近年、「退職代行」の利用者が増え、“リベンジ退職”や“静かな退職”など、退職にまつわる話題も増えています。人材確保に向け、大手企業を中心に初任給の大幅な引き上げを行うなど各社躍起となって動いています。
一方、中小企業においても賃上げの波は見られるものの、原資の確保などが課題となり大手企業と比較すると停滞気味。人手不足や退職、賃上げ、社員のモチベーション低下など中小企業が抱える課題は多岐にわたります。こうした中で人材確保・定着に向けてカギとなるのが『人事評価制度』。どんな仕組みが必要となるのでしょうか?
日本人事経営研究室株式会社が行ったラウンドテーブルをもとに解説します。

退職理由、社員と経営側の見解にギャップ!退職者は「将来性」を重視
新年度スタートから約2カ月。すでに新入社員の退職者が出てしまっている企業も多いのでは。近年話題の「退職代行モームリ」の新卒月別利用者数も4月に入社して少し経った5月~8月が多い傾向にあるとのこと。新卒の3分の1が退職するといわれていますが、退職の理由はどんなものがあるのでしょうか。



日本人事経営研究室が独自に行った調査によると、退職者側(転職経験のある社員)・経営側(経営者・人事担当者)にそれぞれ退職理由について聞いたところ、その意識にギャップが見られました。

※退職者側(転職経験のある社員)への調査


退職者側は、1位「職場環境(人間関係、労働時間など)」が39.0%、次いで2位が「給与や待遇への不満」が38.0%を占め、こちらは想定通りといえますが、注目したいのは3位以下。「会社や自分の将来性に不安を感じた」が30.0%を占めました。

※経営側(経営者・人事担当者)への調査


一方、経営側に社員が退職する理由を聞くと、「給与や待遇への不満」が49.0%と約半数を占め、退職者側で3割を占めた「会社や自分の将来性に不安を感じた」という回答は18.0%にとどまりました。
また、「わからない」という回答が20.0%を占めています。

経営側は企業のビジョンや将来性は退職にあまり影響していないと考えているものの、社員側は将来性を重視する人が一定数存在し、その見解にはギャップが…。
この隔たりが離職につながる要因のひとつともいえそうです。


中小企業は経営計画・人事評価基準が明確でない場合も?将来性を示すことが重要に
※経営側(経営者・人事担当者)への調査


「会社や自分の将来性」を重視する社員の定着のためにも、重要となってくるのが「経営計画」や「人事評価制度」。実は大企業ではあたりまえに示されている経営計画や人事評価の基準が、中小企業においては明確に提示されていない場合も多いそう。

日本人事経営研究室の代表取締役・山元浩二氏は「経営計画を通じて、自社の存在意義はなんなのか、会社はどう成長していくのかを長期ビジョンで示すことが大切」と話します。また、人事評価制度についても同様。中小企業では昇進・昇格・昇給・賞与などの基準が明示されていない場合が多く、社員自身が成長できているのか、会社に貢献できているのか、どうしたら昇給・昇進につながるのかなどが分かりづらいためモチベーションにつながりにくい状況があるといいます。


賃上げにも課題あり…「経営計画」で将来の人件費を明確化

中小企業の人材確保において「賃上げ」も課題のひとつ。原資が確保できず賃上げに踏み切れない企業も一定数存在します。賃上げが実現できない原因のひとつは経営の先行きが不透明なこと。「どうやったら昇給するのか」「いつどのくらい稼げるようになるのか…」、社員の将来への不安にも直結する問題です。

賃上げにおいても「経営計画」は重要なポイントとなります。経営計画の中に売上目標や人件費などを盛り込むことで、先々会社がどう成長していくかを具体的に示すことができます。

山元氏は「社員は経営計画をみれば、人件費が将来どう増えていくかがわかる。(目標を達成すれば人件費が上がることが分かるので)賃上げのために、目標達成していこうよという意識につながる」といいます。


与えられた以上の仕事はやりたくない“静かな退職者”は約半数
※経営側(経営者・人事担当者)への調査


中小企業の人材定着において、モチベーションの維持も課題となっています。日本人事経営研究室の中小企業の経営側(経営者・人事担当者)を対象にした独自調査で、「静かな退職者(退職しないけど仕事に対する熱意を失う、与えられたこと以上のことはやらない社員)」が会社のなかにいるかを尋ねたところ、なんと47.0%が「いる」と回答。さらに社員の7割が「与えられた仕事以外はやりたくない」「仕事をたくさん振らないでほしい」と回答しています。

※退職者側(転職経験のある社員)への調査


その理由として、「業務量がすでに多くて手いっぱいだから」が42.9%を占め、次いで「努力しても報酬に反映されないと感じるから」が37.1%、「努力しても評価に反映されないと感じるから」が35.7%を占めました。さらに、6割超の中小企業が人事評価制度を導入していないことが明らかになっています。

社員は評価や昇給を重要視しているにもかかわらず、人事評価制度が導入されていない状況では、社員がモチベーション向上にはつながりません。人事評価制度が人材定着のためにいかに重要かがうかがえます。


課題解決に向け、「会社のビジョン・将来性」「人事評価制度」の見える化がカギ
日本人事経営研究室の独自調査などからもわかる通り、中小企業が抱える退職・人手不足、賃上げ、モチベーション低下の課題解決のためには、「会社のビジョン・将来性」や「人事評価制度」の見える化がカギとなります。

そうはいっても、中小企業の多くが明文化してこなかった経営計画や人事評価制度を導入するには手間も時間もかかります。そこで活用したいのが、日本人事経営研究室が提案する『ビジョン実現型人事評価制度R』。


経営計画を一枚のシートに落とし込んだもので、会社がいつどこまでどうやって成長するのか、そのためにリーダー・社員はなにをすべきなのかを具体的に示します。さらに、人事理念や人材の成長目標を盛り込んだうえで、経営計画を実現するための「戦略・アクションプラン(戦略実行計画)評価制度」を作り、PDCAを回していきます。

『ビジョン実現型人事評価制度R』を導入することで、経営計画に基づいた人事評価制度が一目でわかるため、社員のモチベーション向上や業績アップにもつながります。山元氏は「ビジョンを社員全員で共有して自身の役割を認識することがスタート。社員のベクトルが揃って推進力が大きくなり成果に結びつく」とコメントしています。


『ビジョン実現型人事評価制度R』導入で売上が3.7倍に成長した企業も

『ビジョン実現型人事評価制度R』を導入して売上が3.7倍に成長した企業も。プロ用の中古電動工具専門店などを展開する株式会社アクトは、代表取締役の伊藤啓介氏が2代目として向上を継ぐころ、30人いた従業員が17人退職するという危機的状況に陥っていました。

そんな時、山元氏が書いた『小さな会社は人事評価制度で人を育てなさい!』という一冊の本に出会ったといいます。“評価制度は仕組みとして社内に浸透させるべき”という考え方に共感。人事評価制度の見直しがスタートしました。

まず着手したのが「事業を通じてお客様に幸せをもたらす」という経営理念を「人格・人徳」の形で明文化して評価制度に盛り込むこと。

評価制度に「素直と謙虚」「責任感」「向上心」という項目を盛り込み、数値や能力だけでなく人格面を重視することを見える化。そうすることで経営理念が社員に浸透しやすくなったことに加え、目の前の数字の目標を達成するだけでなく、“自分を成長させなければ”という社員も増え、明らかに社風が変わっていったといいます。

加えて、面談の方法も見直したそう。社員の良かったところを承認しながら伝え、評価項目に沿ってどうしてこの評価になったのかを丁寧に説明する。さらに改善点を伝えるフィードバックも行い、どうしたら昇進・昇格できるかについても伝えるというやり方に。そうすることで、面談が指導の場でなく成長支援の場として変化したといいます。

導入前は離職率52%だったにもかかわらず、現在は社員定着率なんと95%を達成。
さらに、導入した2012年から売上は3.7倍にも成長しました。


人事評価制度は人材定着のための多岐にわたる課題の“特効薬”に
こうした実例を見てもわかる通り、人事評価制度は社員のモチベーション向上や業績アップを実現するための大切な仕組み。退職や人手不足、賃上げ、モチベーションの低下などに課題を抱える中小企業は、社員や社風を変革させる“特効薬”となり得る「人事評価制度」を今一度、見直してみる必要があるかもしれません。




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