先日の【まとめ】ニュース:介護離職をすると収入が4割ダウン?再就職は難しく1年以上無職になるリスクも…でもお伝えしたように、高齢化が著しい現代の日本にとって、介護離職が大きな問題となっています。

介護離職とは、家族の介護のために、介護者が仕事を辞めてしまうこと。

特に顕著なのが40~50代の管理職にあるような人の介護離職で、毎年10万人前後の人が離職しているという実態が問題視されていると同時に、そうした人の再就職の難しさや、再就職後の給料ダウンなど、様々な問題が顕在化しています。

「隠れ介護」に悩む1300万人超にふりかかる深刻な問題を検証...の画像はこちら >>

では、問題は介護離職する人だけかというと、決してそんなことはないようです。

というのも、「介護離職」という手段を行使した人は、つまり「介護が必要である」とカミングアウトできた人であり、その一方では同じようなカミングアウトができず、ひっそりと、介護と仕事との両立に悩んでいる人がいるのです。

そうした人を指した「隠れ介護」という言葉を聞いたり、読んだりしたことがある方も多いのではないでしょうか。今回はこの「隠れ介護」にフィーチャーし、彼・彼女らにふりかかる可能性のある問題について考えていきたいと思います。

「隠れ介護」状態にある人は1300万人超!労働力人口の5人に1人という驚くべき数字

役員や管理職の約6割が隠れ介護状態という統計も!?

「隠れ介護」という言葉の定義は、「親や配偶者など家族に要介護者がいるものの、その事実を会社に伝えていないという状態」のこと。

(株)東レ経営研究所のダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長・渥美由喜氏によると、現在、隠れ介護状態にある人は全国に1300万人を超えるとのことです。

1300万人…と言われてもピンと来ない人が多いと思いますが、これは、人口のうち約6600万人を占める労働力人口の5分の1。単純計算ではありますが、5人に1人が家族の介護を会社に打ち明けられていないという計算になります。

「隠れ介護」に悩む1300万人超にふりかかる深刻な問題を検証。今こそ、介護休業制度についての意識改革が必要な時では?

「残業など勤務に融通が効かなくなる」「昇進や昇給に影響があるかもしれない」などと考えると、家族に介護が必要という事実を会社に打ち明けづらい気持ちもわからなくはありません。

今後も高齢化が進むことを考えると、社会の(または企業の)体制が現状のままであれば、隠れ介護に悩む人は増え続けることは間違いないでしょう。

とある調査によれば、企業の中で役員や管理職として働く人のうち約6割もの人が、家族の介護問題に頭を悩ませているとも言われています。

【まとめ】ニュース:介護離職をすると収入が4割ダウン?再就職は難しく1年以上無職になるリスクも…でもご紹介したように、介護離職をすることのリスクを考えると、我慢してでも介護と仕事とを両立させようと頑張る人が多いのも致し方のないことかもしれません。

では、そうして我慢して介護を続ける結果、どのような問題が出てくるでしょうか?問題の根源はストレス、そしてそこから派生する懸念点にはどのようなものがあるか検証してみます。

「隠れ介護」を続けることのリスクは大きく2つ

悩みを打ち明けられないことがストレスになり、やがて介護うつに…

“うつ”は日本人の10人に1人が発症するともいわれているとてもポピュラーな病気でありながら、きちんとケアをしないと自ら命を絶つこともある怖い病気です。

家族の介護を自宅で行うことは、常に介護を必要とする家族を優先し、自分自身を犠牲にした暮らしとなることが多いもの。2005年に厚生労働省が行った調査では、実に介護者の4人に1人が介護うつ状態にあるという驚くべき実態も報告されています。

現に、同居する家族を介護する介護者に日常生活におけるストレスの有無を設問に対し、ストレスが「ある」と回答した人は全体の約7割となっています。

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厚生労働省が発表している「性別にみた同居の主な介護者の悩みやストレスの有無の構成割合についての調査結果、あると回答したのは総数で69.4%・ないと答えたのは27.7%・不詳が2.9%、あると答えた女性は72.4%・男性は62.7%で女性の方が介護で悩みやストレスを抱えやすいということがわかる

そうしてストレスが重なるとどのような問題が起こるのか?代表的なものが「介護うつ」、そして「高齢者虐待」です。それではまず、介護うつについて見ていきましょう。

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自分のことを「ストレスには強いほうだ」と思っていても、精神的なストレスを全く受けないということはあり得ません。むしろ誰かに頼ることが苦手な場合も多く、そうした場合は突然、介護うつ状態になってしまうことも珍しくないのです。

これが、介護だけではなく仕事によるストレスも…と考えると、二重のストレスにさらされている状態でもあり、その苦境は想像に難くありません。

近年では「認知症カフェ」や「介護者の集い」などを自治体や地域のボランティア団体などが主催しているケースも増えつつあります。

こうした活動に勇気を出して参加してみるのも、介護うつを予防するためのひとつの対策と言えますが、心理的な負担を減らす一番の方法は、隠れ介護から脱して会社にきちんと報告して、職場の理解を得ることではないでしょうか。

「隠れ介護」が続くと高齢者虐待につながる恐れも

介護うつによってイライラが募ってくると、昨今、大きく問題視されている「高齢者の虐待」につながることも。ここ数年は下り坂ではありますが、それでも年間で1万5000件超が介護者による虐待と判断されている現状は、決して看過できるものではありません。

ここで注意して見ておきたいのが、虐待をしている介護者のうち約4割が息子、約2割が夫…と、男性が約6割を占めているという点です。

被虐待高齢者から見た虐待者の続柄 息子(41.6%)夫(18.3%)娘(16.1%)息子の配偶者(嫁)(5.9%)妻(5.0%)孫(4.8%)兄弟姉妹(2.1%)娘の配偶者(1.9%)その他(4.1%) 41.7%5%5.9%16.1%18.3%4.1%

介護とは、一昔前であれば配偶者の仕事という認識がありました。しかし現代では、共働き世帯が増加していることや晩婚化といった社会的な流れもあり、このデータからは子世代が主に介護に関わっているという事例の多さが垣間見えます。

職場にて、自宅の介護を告白できないことのストレスとの関連性は、証明できるものではないかもしれませんが、こうした虐待問題もまた、介護者のストレスが原因であるとの見方が強いようです。

つまるところ、隠れ介護状態から脱することでストレスを軽減し、それによって介護における様々な問題・トラブルを回避できるのであればやはり、隠れ介護が好ましからざる状態であることは否めませんね。

さてここで、今の日本には、介護を理由とした休暇や休業についてれっきとした法律が定められていることをご存知ですか?

介護が必要な状態を隠さず、介護休業制度を上手く活用できないのか?

介護を理由とした休業・休暇について定めた法律が「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(1991年法律第76号)」。

一般的に、「育児・介護休業法」と呼ばれるこの法律では、現在の職場での仕事を続けながら介護をできるよう、様々な休業制度が定められているのです。

介護休業 要介護状態の家族1人につき通算して93日の休業を申請可能 介護のための短時間勤務制度 希望する労働者に対して以下のいずれかの処置を講じる義務がある  ①短時間勤務制度
 ②フレックスタイム制度
 ③始業・就業時間の繰り上げ・繰り下げ 介護休暇 要介護状態の家族1人につき年間5日まで1日単位で休暇を取得 法定時間外労働の制限 1ケ月24時間、1年で150日以上の時間外労働の禁止 深夜業の制限 深夜労働の禁止 転勤に対する配慮 就業場所の変更によって介護が困難になる従業員への配慮 不利益取扱いの禁止 介護休業などの制度申し出や取得を理由とした解雇などの禁止

介護休業法では、約3ヵ月の休暇を申請できる「介護休業」と勤務時間の短縮などの処置を申請することができる「勤務時間短縮等の処置」があり、2009年の法改正により新たに年間家族1人につき5日まで短期休暇を申請できる「介護休暇」が創設されました。

「介護休業」とは通算で93日間、要介護状態にある対象家族を介護するために、休業できる制度です。

対象になる要介護家族1人に対し、1回の介護休業を申請する事が可能で、正社員に限らずパートやアルバイトなどの勇気契約社員でも一定要件を満たせば利用することができます。

介護休業制度を活用している時に賃金は支払われませんが、その代わりに、休業を開始したときの賃金日額の40パーセントの給付を受けることが可能。ある程度の収入を確保しながら介護に専念できるようになっているのです。

<介護給付金の概要>

介護休業開始時 申請方法 事業所を管轄するハローワークに申請 提出書類 休業開始時賃金月額証明書 期間雇用者の休業にかかる報告(期間雇用者のみ) 提出期限 介護休業開始時の翌日から10日以内 支給申請時 申請書類 介護休業給付金支給申請書 提出期限 介護休業終了日の翌日から起算して2ケ月を経過する月の末日まで 介護給付金の算定方法 賃金がない場合 介護休業開始前6ケ月の賃金÷180日×30日×0.4 賃金が40%以下 賃金が40%超 80%以下 介護休業開始前6ケ月の賃金÷180日×30日×0.4-賃金額 賃金が80%超 支給なし

会社で介護休業に関する規定を作っていないとしても、法律で定められている制度ですから、会社は拒否をすることができないようになっています。

3ヵ月間もの休暇が取れるとすれば、まずは介護に専念しつつ、その間にケアプランについて考えたり、また介護施設探しをしたりすることもできるので、上手に使ってみたい制度…ではあるのですが、現実問題として介護休業制度を活用している人が少ないというデータがあるのも事実です。

「隠れ介護」が様々な問題に発展する前に、社会の体制づくり・企業の意識改革が必要に

総務省が5年に1度発表している「就業構造基本調査」では、介護をしている労働者のうち、介護休業や介護休暇などの制度を利用していたり、利用したことがある人の割合は、全体のたった15.7パーセントの約37万8000人。

その一方で、過去5年の間に家族の介護や看護を理由に離職した人は48万7000人と報告されていますので、介護休業制度などを利用せずに介護離職に踏み切るか、または隠れ介護に悩んでいる人が多いことが伺えます。

介護休業制度の活用の有無 なし(84.3%)あり(15.7%) 15.7%84.3%15.7%

ちなみに、介護を理由とした離職者のうち、約8割は女性というデータもあります。そこから考えられることは、夫婦のどちらかが離職するのであれば、収入が比較的少ない傾向にある女性が離職をするという傾向があるのかもしれません。

また、男性は特に50代になり、会社でも重要なポストを任せられたときに、いざ介護と仕事の両立を…と思っても、会社の上司や同僚、部下の目などが気になり介護休業を申請できず、隠れ介護状態になっているケースが多々。

かつて、女性の育児休暇取得が認められ社会に浸透するまでに時間がかかった時代もありました。それと同様に、介護休業制度の利用にも社会的な理解や企業側の制度づくりを変えることが求められていて、それがまさに今、ということになるのでしょう。