「DIE WITH ZERO」――世界的ベストセラーとなっているビル・パーキンスの著書で説かれている考え方で、「若いうちから惜しみなく経験や思い出にお金を使い、お金を残さずに最期を迎える」というもの。
ただ、寿命は誰にもわからず、高齢になると病気やケガの心配も増すため、ついお金を貯め込んでしまいそうになる。
70歳以降も投資を継続。“運用しながら取り崩す”が基本
「準備編でお伝えしたように、まずは70歳に向けて、『もしものための現預金』と『投資資産』を築きましょう。60代までは、資産を取り崩すとしても投資の年間利回りの範囲にとどめ、資産を減らさないことが大切です。70歳になったら、本格的に資産の取り崩しを考え始めましょう」(頼藤さん・以下同)
ポイントは、70歳以降も投資を継続すること。運用しながら取り崩すことで、資産がゼロになる「資産寿命」を延ばすことができるからだ。定年前後の投資は「コア・サテライト戦略」の資産配分がカギになるという。
「投資資産を『コア』と『サテライト』に分ける手法です。資産の7割以上を『コア資産』として、安定的な成長が見込まれる資産で運用します。残りの3割以下は『サテライト資産』として、積極的に運用する資産に投資しましょう。ただし、定年後は『サテライト資産』は少なめのほうがベターです」
一例となるが、「コア資産」としては安全資産と呼ばれる現預金や国債、安定成長が期待できるインデックスファンドやバランスファンドなどが候補に挙げられる。一方、「サテライト資産」は株式やアクティブファンドなどのイメージだ。
「70歳が近くなったら、『コア資産』の一部を『キャッシュフローを生む資産(CF資産)』に変え、基本的には生涯保有し続けることを考えてみましょう。『CF資産』とは、高配当株や債券、REIT(不動産投資信託)など、定期的に配当金や分配金などを得られる資産のことです。定年退職で労働収入がなくなっても、配当金などの収入が得られるため、日々の生活が安定しやすくなり、資産を増やせる可能性も出てきます」
資産を取り崩す際も、適当に行えばいいわけではないとのこと。
「リスクの高い『サテライト資産』から取り崩していきましょう。値動きの大きな資産は値下がりのリスクも大きいため、価格の回復に時間がかかることがあるからです。相場のいいタイミングで優先的に売却することを考えましょう。その後、『コア資産』『安全資産』の順番で取り崩していくイメージです」
資産の取り崩しの基本は「前半定率・後半定額」
投資しながら取り崩すというベースはわかったが、いざ取り崩す際は、お金が必要になった分だけ取り崩すような形でいいのだろうか。
「資産の取り崩しの基本は『前半定率・後半定額』です。『定率』とは、『毎月資産の○%ずつ』のように毎月一定の割合で取り崩すこと。『定額』とは、『毎月○円ずつ』のように毎月一定額を取り崩すことです」
●定率取り崩し
取り崩し額が引き出すタイミングによって変わるため、計画を立てづらいというデメリットはあるが、割合で見ていくため資産が減りづらく、「資産寿命」が延びる。
●定額取り崩し
取り崩し額が一定となるため、生活費の目途が立ちやすくなる一方、「定率取り崩し」と比べると資産が減りやすい。
頼藤さん曰く、「健康で元気な老後の前半は『定率取り崩し』、後半は『定額取り崩し』がマッチしやすい」とのこと。
「70歳以降も運用を継続するということは、資産の値動きによって資産残高も変動することになります。例えば、2000万円の資産を10年にわたって『定額取り崩し』で年間160万円ずつ取り崩すとします。平均収益率4%で、前半に収益率が高いパターンと後半に高いパターンを比べると、10年後の資産残高に500万円ほどの差が生じるのです。一方、『定率取り崩し』であれば、収益率の高さに関係なく、10年後の資産残高は同じになると考えられます。『定率取り崩し』だと、収益率の高いときは取り崩す額が多くなり、収益率が低いときは少なくなるからです」
だからといって、ずっと「定率取り崩し」を続けていると、いつまで経っても資産はゼロにならない。ある程度のタイミングで「定額取り崩し」に切り替えることで、資産ゼロを目指すことができる。
「資産が半分くらいに減ったら、『定額取り崩し』に変更することをおすすめします。後半は取り崩す金額を維持して安心感を得ながら、最後まで資産を使い切ることができるでしょう」
「投資資産」を90代前半まで取り崩すイメージ
資産を取り崩す際の割合や金額は、どのように考えていくといいだろうか。
「資産額や働き方によって変わりますが、65歳で退職した時点で資産1500万円を築いた人のケースで考えてみましょう。65歳から受け取る老齢年金は手取り月15万円とします。資産の内訳は『もしものための現預金300万円』『CF資産300万円』『投資資産900万円』で、『投資資産900万円』を取り崩していきます。その間、運用利回り・配当利回りともに年4%と仮定しましょう」
年利4%で運用しながら、投資資産900万円を取り崩していく場合、前半は1年ごとに定率8%で取り崩し、資産450万円を切った辺りで定額年50万円ずつ取り崩していくと、92歳まで老齢年金なども含めた手取り収入約20万円を得ることができる。
「92歳以降取り崩せる投資資産はなくなりますが、『もしものための現預金』『CF資産』は手元に残るので、長生きしたとしても焦ることはないでしょう。もっと資産が多かったり、65歳より長く働いたりすれば、さらに資産寿命は延びます。労働収入があれば、老齢年金を繰り下げて受給額を増やすこともできますし、何より働くモチベーションによって健康にもプラスの影響が出る可能性があります。元気に体が動くのであれば、長く働くことも考えましょう」
ちなみに、金融機関によっては「定率取り崩し」「定額取り崩し」を自動的に行ってくれるサービスを導入しているところが出てきている。
「楽天証券の『定期売却サービス』では、毎月0.1%以上0.1%単位で定率取り崩しを行う『定率指定』、毎月1000円以上1円単位で定額取り崩しを行う『金額指定』から選択できるので、『前半定率・後半定額』を実践しやすいでしょう。SBI証券の『投資信託定期売却サービス』は定額取り崩しのサービスですが、2025年中に定率取り崩しにも対応する予定と発表されています」
70代というとまだ先の話と感じる人は多いかもしれないが、取り崩し方を把握することで、老後の生活費を想像しやすくなるだろう。いまのうちから、なんとなくでも考えておくことが大切だ。
(取材・文/有竹亮介)