「失敗から学ぶ移住術」とは……中古の一軒家を購入し、DIYでのセルフリノベーションを実施したフォトグラファー、山本 大さん。ここまでは物件を手に入れるまでを追いかけてきたが、そのあとは気ままにDIYを楽しむだけかというと、実はそうでもない。
ついでにCheck!▶︎
構想2年、購入1年。「DIYリノベーション一軒家」の理想と現実▶︎
一軒家DIYリノベの落とし穴。物件探し&契約時にチェックすべき4項目今回は、購入後に注意しておきたいセルフリノベーションの落とし穴を。
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山本 大●写真家、有名撮影スタジオ勤務後、清水将之氏に師事しその後独立。以後、『OCEANS』をはじめとする数々のメディアや広告などで活躍。また、父の影響からDIYにも積極的で、旧宅では愛犬用にとリビングの床をすべて自らの手で無垢材に張り替えるなど、プチDIYリフォームの経験者でもある。
建築士選びのポイントとタイミング
山本さんが購入した物件。前に広い庭と山林が広がる自然豊かな一軒家だ。
数多の中古物件に足を運び内見を繰り返す中で、幸運にも、理想に近い物件と良心的な不動産業者に出会うことができた山本さん。とはいえ、ここからすべきことはまだまだ山積み。まずは、耐震性や地盤の強度といった安全面のチェック、リノベーションの方向性などを相談すべく、建築士のもとへと向かうことに。「ネットで探してみると、無料で相談にのりますという建築士さんは多いです。そこで相談した最初の方はピンとこなかったので、もうひとり話を聞き、計2名の方に相談しました」。
早く着工したかったこともあり、ふたり目の方に依頼するが、これがフラストレーションを溜め込むことに……いったい何が?
「自分の場合は、やれるところは極力自分たちでやりたい。一から十までお願いしたいわけじゃなく、耐震、地盤といった安全面を見てもらうこと。そして
予算内で理想のカタチに近づくためのプロならではのワザといいますか、代替案といいますか、とにかくアイデアが欲しかったんです」。
山本さんはあらかじめ予算を伝えたうえで、薪ストーブを入れたい、吹き抜けにしたい、1階の半分をスタジオとして使いたいため床をモルタルにしたいなどの希望を相談。しかし、
最終的な見積もりを見ると余裕で予算オーバー。思うような代替案も得られず、理想とはいささか異なる結末となった。「お金に糸目をつけない人なら違ったのかもしれませんが、いかんせん予算には限度があるじゃないですか。なので、その
予算の中でどう理想に近づけるかのアプローチ方法やアイデアは、やっぱり相性があります」。あとになって
SNSなどでリサーチをかけてみたところ、物件を探す段階から建築士とパートナーシップを結んでいる人も少なくないことが分かったという。
「最初に建築士さんを探して話し合い、そこから物件にアプローチしている方が結構いるんです。僕らは、その土地をよく知る方を選んだことについては間違っていなかったと思います。地盤のこと、住環境のことなど、やはりその土地をよく知る人の方がアドバイスは的確で早い。ただ、
順番を間違ったんですよね。物件を決める前に、まずは建築士を決めるべきでした。それがおそらくいちばんスムーズでストレスもない方法だったと思います」。
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DIYの建材は惜しまず、道具は賢く
物件購入後、安全面のチェックやライフラインといった周辺を整えた山本さん。素人ではなかなか手を出しづらい階段などは工務店に任せ、自分たちがまず着手したのは屋内の壁である。「湿気への対策や飼っている犬のことも考え、壁は漆喰にしようとは妻と話していました。ただ、プロが塗るわけじゃないので、まあ無駄がたくさん出るわけです。その辺りも視野に入れ材料を発注しました。数にすると18㎏ほどで段ボール約30箱分。業者に依頼して運んでもらいましたが、それにもやはりお金はかかる。
予定外の出費は思いのほか大きかったですね」。
たくさんの資材は未着手の1階に保管していた。
とはいえ、一文惜しみの百知らずでは結果、家族にとって不利益と判断。特に、素材選びにはことさら気を遣ったとか。
自分で塗った漆喰。ムラも味わいだ。
「子供のアレルギーやいわゆるシックハウス症候群などが、家の壁を全部漆喰に塗り替えたらよくなった、なんて例もあるらしいですね。ただ、ひとえに漆喰と言っても、物によって値段も全然違いますし、安い漆喰は、ほぼ漆喰としての機能がないとも聞くんですよ」。
漆喰はロハスウォールで購入。
「なので、選ぶ際には多少金額は張りますが、安全性の高いものを使うことをお勧めします。昨今の社会情勢も踏まえ、
木材だとかあらゆる資材が高騰していますけど、ここで出し惜しみすると先々もっと大きなしっぺ返しを食らうような気がします」。
電動ドライバーは必須アイテム。
そしてDIYの作業に関しては、道具を賢く使うことも重要だと言う。「例えば、100平米ぐらいの2階の壁に漆喰を塗るだけで、養生、1度塗り、2度塗りと約1カ月かかりました。漆喰はコテを使って手で塗るしかないので、最初は全然うまく塗れないし、進まないし、泣きそうになってましたよ(笑)」。
なので、
電動工具などでラクができる部分は、できるだけ使ったほうが良いとも。「今回も、電動のドライバー、サンダー、カッター、ジクソー、草刈機などは、バリバリ活躍しました。これを電動を使わず手でやってたと思うと、ちょっと気が遠くなりますね。
僕は以前にもDIYをしたのでいくつかの工具を持っていたり購入しましたが、
大型ホームセンターなどにいくとレンタルサービスなどもあるので、使える電動工具はできるだけ使うことをオススメします。効率が全然違いますよ」。
床に開けた穴を利用して木材をカット。
さまざまな道具を使いこなす山本さん、DIYのやり方やノウハウに関してどのように学んだのだろうか。
「漆喰の塗り方は、購入したお店で無料講習がありました。資材や工具を購入するホームセンターとかでも、聞けば教えてくれると思いますよ。あと、細かいところでわからなくなったときの解決方法や上手なやり方は、ほとんどがYouTubeに上がってますよ(笑)。僕もことあるごとに見てます」。
いちばん大事なのは「完璧を求めない」「楽しむ」
山本さんは、床もすべて自分で無垢材を張っている。「当初には木目がきれいで耐久性、耐水性もあるオークを想定していましたけど、実はDIYで加工しようとすると、オーク材って堅くて加工しにくく、キリでネジ穴をあけるのにやたら時間と労力がかかる。なので最終的にボルドーパインにしました」。
山本さんが選んだパイン材。
経年変化も楽しめる。「パイン材は、最初は明るく白っぽいですが、時を経るごとに飴色になり重厚感が増していく。しかも、柔らかく加工しやすい。ただ、柔らかいので傷もつきやすい。気になる人は気になるかもしれませんが、まあ僕はそれも味だと思って気にしません」。
素材にも、DIYの施工方法にも、さまざまな種類があり、もちろんそれぞれに一長一短がある、その中で山本さんは
「DIYでいちばん大事なことだと思いますが」と語るのが、完璧を求めないことだという。
「セルフリノベーションは、自分の理想を実現したいという思いが強いとは思いますが、個人的には、
完成像を強くイメージして挑まないほうがいいと思います。想定外のことがいろいろ起こりますから、もう気になりだしたらキリがありません(笑)。ストレスを溜めながら作業していては全然楽しくないですよね。完璧を求めるなら、もちろん専門業者にお願いしたほうが断然いい。プロじゃない分、やはりアラは出てきますから、無理に『こうじゃなきゃ!』と決めず、
素材選びも、DIY作業もとりあえず自由に楽しんだほうがいいです。後々やっぱりああしたい、こうしたいと思ったときにまた変えていく。
それがセルフリノベーションの醍醐味だと思います」。
◇物件探しに建築士選び、DIY作業、セルフリノベ経験者の金言は、きっとこれからチャレンジしたいと考えている人たちの助けとなるに違いない。先人が実体験から語る落とし穴や失敗を参考に、完璧じゃなくても、自分や家族が楽しめる移住DIYを実現していただきたい。