平均で月46.8回ですが、一部には月300回を超える医療機関もあります。さらに、算定する訪問回数が多い医療機関は、それ以外と比較して難病患者割合が低いという結果が報告されています。
つまり、意図的に訪問回数を増やし、算定される報酬を増やしている可能性があるとも考えられるのです。
また、往診については、普段は訪問診療をほとんど行っていないのに、往診料を多く算定している医療機関があることが問題視されています。
なぜ適正化が必要か?
コロナ禍で往診のインセンティブが強化されていた
往診回数が増加した背景には、コロナ禍の影響も指摘されています。
厚労省のデータによれば、訪問診療をほとんど行っていない医療機関では、「夜間・深夜・休日往診加算の算定が多い」「小児の往診件数が顕著に増えており、ほとんどが訪問診療を行っていない患者」が算定される傾向がありました。
本来、こうした往診は訪問診療を行っているかかりつけ医が行うことが望ましいとされ、原則では通院が困難な患者のために実施すべきと指摘されています。
一方で、往診回数はコロナ禍の2021年に前年比で2.6倍と大きく上昇し、2022年にはさらに前年比1.9倍上昇しています。当時、新型コロナ患者の緊急往診は高く評価され、医療機関にとってはインセンティブになった背景があります。
ただ、2023年5月以降は、特例を段階的に解消する方針となっているため、今後は減少するかもしれません。
24時間の在宅医療体制を構築
地域の在宅医療を行う医療機関には、在宅療養支援診療所(在支診)と在宅療養支援病院(在支病)があります。
在宅療養支援診療所 在宅療養をされる方のために、その地域で主たる責任をもって診療にあたる診療所のこと 在宅療養支援病院 患者が住み慣れた地域で安心して療養生活を送れるように、24時間体制を確保して医療・看護を提供できる病院のこと厚労省は、在宅医療を推進するためには在宅医療を直接担わない医療機関も、在支診・在支病と連携し、地域の在宅医療提供体制の確保に参加してもらう評価のあり方の検討すべきと主張しています。
両者の連携を評価する算定項目に在宅療養移行加算がありますが、算定回数は低調で普及していません。24時間対応を個別の医療機関だけではなく、他の医療機関などと連携した際の診療報酬についても検討し、より連携を評価する制度が必要です。
適正化による影響
地域のかかりつけ医が往診をやめるリスクも
専門家からは、訪問診療や往診の適正化によるデメリットも指摘されています。
たとえば、往診は実際の現場では患者の医療費を安くするために利用しているケースも多くあるといいます。
現場の看護師の意見によると、「月2回の在医総管か施設総管と2回の訪問診療」を算定するよりも、「月1回の在医総管か施設総管と1回の訪問診療料及び1回の往診」で算定したほうが、患者の利用料負担が安くなることがあるからです。
つまり医療機関が患者の経済状況を踏まえ、あえて安い診療報酬を選んでいると考えられます。
また、内科の主治医から他の診療科などへ往診の依頼が来たとき、在医総管・施設総管が算定されるのは主治医だけ。依頼された診療科の医師には報酬が入りません。ほかの診療科の医師にとってはコストに見合わない状況です。
近年は地域のかかりつけ医による往診が増加傾向にありましたが、往診料の適正化によって報酬が見直されると、往診を辞めてしまう医師が増えるリスクがあります。
地域包括ケアシステムにおけるかかりつけ医制度を推進するためにも訪問診療や往診料の見直しには慎重にならざるを得ないでしょう。
高齢者施設への訪問診療が減る可能性も
今回の議論では、高齢者施設への訪問診療の実態もデータが示されています。
それによると、高齢者施設への訪問診療はメインが認知症であり、本来の目的である難病患者や終末期患者ではないことも指摘されています。
たとえば、在宅患者の場合は循環器疾患が62.7%で最多でしたが、高齢者施設では同疾患は44.1%。一方、認知症については、在宅患者で21.7%なのに対し、高齢者施設は52.9%に上ります。
そもそも高齢者施設には認知症の方が多いというのも理由ですが、認知症の方に対する訪問診療がどこまで必要かという点も議論の対象になる可能性があります。
そうなれば、今後は高齢者施設への訪問診療について厳格なルールが定められることも考えられます。
訪問診療や往診がどこまで必要なのか、介護事業者も真剣に考える時が来ているのかもしれません。