認知症ケア専門士とは?

認知症ケア専門士資格の概要

認知症ケア専門士とは、認知症に特化したケアを行う専門技術士を養成することを目的とした民間資格です。この資格は、一般社団法人日本認知症ケア学会によって管理されており、認知症ケアにおける優れた学識、高度な技能、及び倫理観を備えた専門家の育成を目指しています​​。

この資格は、専門職としての倫理観を深く理解し、認知症ケアの方法を自身の経験や科学的エビデンスに基づいて説明できる能力を有することが求められます。

さらに、適切なケアやケアマネジメントを新人のケアワーカーや他の専門士に指導し、臨床的支援を行うことも重要な役割とされています​​。

このように、認知症ケア専門士は認知症の人々に対する質の高いケアを提供し、介護業界全体のレベルアップに貢献する重要な資格と言えるでしょう。

認知症ケア専門士の需要と社会的背景

日本の社会では、高齢者人口の増加とともに認知症の人数も年々増加しています。この現象は、認知症ケアの専門家である認知症ケア専門士の需要も高まっていくことを示しています。認知症ケア専門士は、認知症の方々に対して高度な知識とスキルに基づいたサービスを提供し、日本の福祉向上に大きく貢献する役割が期待されているのです​​。

資格取得者は、介護保険施設、医療機関、居宅介護支援事業所などの介護や福祉の現場で活躍しており、2021年までの合格者数は約60,000人。医療従事者を含む多くの職種で認知症の方と接する機会が増えており、認知症ケアの質を高めたいという意識も高まっています。

認知症ケア専門士の資格取得は、専門知識の習得はもちろん、資格保有者のキャリアアップにも寄与します。資格取得を目指す過程で学んだ知識は、現場での的確な判断やケアの質の向上に直結し、介護職員としての専門性を高めることができるでしょう。

また、認知症ケア専門士が在籍する施設は、質の高いケアを提供することが期待できるため、その結果として施設の評判にも良い影響を与える可能性もあります。

資格の取得プロセス

試験は年に一度、1次試験(筆記試験)が7月頃(応募期間:3~4月頃)、2次試験(論述)は8~9月頃に実施されます。​1次試験の内容は「認知症ケアの基礎」「認知症ケアの実際Ⅰ 総論」「認知症ケアの実際Ⅱ 各論」「認知症ケアにおける社会資源」の4分野に分かれており、各分野で70%以上の正答が合格基準となっています​​。

試験準備においては、公式テキストの他に過去問題集やeラーニング講座を利用することが有効です。特に公式テキストは各分野ごとに詳細な情報が提供されており、試験内容を深く理解する上で重要な資料となります​​。

また、日本認知症ケア学会ではWeb上で有料の受験対策講座も開催しており、これを活用することも有効です​​。

入念な試験準備は単に合格のためだけでなく、認知症ケア専門士としての高度な知識とスキルを身につけることができ、認知症の人々への質の高いケア提供能力を証明することに繋がります。

認知症ケア専門士の合格率と保有資格者数の実態

合格率と難易度

2017~2021年における認知症ケア専門士の合格率をみると、50~60%を推移しています。

認知症ケア専門士の合格率は約5割 保有者の社会的需要とは?の画像はこちら >>

2021年に実施された第17回試験では、受験者数3,063人のうち、合格者数は1,645人で、合格率は53.7%でした。約半数の受験者は残念ながら不合格となってしまっていますが、適切な準備と勉強時間を確保できていれば、合格できる可能性は十分にあります​​。

4分野すべての合格をもって第1次試験合格となりますが、ある分野で不合格だった場合でも、5年以内であればその分野だけ再試験を受けることができます。

第2次試験は論述試験で、次の5つの要件を満たした場合に合格となります。

  • 適切なアセスメントの視点を有している者
  • 認知症を理解している者
  • 適切な介護計画を立てられる者
  • 制度および社会資源を理解している者
  • 認知症の人の倫理的課題を理解している者
  • 保有者数と社会的需要

    認知症ケア専門士の資格保有者数は都道府県別に見ると、大阪府東京都北海道神奈川県に多いです。ただ、特定のエリアだけでなく日本全国に資格保有者は分布しており、多岐にわたる職種の専門家が認知症ケアの質を高めるためにこの資格を取得していることを示しています​​。

    認知症ケア専門士の合格率は約5割 保有者の社会的需要とは?
    都道府県別資格保有者

    高齢者の総数に占める認知症発症率は年々上昇しており、2060年には約1,154万人まで増加する可能性があると厚生労働省の報告により示されています。このことから、認知症ケア専門士の需要は今後も益々高まることが予想されます。資格を持つ介護職員は質の高い認知症ケアが可能となるため、キャリアアップを目指す上で重要な役割も果たすのです。

    また、介護の現場で直接認知症の方々をサポートするだけでなく、専門知識を活用して地域や施設全体の認知症ケアの質の向上にも寄与します。特に、認知症ケア上級専門士のような上位資格を取得できれば、さらに高いレベルの専門性が求められ、認知症ケアの指導や管理、人材育成の役割を担うことも期待されるでしょう​。

    これらを踏まえると、認知症ケア専門士の社会的需要は高く、資格を有することは、待遇や給料の向上、キャリアアップの機会を広げるだけでなく、社会貢献の大きなチャンスでもあると言えます。

    資格保有者の内訳

    認知症ケア専門士を保有する人々の中で最も多いのが介護福祉士で、次に多いのが介護支援専門員(ケアマネジャー)、ヘルパー、そして看護師です。

    認知症ケア専門士の合格率は約5割 保有者の社会的需要とは?
    保有者の資格

    これらの職種は、介護や医療の現場で認知症の人と直接接する機会が多く、認知症ケアの専門知識を深めることが、より質の高いサービス提供に直結するため、認知症ケア専門士資格の取得に積極的です​​​​。

    さらに、最近では看護師だけでなく、理学療法士や作業療法士などの医療従事者も認知症の人と接する機会が増えているため、認知症ケア専門士の資格を取得する人が増えています。これは、入院患者への認知症予防という観点からも、資格を取得するメリットは大きいでしょう​​。

    資格の更新制度と継続的な学び

    更新制度の概要

    認知症ケア専門士は更新制の資格であり、取得後5年間で30単位を獲得することで更新が可能になります。単位は、講演会や学術集会への参加などを通じて得ることができます。更新制を設けている理由は、認知症ケアに関する最新の情報を常に学び続け、専門士同士の交流や他職種との連携を促進することにあります​​。

    認知症ケア専門士の資格は、介護や医療の現場で直面する認知症ケアの問題に対し、より深い知識と技術を持って対応できるようにすることを目的としています。更新制度を通じて、専門士は常に最新の情報に触れることができ、その知識を現場で活かすことが期待されています。

    更新プロセスと必要書類

    資格を保持している専門士は、更新期間が近づいたら、一般社団法人日本認知症ケア学会の公式サイトから更新書類一式をダウンロードし、獲得した継続教育単位の証明となる書類とともに学会に提出します。

    資格の更新は、認知症ケア専門士が常に最新の知識と情報を持ち続け、高い専門性を維持するために重要なプロセスです。また、更新プロセスを通じて、専門士は自己の専門性を再確認し、認知症ケアに対する継続的なコミットメントを示す機会となります。

    継続教育の意義と目的

    更新制度における継続教育の重要性は、認知症ケアの現場が日々変化し、新しい治療方法やケア技術が開発されている現状に対応するためでもあります。また、専門士間や他職種のプロフェッショナルとの交流を通じて、多様な視点からの知見を得ることができ、それが自身の専門性の向上に繋がります。

    単位を獲得するために参加が必要な講演会や学術集会、ワークショップなどは、自己のスキルアップだけでなく、認知症ケアの現場全体の質の向上に寄与することが期待されています。認知症ケア専門士にとって、この継続教育は専門性を高め、認知症の人々に対するより良い支援を実現するための基盤となるのです。