過剰なまでに謙虚な蛭子さん

くらたま

昨年秋に出版された『死にたくない 一億総終活時代の人生観』(角川新書)は内容もさることながら、タイトルがすごいですよね。こんなストレートで、キャッチーな言葉が残っていたかと驚きました。

蛭子

「死にたくない」って、普段から言っていることで、「いつか重要な時に使おう」と思ってたんです。

でも最終的には編集者が決めたんですけどね。

くらたま

この本も売れてますよね?

蛭子能収「俺、死なないかも」の画像はこちら >>

蛭子

まあまあですかね。『ひとりぼっちを笑うな』(2014年)のほうが売れたから…。

くらたま

漫画家の蛭子さんですが、漫画よりも活字の本のほうが売れていますよね。もっと言えば、『太川蛭子の旅バラ』(テレビ東京)とかタレントとしての人気のほうが高い。

蛭子

うーん…。でもね、タレントとしてはもう飽きられたかなーとも思ってる。

くらたま

そんなことないですよ!蛭子さんて、昔からずっとネガティブですよね?

蛭子

まあね…。でも、実際は「ダメ」とか言っておいて、言っていることの中身はポジティブにしようとは思っているんですけど。俺みたいなのが人が喜ぶような前向きなことばかり言うと憎まれちゃうかな…とも思うんですよ。

くらたま

そこですか(笑)。それも昔から言ってますよね。

過剰なまでに謙虚というか、「卑下」に近い感じですね。

蛭子

周囲の人のことを「あんたが大将」と「一番」に持ち上げて接しています。でも、内心では全然そう思ってないんですけどね…。

くらたま

そのおかげで敵もつくらずここまで来れたわけですね(笑)。

蛭子

いや、どうだか。俺のことを嫌いな人は多いと思いますよ。

くらたま

好みの問題としての「嫌いなタレントさん」ではなくて、発言がネットで炎上したりして「あいつ許せん!」みたいになったことはないでしょう? 

蛭子

うん。今のところ炎上の経験はないですね。

くらたま

ほらね。蛭子さんは30年以上も漫画やテレビで活躍されてるのに、炎上経験がないのはめずらしいですよ。長くやってる方は、たいてい何かでバッシングされたりしますよ。

蛭子

そうかなあ?

お金がないからギャンブルをやめた?

くらたま

ところで蛭子さんといえば、麻雀と競艇といったギャンブル好きで有名でしたけど、もうおやめになったってお聞きして、とても驚いています。

少し前にお会いした時はまだなさってたと思うんですけど、この何年かでおやめになったんですよね?

蛭子能収「俺、死なないかも」

蛭子

自分も一生やると思ってたんですけど、だんだん勝てなくなってきてしまったんです…。

それに、競艇は一生で1億円以上は負けていると思うんですけど、女房からも「老後のことを考えてもうダメだから」って言われてしまったんですね。

今は「こづかい制」だから、負けちゃうと資金も残らないし…。

くらたま

ご著書にもありましたけど、奥様からおこづかいをもらっているんですよね。

蛭子

そう。何度かお金を落としたりもしてるんでね。俺は何よりも競艇が大好きだったんですけどね…。

くらたま

人間て変わるんですね!

蛭子

やっぱりお金がなくなると、仕方ないよね。

くらたま

ないわけじゃなくて、「おこづかい制」になっただけでしょ(笑)。でも、競艇場でいろんな選手を見るのは楽しいですよね。最近は若い女性の選手も増えて、人気があります。

蛭子

俺はずっと男性選手を中心に応援してきたので、女性はわからないです。でも、若い女性の選手がスピードを落とさずにターンするのを見ると、「かっこいい」とは思いますね。

くらたま

ギャンブルも新型コロナウイルスの影響がありますよね。今は競艇も無観客で、券はネットで買いますし、雀荘も「密」ですもんね。

現地に行けなくて、スマホやパソコンで券を買えないご年配の方などは、やめてしまわれる方が多いでしょうね。

蛭子

うん。俺はパソコン使えないし、券も買えない。…ところで、新型コロナウイルスってよく聞くけど、かかったら死んだりするの?

蛭子能収「俺、死なないかも」

くらたま

死ぬ人もいますね。新型コロナウイルスは「正体」がよくわからないから、怖いんです。

蛭子

そうか…。俺、よくわからないんだよな。

くらたま

新型コロナウイルスはひとまず置いておいて、ギャンブルをやめてよかったと思いますか?

蛭子

本当は続けたかったんだけど、今となったらもうできなくなっちゃったからね。麻雀はほとんどやってないのでルールも覚えてるかどうか…。

くらたま

やってないと忘れますよね。

私もあまりにも勝てなかった時があって、スッパリやめました。

蛭子

やっぱり勝てないと嫌だよね…。

ギャンブルの代わりは「公園で遊ぶ子どもを見る」こと

くらたま

ギャンブルをやめられて、いまは何が趣味なんですか?

蛭子

家の近くに公園があるんですけど、近所の友だちと15分くらいかけて歩いて行って、毎日そこのスタバでコーヒーを飲んでます。公園に遊びに来てる子どもたちを見ながらコーヒーを飲むんです。地味ですけどそれが趣味ですね。

それで、自分でも怖いんですけど、「子どものうちの誰か、迷子にならんかな」と思って期待しながら見ているんです。

くらたま

それはなんでですか!?(笑)

蛭子

そうしたら俺が助けに行けるじゃない!

蛭子能収「俺、死なないかも」

くらたま

え?そうですかね…(笑)。なんだか蛭子さんて、前に「お孫さんの名前が覚えられない」って話題になってましたし、奥様以外のご家族には興味ないのかと思っていたんですが、公園の子どもたちはかわいいと思うんですね(笑)。

蛭子

うん、そうですね。あっち行ったりこっち行ったりして、子どもはかわいいですよ。それで親御さんとはぐれて泣いてたら、「こっちだよ」って教えてあげたいの。いつかはやりたいな。

くらたま

泣いてる子どもを親御さんのところに連れていくことがしたいんですね(笑)。

お散歩のとき、お昼ごはんはどうしてるんですか?

蛭子

昼飯は、そのまま友だちと外で食べます。洋食の「つばめグリル」に行って、よくハンバーグとか食べますね。

くらたま

つばめグリル!いいですね(笑)。私も大好き。ご飯を食べたあとは?

蛭子

午後はウチに帰って…仕事です。イラストの仕事は月に5本あるんです。あとはテレビの収録ですね。医者から「お昼を食べてから夕方の5時くらいまでが一番頭が冴えている時間なので、その時間帯に仕事を入れてください」と言われているんですよ。

テレビ番組で「認知症」と診断

くらたま

とても健康的な毎日ですけど、蛭子さんは認知症であることを公表されていますよね?最初はなんでわかったんですか?

蛭子

テレビの番組ですね。一番最初は5年くらい前に、医者に「軽度の認知症」って言われたんだけど、特に自覚症状もなくて…。普通に仕事もできてましたしね。

くらたま

もともと蛭子さんて、お酒もたばこもやらないんですよね?

蛭子

そう。めまいがひどくてちょっと入院したことがあるくらいで、病気をしたことはないです。

くらたま

すごいなあ。

蛭子

5年前の時は放っておいたんだけど、それから2020年7月にまた『主治医が見つかる診療所』(テレビ東京系)で、アルツハイマー(アルツハイマー型認知症)とレビー(レビー小体型認知症)と診断されたんです。

くらたま

よく公表されましたよね。

蛭子

だって、仕事で迷惑かけることもあるかもしれないしね。

くらたま

でも、今のところはお仕事に支障はないですよね?

蛭子

今のところはね…。レビーは幻覚が見えるらしいんだけど、一回、⼀瞬だけだったんだけど洗濯物が女房に見えたことがあったんです。そのことを取材でちょっと話したら、ものすごく大きくネットニュースに出ちゃったということがあった…。

くらたま

なるほど…。でも、生活で困ってることはないんですね?

蛭子

そんなにないです。といっても家に帰ると、少しぼんやりしちゃうことはあるかな。

くらたま

でも、お仕事の時は大丈夫なんですね。人間て、不思議ですね。認知症のお薬は?

蛭子

飲んでます。朝と昼…あれ、朝と夜か。

漫画家だけど絵を描くのはめんどくさい

くらたま

一般的に漫画家さんや絵描きさんて、自分の絵にすごくこだわりがある人が多いけど、蛭子さんはそういうこだわりがないですよね。

蛭子

ないですね。下書きをしてペン入れするのって、めんどくさいし。

くらたま

蛭子さんなら大丈夫でしょ。

蛭子

でもね、最近朝起きたら頭がぼやっとするんです。こういう人は近々死ぬって本で読んだことがあって心配…。まあ、先のことを考えるとよくわかんなくなることがあるけど、「俺、もしかして死なないかも?」と思って生きてます。

くらたま

蛭子さんはほんとに死なない気がしますよ。

蛭子能収「俺、死なないかも」

蛭子

そう?

くらたま

まだまだ死なない!

蛭子

そうかなあ(笑)。

  • 撮影:荻山 拓也
蛭子能収「俺、死なないかも」

蛭子能収

1947年、長崎県生まれ。漫画家、タレント、エッセイスト。長崎商業高校を卒業後、看板店、ちりがみ交換、ダスキン配達などの職業を経て、33歳で漫画家に。俳優、タレントとしても活躍中。著書として『ひとりぼっちを笑うな』『蛭子の論語』(ともに角川新書)、『芸能界 蛭子目線』(竹書房)、『笑われる勇気』『蛭子能収のゆるゆる人生相談』(ともに光文社)、『ヘタウマな愛』(新潮文庫)など多数。

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