午前8時半発、JR山手線品川・東京行きの電車に僕は乗っている。「歩く機械」達に混ざってあの乗り物に乗ることがとても苦手な自分にとって、不思議な感覚だった。

遊園地に行く前日のように眠れなくて、それすら楽しくて。新しい何かを見つけることができそうな気がする、ワクワクした時間。というのも、初めて少し自分に似ていると感じたダンサーの男の子を迎えに行くためだ。到着した東京駅は、彼の同志のような存在と「歩く機械」が混在している。夢を抱え、それをスーツケースに積み込んで地方からやってきた若者。電車という名の人間貨物車両で運ばれた会社員。そして、夢と希望に溢れた彼を待つ僕。 トランプ大統領が来日するからなのか、ヘルプで呼ばれたであろう警備員も点々と立っている。

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とってもカオスな地下街改札口で落ち合った彼は「人多すぎひん?」と、先程見かけた若者とは違うサイズの大きな黒塗りスーツケースを持って現れた。数ヶ月前にrooms*1という合同展示会で会った彼は、一際浮いていた。目がとっても、暗くて、でも、明るくて。なんとも言えない表情をしているのだ。

そんなところが、僕と似ている。「早く上京しなよ」と提案して、5月末に彼は東京に関西から上ってきた。夢を掴むために。ダンサーとして、花を咲かせるために。でも、そんな夢を壊すような社会とこれから戦わなくてはならないのだ。正しくは、仲間になるために話し合わなければならないのかも知れない。

(*1)年に2回開催される日本有数の大規模な展示会

夢を追う人に厳しい社会で僕がメディアに出るわけ

そうやって、夢を持って東京に来ても家を貸してくれないことも沢山ある。僕なんか、「ゲイっぽい見た目をしているから気持ち悪い」と、入居審査を落とされたことだってある(これは他の機会で詳しく書くつもりだが)。令和元年、今までで一番空き家があるはずなのに、どんどん「国民としての最低限度の生活」をすることを許してくれない社会が存在する。LGBTキャンペーンや、多様性を謳った広告が増えているから、寛容になっていると世間は思いがちだがそんなことはない。あれは、ビジネスの道具でしかないのだ。お金を稼ぐためのおもちゃだ。本当は、もっと黒く塗りたくられた、隠された東京が存在する。

「夢を追う人」に厳しい世の中で、僕がメディアに出るわけ|清水文太の「なんでも」#003

年金制度もいつか崩れる。憲法だって変わるかもしれない。僕らが当たり前に過ごしている日々が、とても怖い銃によって壊されるかもしれない。そんな部分を見えないように、黒くするための「絵の具」として役割を持つメディアにも、僕は出ている。こんなふうに、文字も綴って世の中に出している。理由は「夢」「本当のこと」を忘れてほしくないから。本当に大事な、大切な人たちの笑顔を、僕自身心に留めておきたいから。カラフルな絵の具を持って、黒く塗られたキャンバスを明るくしたいから。

夢を諦めないように、黒く塗りつぶされないように

皆、夢は持っているのだろうか。キラキラした心は、忘れていないのだろうか。映像をやりたいと言っていた友人。音楽を続けたいと言っていた友人。

モデルをやりたいと言っていた友人。みんな、諦めた。社会の中に溶け込まなければならないという観念があるのだろう。 それも間違いじゃない。いくらでも、夢は追いかけられる。でも、それで「夢を諦める」ということはしないでほしい。「夢を持つ」ことに罪なんてないから。追いかけることだって悪いことじゃない。スタートラインに立って、走って転ぶことだって、走り抜けることだって、フライングさえしなければ誰も咎める権利なんてないのだ。

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僕自身、十代の頃からいきなり仕事をしようと決断したとき、新しい仕事を始めるとき、決まって沢山の意見をもらった。「学歴もないくせに。ブルーワークしか所詮できない」とかスタイリストを始めたときも「アシスタントにほぼついてないのに、そんな資格はない」と言われたり。

最近は音源も作っているのだが、送った楽曲を完全に無視されたりする。「ファッション被れが曲を作っている」と。「夢も希望もない社会だ」と、“大人”の仮面をかぶったフラストレーションだらけの人間の言葉が襲いかかることもあった。でも、いい言葉もかけてもらえるのだ。「応援してます」「文太くんのおかげで生きる希望が持てました」「ありがとう」って。それ以上の言葉はない。

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マイナスな言葉もアドバイスでしかないのだ。人に喜んでもらったときなど、プラスの言葉を飲み込もう。いくら、だめと言われても。やっちゃだめと言われてもどこかに認めてくれる人はいる。それが一人でもいいし0でもいい。自分が、いいと思ったらその数字は1になるから。

夢を追いかけて成功しても、失敗しても、誰のせいでも、他人のせいでもない。僕の息は、僕にしかできないように(医療技術で人工呼吸をすることもできるが)自分の選択は自分にしかできないのだ。そもそも、正解なんてないのかもしれない。生きている中でいつ死ぬかわからないのに、なにが正しいかなんてわからない。なぜなら、僕らは死んだことがないから。多様性を謳った広告だらけの東京で、家を借りられない、思ったことができない。マイナスな言葉をかけてくる人。夢を捨てろという大人。夢を追うことへの「偏見」にまみれた東京とのギャップに負けちゃいけない。でも、逆らっちゃいけない。「歩く機械」も、夢を持つ者も元はみんなただの同じ人間なのだ。みんな、仲良くなればいい。
話し合って、どんなにわかりあえなくても「まあ、こいつがいても生きていけるか」といい意味で諦められる社会がいい。誰を恨むわけでもなく、誰を怒るわけでもない。誰かを喜ばせて、誰かと共存できる世の中を作ればいい。それが、幸せだ。「家族や友人を喜ばしたいんよね、せっかく東京に来たし。たくさん稼ぐでー!」と駅のホームで叫んでた彼は、カラフルな絵の具を持って、筆を持ち、社会を明るくしてくれると確信した。彼の持ち運んでいた黒いスーツケースが、不思議ととってもカラフルに見えた。夢がたくさん詰まっている。希望が溢れている。そんな彼の笑顔とともに、僕はしばらく生きるようだ。彼の心が黒くならないように、僕の心が黒くならないように 色を与え合う。助け合って、生きていく。それを、周りに分けるんだ。それが、僕の仕事なんだ。進もっと。清水文太

Bunta Shimizu(清水文太)

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19歳にして水曜日のカンパネラのツアー衣装を手がけ、モデルとしてdoubletやMIHARA YASUHIROのショーにも出演。その活動の他にも『装苑』やウェブマガジンでのコラム執筆の他、渋谷TSUTAYAでのデザインディレクション、ギャラリーでのアート展示などを開催。スチャダラパーBose・ファンタジスタさくらだ夫妻、千葉雄大などのスタイリングも。88rising所属JojiとAirasiaのタイアップMVにも出演。RedbullMusicFesでのDJ・ライブ出演など音楽活動にも精力的に活動を始めている。アーティストとして多岐にわたる活躍を見せている。

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