「家族が介護をするのが美徳」。そんな常識はもう古い?
編集部まずはこの企画のオファーを受けてくださった時のお話をお聞きかせください。
昔から、対談のお仕事に興味があったんです。ですから、声を掛けていただいたときは、一も二もなく受けたんです。普段出会えないような方とお会いすることで、思いもつかない気づきもあるだろうなって。
編集部開始当初、介護に携わるような機会はあったんですか?
くらたま実は、介護をしたことも、介護をする様子を近くで見たこともありませんでした。ほとんどまっさらな状態からのスタート。
でもいつかは、両親の介護をしたり、自分が介護される側になったりする可能性もあるんだろうなっていう漠然とした思いがありました。対談を通じて、勉強させていただいています。
編集部介護に携わるお仕事をされていない方にとっては、ご家族の介護を機に考えるケースが多いのではないでしょうか。家族の介護とはどのように向き合ったらいいとお考えでしょうか?
くらたま介護に携わる方々が共通して仰ることが二つありました。一つは、他人の手を借りるべきだということ。もうひとつは家族だけで悩みを抱えなくてもいいということ。これは勇気づけられるお言葉ですよね。
日本では、自宅で家族を介護することが美徳として語られてきた歴史があります。「お嫁さんが介護していて偉いわね」なんてよく言われていたものです。
上の世代の人は、その“常識”をなかなか覆せない。でも、実際はそれによって多くの方が苦しんでいるんです。介護離職を余儀なくされたり、やりたいことをあきらめたりしている。
編集部介護で悩んでいることすら、口に出しづらい空気があります。第17回でご出演いただいた奥野修司さんも、がんのお話を例に出しながら、認知症のご兄弟の悩みを話しづらかった状況を語っておられました。
くらたま1990年代後半くらいまでは、がんを「恥ずかしい病気」だと考える方もいて、隠す人が多かったと奥野さんは言われてましたよね。今では「恥ずかしい」なんて考える方はほとんどいなくなったと思います。
編集部がんのように認知症や介護に対する世の中の見方も、変わっていく可能性がありますよね。
くらたま時代の変化に伴って変わっていくでしょうね。それから、悩みを話しづらい背景には「家族で介護するのが当たり前でしょう」という風潮があると思います。
その考え方があると、家族で解決できないことに罪悪感を持たざるを得なくなりますから。そしてギリギリまで我慢してしまうんですよね…。だから、家族以外の「手」が入る大切さを語る方がたくさん出てきたのは、とても心強いことです。
鈴木秀子さんに学ぶ「心のありかた」
編集部過去の対談で特に印象に残っている回を教えてください
くらたま皆さんから本当に多くのことを学ばせていただきましたが、まずは鈴木秀子さんにご出演いただいた第32回をあげたいですね。
普通に会話をしているだけなのに、鈴木さんの心のありようが空気のように伝わってきて、自然と涙が出てきました。どんな方でも、会ったり話したりすることは新しい体験ですが、鈴木さんのときのような経験は初めてでした。
人間の心のありようは、その人自身の雰囲気になって出てくると思うんですよね。しかもそれってちゃんと他人に伝播するんです。と言っても、スピリチュアル的なことはあまり信じないんですが…。
編集部現場で涙を流されていたのはそんな理由だったんですね。
くらたま長い間、鈴木さんは人のために祈り続けてきたんです。その歴史が彼女自身に刻まれていると感じたんです。そうしたら、自然と涙が…。
過去の積み重ねこそが、現在進行形でその人自身を形作っていることを改めて学ばせていただきました。邪なことばかり考えている人は、どうしてもそういうものが出てしまう。人間ってわりと敏感なんですよ。
『だめんず・うぉ~か~』を書いていたときには、ネガティブな経験で形作られた方々を多数見てきてたので、そういう意味でも私はすごく敏感なのかなって。
適度な距離があると相手にやさしくなれる。ハリー杉山さんの介護論
編集部対談を重ねてきましたが、家族の介護に関して、いま改めてどんなことが課題だと思いますか?
くらたま認知症の方への対応ではないでしょうか。
「これまでできたことが、何でできないの?」というイラつき。これは距離が近い家族だから持ってしまう傾向がありますよね。それに、介護者は小さなことでイライラする自分を責めてしまうこともある。でも、それって頬を叩かれて痛いと感じるのと同じで“反応”だと思うんです。
うちは父の認知症が進んできています。母は一番近くにいて真横で見ているから「何でできないのよ、この間できたでしょ」という怒りが湧く。
ハリー杉山さんにお話を伺った第45回でも、施設に預けたことで余裕を持った心でお父様と接することができるようになったというお話がありましたよね。

怒ってしまうことがつらい人は、距離をとることがひとつの解決策になるのかもしれません。
あまのさくやさんに聞いた「社会的処方」
編集部介護の悩みを話せない状況をどうやって改善していくのかということも課題のひとつです。
くらたまそうですね。そのためには、やっぱり気軽に悩みを相談できる環境が必要ですよね。「介護の相談はケアマネさんに」と言いますが、「気軽」に相談することに抵抗がある方も多いのではないでしょうか。
「悩んだときはあの人に相談したらいいよね」と心に浮かぶ人が近くにいたら良いですよね。それは、介護の悩みだけでなくてもいいと思うんです。
編集部第44回では、あまのさくやさんに「社会的処方」(地域とのつながりを処方することで、問題を解決すること)のお話を伺いました。銭湯の常連さんや看護師さんと“まち歩き”をするイベントなどをして交流を図っていましたよね。

あのお話は勉強になりましたよね。
最近、地方のテレビ番組で観たんですが、ある商店街に高齢者が集まるお茶会の場みたいなのがあるそうで。そこでは、高齢者がだんごを焼いたりお茶を出したりしていて、それも100円とかの安い金額で提供していたんです。それをみんなで一緒に食べながらお話をするんです。
そういう集まりが日本中のあちこちにできたらいいなと思いました。「誰でも入れますよ」というぐらいオープンになったら良いですよね。
編集部誰もが気軽に入れるというのがポイントだと思います。
くらたまそんな場所があったら、悩みがある人はそこに行って誰かに相談することもできますよね。
編集部高齢者の知恵や包容力をどうやって次の世代に繋いでゆくかということも重要ですよね。
くらたまそうですね。高齢者を中心とした場に若い人も出かけていって交流が生まれる…理想的な社会ですよね。
みんなで知恵を持ち寄るようにして社会の課題を解決していくことで、潜在的な課題の発見にも繋がると思います。
いつまでも若々しく生きる秘訣
編集部「素敵な年齢の重ね方」をされている方々にもたくさんご出演いただきました。倉田さんは、幸せに歳を重ねるためにはどんなことが大切だと思いますか?
くらたま好きなことを持ち続けることですかね。「歳だから」とあきらめないことだと思います。
編集部第28回で内館牧子さんは、54歳で大学に入学されたお話をしてくださいましたよね。
くらたまそうそう。いくつになっても未来に目標を持ち続けておられました。それに、内館さんは、お相撲が大好きなんですよね。「強烈に好きと思えるものがあるのは、何よりもの財産」だと思いましたね。あれだけ好きだともう手放しようがないもん。
身体がつらくなって好きなことを手放す人もいますが、それだと何も残らない。生きるハリもなくしかねないと思うんです。好きなことを手放すのではなく、乗り換えることもできます。
編集部自分の好きなものと一緒に生きていくというのは、理想の歳の取り方ですね。
くらたまそうですね。それから「好きなことがない」という人は、そこにあるのに気づいてないだけなのかもしれない。「面白そうだな」「素敵だな」と思っても、「もう年だからできない」ってその気持ちを打ち消しているパターンもありますから。
年齢を言い訳にせずにまずはやってみることって大事だなって思います。
私の知り合いに、51歳からピアノを始めて大好きになった人や、剣道を70代で始めた人もいます。実際にやってみると、一生の趣味になるということもありますよね。「もうこの歳だから」は封印しなきゃダメです。
編集部おっしゃる通りです。ご年齢を聞いて驚かれた方もいたのではないでしょうか?
くらたま毒蝮三太夫さんには驚かされましたね!第23回にご登場いただきましたが、80代というご年齢を全く感じさせなかった!ギラッとした男性的なオーラが出ていたんです。

「若さ」に溢れていましたよね。
くらたま男性性・女性性を大切にし続けることは必要だと思うんです。日本ではどうしても「いい年して」みたいに言われちゃうんだけど、全然そんなことはなくて。
むしろ若さを維持することで、認知症を予防することにも意味があるんじゃないかとも思います。例えば「恋する気持ちを忘れない」ということも大事です。恋をしたい人は、いくつになってもすればいいじゃないですか。
それを「そんな年になって恥ずかしい」とかいうのは、実にもったいないことだし、可能性を狭めていると思うんです。人間以外の動物って、生殖しなくなったら死んでしまう生き物ばかりですからね。人間だけがそこから切り離されるのもヘンだと思います。
編集部「こうすべきだ」という型にはめがちなのかもしれないですね。カテゴライズされることで、個性まで失われてしまう。そんな中で、第40回でご出演いただいた東海林のり子さんは、女性としての「ときめき」を大事にされ続けていましたよね。
くらたまそうですね。好きな俳優さんのお話をされていたとき、本当にキラキラされていました。すごく楽しそうだし、お話を聞いているだけでこちらも楽しくなってきちゃいましたよね。
くらたまのこれからのこと
編集部ズバリ、くらたまさんは今後どのように介護と向き合っていくつもりですか?
くらたま誰かを介護したり、自分が介護されたりする日が近づいているのは間違いありません。でも結局は、その立場にならないと、自分の感情の動きは想像できないと思います。
だから介護に直面する前に知識を整理しておこうと思うんです。家族以外の手を借りる場合はどういうケースがありうるかのか。今はインターネットで多くの情報が調べられます。それでも系統立てた知識がないと、いざというときの対応は難しいですよね。
現状がどうなっているか、もっとみんな知った方がいいと思いますね。前知識がなく突然介護の問題に直面するのと、困ったときに受けられるサポートを知って向き合うのでは、全然違います。
編集部おっしゃる通りですね。今後はどんなお話をお聞きしたいですか?
くらたま親子や夫婦での介護のお話はもちろん、いろいろなバリエーションのお話をお聞きしたいですね。
例えば、お笑い芸人をしながら介護職員をされていたさかまき。さんは、第49回でお笑いと介護の職業をされているからこその、認知症の方との「コメディ」に満ちた接し方について語ってくださいました。

当事者の方々のお話は貴重ですよね。
くらたま介護に対してネガティブな意見をもっている方のお話も聞いてみたいんです。やっぱり、しんどいときはしんどいでしょうし。介護離職された方も、喜んで仕事を辞めた…なんていう方はいないでしょうから。負の側面を語ってくださる方の声も聞いていきたいですよね。
- 人物撮影:丸山 剛史、荻山 拓也(毒蝮三太夫さん)

倉田真由美
“くらたま”の愛称で知られる漫画家。一橋大学卒業後に、「ヤングマガジンギャグ大賞」大賞受賞。2000年より週刊『SPA!』にて ダメ男(ダメンズ)に恋する女性を描く『だめんず・うぉ~か~』でブレイク。漫画の執筆活動をしながらも、テレビやラジオでコメンテーターとして活躍中。