この国の市場や経済に成長可能性はあるのか。いわば投資における“日本の未来”を有識者が占う連載「日本経済Re Think」。
「東証はもっと個人投資家の味方をしてほしい」。取材の中でテスタ氏が再三投げかけたのは、この言葉だった。そして個人投資家を支援していくことが日本の未来にもつながると話す。その真意はどこにあるのか。テスタ氏の考えに迫った。
僕らは置き去りにされていると感じることも
「いつも東証に厳しいことを言う流れになってしまい、すみません。決してそんなつもりで来たわけではないんですが」
帰り際、テスタ氏は苦笑いを浮かべながらこんな言葉を口にした。
今回の取材は「東証はもっと個人投資家の味方をしてほしい」というテスタ氏の考えを聞くところから始まった。その話が出たきっかけはこんなものだった。
本連載「日本経済Re Think」では、日本の未来についてさまざまな有識者に尋ねてきた。ファンドマネージャーや経営者、学者などがその例だ。一方で個人投資家の登場は今回が初めて。
「この企画に限らず、東証の取り組みで僕らのような個人投資家があまり出ないのは不思議だなといつも思うんです。一番関わりがあるのは個人投資家のはずなのに、なぜなのかなと。例えば東証の取引ルールに変更があるときも、僕ら個人投資家からすると“いつの間にか変更が決まっている”という印象で。さまざまな有識者や証券会社に意見を聞いていると思うんですが、同じく個人投資家の意見をじっくり聞いたという話は耳にしたことがなくて。置き去りにされているのかなと感じてしまうんですね」
今はSNSでも手軽に個人からアンケートを取れる時代。「コストをかけずに個人投資家の声を聞ける方法があるのだから、そういう取り組みをどんどん増やしてほしい」と伝える。
こうした考えの背景には、機関投資家の方が資金もシステムも潤沢だからこそ、個人投資家の声をもっと聞いてほしいという思いもあるという。
「プロの機関投資家の中には、アルゴリズム取引やフラッシュトレードなど、コンピュータを使った特殊な取引をしているケースが多々あります。フラッシュトレードなどは、人間には出せない速さの注文をしていて、ほとんど負けないと言いますよね。半年で一度だけ負けたという記事を見たこともある。僕ら個人にはできない取引です。
かつてのように、ワクワクする企業が日本に増えるには
テスタ氏があえてこうした言葉を口にするのは、個人投資家の代表として意見を伝えなければならないという責任感から。そしてもうひとつ、個人投資家の環境が良くなり、投資人口が増えれば、日本の経済にもプラスになるのではという期待がある。
「貯金だけでなく投資をする人が増えれば、それも日本の個別株に投資する人が増えれば、広い意味で企業に流れるお金は大きくなるでしょう。その結果、新しい企業が芽を出し、世界に進出するまでに育つかもしれません。大前提として投資をする人が増えれば、日本としても良いサイクルになると思っています」
取材で日本の現状を聞いたとき、テスタ氏は「若いカリスマ経営者や、ワクワクするような企業が出にくくなっている」と語った。それが日本の大きな課題だとも指摘する。
「日本で新しい技術やビジネスを生み出しても、誰かに足を引っ張られたり、一度の失敗で徹底的に責められて再チャレンジできなかったり。そういう事例が増えている気がします。すると新しい挑戦をする人が育たないですし、あるいは萎縮して挑戦できないことも多いのかなと」
その状況を変えるため、若い企業や経営者を支援していくことが重要だという。個人投資家が増えることは、そうした未来につながる可能性もある。
「これからの日本は、既存の大企業にはできない新しい発想やスピード感を持った人を伸ばしていくことが大切だと感じます。この国から『世界を変えられる』と思う若者をどれだけ増やせるか。それができなければ日本の未来はないと思います」
なぜテスタ氏は「日本株」への投資が一番良いと考えるのか
日本に投資家が増えることにより、国内の産業にお金が流れ、新しい企業や経営者が育つ。
その状況について、テスタ氏は「仕方ない部分もある」と冷静に分析する。
「日本の人口減少が進むのは間違いなく、GDPの順位も落ちている現状を見ると、海外に投資したくなるのは自然でしょう。今の日本には魅力がないと感じるのも無理はないと思います」
ただ一方で、テスタ氏自身は日本株をメインに投資を続けてきた。それは今後も変わらないという。一体なぜか。
「理由は単純で、日本に住んでいるなら日本株をやるのが利益を上げる可能性が一番高いと思うからです。僕らは投資で利益を上げるのが仕事で、そのために20年間いろんなことを試してきました。その結論として行き着いたのが、日本に住むなら日本株をやることです。もし僕が米国株を中心にするなら、まずはアメリカに住もうと思います。
日本企業の決算資料を見ても、日本人だから分かる言い回し、日本人だから読み取れる事業の状況もある。加えて災害時の投資判断も、現地に住んでいないとつかめないことがあるとテスタ氏は言う。
「例えば海外で災害が起きたとき、その状況はニュースを見て把握するほかありません。でもその情報では、現地の被害の様子や、日常生活に戻るまでの時間、人々の心持ちといったことはつかみきれないと思います。そういった不確かな情報で外国株に投資するのはリスクではないでしょうか」
こうしたことも含めて、日本に住んでいるなら日本株をやるのが一番利益を出しやすいとテスタ氏は考える。国内への投資をメインにする背景にはそんな理由があった。
日本で投資をする人が増え、それにより企業や経営者がバックアップされていく。そういった未来を考える上で、テスタ氏はここに来て“追い風”も感じている。
「この前テレビのクイズ番組に呼ばれたのですが、驚いたのは19時台に流れる番組だったこと。投資家というイメージからか、これまで21時より前の番組に呼ばれたことはありません(笑)。しかもそのクイズ番組は小学生と共演するものでした。僕らの世界から遠い存在ですよね。
こういう動きも起きているからこそ、東証には「今後ますます個人投資家や子どもたちに目を向けてほしい」と伝える。そうして投資に親しむ人を増やしていけるか。これこそが、日本の未来のために大切なステップだとテスタ氏は考えている。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2024年10月現在の情報です