最低でも4%・・・かつてない大幅なプラス改定が必要との提案が出される

介護人材政策研究会が分析結果をもとに公表

11月、介護・福祉人材の確保・育成に関する研究を行っている一般社団法人介護人材政策研究会(以下、介人研)が、2024年度介護報酬改定に向けた見解を公表し、注目を集めました。

介人研はレポートの中で、物価高騰による経営圧迫、人材確保の難しさなどを分析した結果、介護報酬改定においては大幅なプラス改定が必要と指摘。特別養護老人ホームの場合、少なくとも約4%のプラス改定が必要であるとしました。

さらに、赤字割合が拡大している介護施設・事業所の現状を考えると、安定的な運営を行うには5%のプラス改定が求められるとしています。

介人研はこれら分析結果を、11月1日に開催された自民党の介護福祉議員連盟でも発表。議員からは、介護職の他職への人材流出が相次いでいることを踏まえ、大幅なプラス改定に賛同する声が上がったといいます。

新年度まで半年を切った現在、最終的にどのような形で介護報酬改定案がまとまるのか、介護業界の関係者の期待と不安が高まっています。そんな中での介人研の今回の報告は、大幅なプラス改定を後押しする材料になるとも言えそうです。

介護報酬の仕組みと改定の頻度

介護報酬とは、介護サービスを提供した際に、対価として介護施設・事業所に支払われる報酬のことです。現行制度では、報酬額の7~9割は介護保険の財源(介護保険料、公費で構成)、1~3割は利用者が所得に応じて自己負担する形となっています。

具体的な報酬額は介護サービスごとに厚生労働大臣が定める基準によって算定されます。医療報酬などと同じく「単位」にて計算され(地域によって違うものの、標準的なイメージとしては1単位=10円)、単位数が訪問介護やデイサービス、あるいは特養で提供されるサービス内容ごとに定められているわけです。

ただ介護報酬はずっと固定的なわけではなく、2000年の介護保険制度開始以降、3年ごとに見直し・改定が行われ、社会状況などを踏まえた上で各サービスの報酬額が増減されています。2021年に7回目の改定が行われ、そこから3年経過した2024年に8回目の改定が実施される予定です。

その改定の際に毎回注目されるのが、報酬改定において全体平均として介護報酬の増減がどうなるかという点です。これは略して「改定率」と呼ばれ、改定率がプラスとマイナスのどちらかになるかは改定時の最大の注目点となっています。

報酬額の改定は個々のサービスごとに行われますが、全体平均を見ることで、その改定年度の総体としての傾向を見て取ることができます。

介護報酬は国民負担(公費、介護保険料)からなる財源、および利用者の自己負担で賄われるので、必要以上に高くすることはできません。かといって、報酬額が低すぎると介護職への給与額や現場施設の設備面が不十分になってしまいます。このバランスを見ながら改定が行われるわけです。

かつてないほど大幅なプラス改定が必要な根拠

介護報酬改定の歴史上、これまでの最大のプラス改定率は3%

先述の通り、介人研は目安となる特養の改定率について、次期改定で最低4%、安定的な経営には5%のプラス改定が必要と指摘しました。もしこの通りあるいはこれに近い改定が実現されれば、全体平均としての改定率においても、かつてない大幅なプラスとなります。

2000年に介護保険制度がスタートして以来、介護報酬における改定率は以下の通りです。

  • 2000年度・・・介護保険制度スタート
  • 2003年度・・・改定率マイナス2.3%
  • 2006年度・・・改定率マイナス0.5%
  • 2009年度・・・改定率プラス3.0%
  • 2012年度・・・改定率プラス1.2%
  • 2015年度・・・改定率マイナス2.27%
  • 2018年度・・・改定率プラス0.54%
  • 2021年度・・・改定率プラス0.70%

マイナスとプラスが交互に生じていることが見て取れます。これまでの傾向としては、プラス改定が2度続くと次はマイナス改定になっていまが、この法則にしたがうと、2024年度はマイナス改定となります。

介人研の提案は、この「プラスが続いたからマイナス」というこれまでの流れを壊し、さらにはかつてないほどの大きなプラス改定にすべき、という内容です。

大幅プラス改定必要性の根拠となる物価上昇、施設の財務構造

介人研は大幅な介護報酬のプラス改定が必要な根拠として、「物価上昇」と「賃上げへの対応」を挙げています。

  • 物価上昇への対応・・・消費者物価指数は、物価状況が2020年を100とした場合、2022年2月では100.7、2023年9月では106.2。前回の介護報酬改定が2021年だったので、そのときから2023年までの間に、5%以上も上昇しています。介護報酬は公定価格であり、施設・事業者側で価格変更はできないので、介護報酬額においてこの上昇分を補填する必要があるというわけです。
  • 賃上げへの対応・・・全産業の賃金上昇率は、2020年から2023年までに7.6%も上昇していますが、介護業界はこれに遠く及びません。2023年のみデータでは、介護業界の賃上げ率は1.42%であるのに対し、全産業は3.58%。この差を縮めるには、介護報酬を上げる必要があると介人研は指摘しています。

「物価上昇」「賃上げ」は、業界・産業を問わず、日本社会全体で言われていることです。しかしその中でも、介護業界は特に対応がより必要な業界と言えます。前回の介護報酬改定は2021年ですが、円安などの影響で本格的な物価上昇がはじまったのはそれ以降のこと。

各介護施設・事業所は、物価が本格的に上昇する前の状態を基準として定められた介護報酬額で、物価上昇後の状況を乗り切る必要があったわけです。

特養の従来型で3.96%、ユニット型で3.83%のプラス改定が必要と結論

特養は人件費率が高く、介護報酬アップが賃上げに結びつきやすい

介護施設・事業所の介護報酬の上昇が介護職の待遇改善につながるという構図は、一般企業における売上増が給与アップにつながるという構図と同じです。しかしこのことは、介護施設・事業所の費用状況を踏まえると、介護職の方がより大きく当てはまると言えます。

売上に占める人件費の割合は「人件費率」と呼ばれ、介護施設・事業所の場合、介護報酬に占める人件費の割合が人件費率に該当します。

一般企業の場合、企業によって差異はあるものの、人件費率はおおむね数%~30%台。例えば建設業だと17~35%前後、サービス業だとやや高めになるものの、それでもおおむね50%前後です。

一方、代表的な介護施設である特養の人件費率は、介人研の資料によると従来型で65.9%、ユニット型で63.1%に上ります。

人件費率が一般企業よりもはるかに高いです。こうした傾向は、ほかの介護施設・事業所でも同様に見られます。

一般企業に比べて売上=介護報酬の多くが人件費にまわされることを考えると、介護報酬が増えること、すなわちプラス改定が行われることは、介護職の賃上げにより直結しやすいわけです。

賃金上昇率差異への対応、物価上昇への対応を合わせて約4%のプラス改定が必要と結論

介人研は物価上昇、全産業平均との賃金格差を踏まえて、その対応のために、特養の従来型、ユニット型それぞれにおいて以下のようなプラス改定が必要と結論付けています。

  • 世間と介護職の賃金上昇率差異への対応分・・・従来型2.17%、ユニット型2.08%のプラス改定が必要。
  • 物価上昇への対応分・・・従来型1.79%、ユニット型1.75%のプラス改定が必要。

この両者を合計して試算されたのが、従来型で3.96%、ユニット型で3.83%のプラス改定が必要という数値です。冒頭でご紹介した「最低でも4%」という介人研の主張は、この数値が基になっています。

しかし、これはあくまで介人研が主張する理想的な改定数値です。社会保障費抑制を重視する財務省などの意向もあるので、理想通りには進まないとは予想されます。最終的にどのような改定となるか、新年度に向けての大きな注目点です。

今回は一般社団法人介護人材政策研究会が公表した介護報酬改定に対する意見書について考えてきました。2025年問題を前に介護人材の確保が急務である現在、やはり待遇改善はそのための有効策となるのは間違いありません。必要であれば負担者である国民への説明もきちんと行った上で、大幅なプラス改定が望まれます。

※改定率は本記事執筆後の12月20日、プラス1.59%になりました