執筆:阿佐木ユウ(フリーライター)
健康で長生きするためにすることと言えば何でしょうか?
「もっと野菜を食べなきゃ」「運動しなきゃ」「タバコも止やめなきゃ」……。多くの人は、そんな風に自分にルールを課しているかもしれません。

しかし、私たちの健康や寿命に「人間関係」が大きく関与している可能性がわかってきました。
肥満は感染する?
健康で長生きするために避けたいもののひとつ、肥満。太らないためには、脂っこいものや甘いものは控え、適度な運動をする、というのが常識でした。
実は、この肥満が、まるで感染症のように人から「伝染」しやすいことが明らかになったそうです。
米国ハーバード大学のニコラス・クリスタキス教授の研究によると、肥満の友達を持つ人が肥満になる確率は、通常より57%も増加することがわかりました。また、兄弟姉妹が太っていても40%、配偶者が太っている場合も37%、太る確率が増加すると言います。

つまり、肥満は身近な人からうつされるということ。
例えば会社で会うだけのような関係が薄い人よりも、家族や友達など社会的なつながりの強い相手に肥満者がいる場合のほうが、肥満がが「うつる」確率が高くなると言うのです。
もちろん、もちろん肥満を引き起こすウイルスが存在するわけではありません。
消費カロリーより摂取カロリーが多いから太るというメカニズムが比定されたわけではありません。しかし、太った兄弟と同量の食事をしてしまう、妻がデザートを食べるので夫も食べる、というように、身近な人のライフスタイルに似た行動をとってしまう結果、肥満が伝染してしまうと考えられます。
孤独はリスク?
さらに、人間関係は人の生死も左右するという研究もあります。

有名なのは、米国のバークマンとサイムという研究者による調査です。この調査結果自体は1978年に発表されたものですが、近年でもこれを基にした論文がいくつも発表されています。
バークマンとサイムの研究では、カリフォルニア州の男女およそ4700人を対象に、以下のことを9年間にわたって追跡しました。
「結婚しているかどうか」
「親族や親しい友人との付き合いがあるかどうか」
「宗教的な活動をしているかどうか」
「地域やボランティアなどで活動をしているかどうか」
すると、上記のような人間関係が少なく孤立している人は、そうでない人と比べて男性で2.3倍、女性で2.8倍も死亡リスクが高いことがわかったのです。
食生活や遺伝、運動、喫煙などだけでなく、人と人とのつながりの少なさが病気や短命のリスクになりうることが明らかになったと言えます。
男子校出身者は短命?
死をもたらしやすい人間関係について、より具体的な指摘もあります。
それは、「男子校出身者は早死にしやすい」ということ。
前述のクリスタキス教授らの研究によると、男子校出身者は共学校出身者と比べて65歳以下で死亡する可能性が高いことが判明。
男子校出身者は女性と出会う機会が少なく、未婚で孤独になりやすく、また男子校で女性をめぐって争ったストレスが後々にまで健康に悪影響を与えると言います。
実際に日本でも、男子校出身者は共学校出身者に比べて女性との交際経験が少ないという報告があるほか、イギリスでも男子校出身者は42歳までに離婚や別居に至る確率が高い傾向が明らかになっています。
人間関係が寿命に与える影響
このように、人間関係や人とのつながりは、想像以上に健康や寿命に大きな影響を与えているようです。「じゃあ、SNSでたくさんつながればいいのでは?」と思いたくなりますが、残念ならオンライン上の人間関係は現実のそれほど影響を与えないそうです。

いずれにしても、まずは自分が心身ともに健康になり、その影響で周りの人も健康で長寿になる──そんな素敵な人物を目指したいですね。

<参考>
●「The Spread of Obesity in a Large Social Network over 32 Years」http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsa066082
●「社会的サポート・ネットワークと健康」(PDF直リンク)
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19761306.pdf
●「大学生を対象とした出身高等学校の共学・別学体験に関する質問紙調査 」(PDF直リンク)
http://www.i-repository.net/il/cont/01/G0000155repository/000/006/000006415.pdf
●『つながり』著者ニコラス・クリスタキス教授インタビュー
http://diamond.jp/articles/-/9592?page=3
●「友だちの数で寿命はきまる 人との『つながり』が最高の健康法」
(石川善樹著、マガジンハウス刊)